俺が殺した男の娘が、目の前に現れた。少女の目的は復讐? 加害者と被害者の娘を巡るヒューマンサスペンス

マンガ

公開日:2023/6/15

最果てに惑う
最果てに惑う』(モモヤマハト / ヒーローズ)

 殺人犯と被害者を題材にした作品は、スリリングな復讐劇や双方の駆け引きなどが見どころになっていることが多い。だが、『最果てに惑う』(モモヤマハト / ヒーローズ)は斬新な角度から、殺人犯と被害者家族の数奇な交流を描いたヒューマンサスペンスだ。

 本作は、漫画サイト「コミプレ」で配信中の注目作。消せない罪を抱えながら、生きる意味を模索する殺人犯の心理描写にも引き込まれる作品となっている。

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■目的は何か?刑期を終えて出所した青年の前に“かつて殺した男の娘”が…

 最愛の妹・由里を自殺に追いやった塾講師を殺害した和久一馬は、7年の刑期を終えて出所。だが、刑務所で罪を償っても人を殺めてしまった罪悪感や妹を救えなかったことへの苛立ちは消えず、由里の後を追おうと考えていた。

 出所後、一馬は母と共に由里が眠る墓へ。すると、そこには、墓前で手を合わせる少女がいた。一馬はこの少女に、見覚えがあった。

最果てに惑う P28

最果てに惑う P29

 そして、帰宅後、一馬の身に驚く出来事が。なんと、妹の墓で見かけた少女が家にいたのだ。少女の名は、西見椎花。彼女は一馬の母が働く児童養護施設で暮らしており、母が週末だけ和久家に連れて来ていたよう。目の前に現れた少女に、一馬の心は落ち着かない。なぜなら苗字は「西見」ではあるものの、彼女に7年前の自身の殺人現場で見かけた少女「松本椎花」の面影を見たからだ。どうしても別人だとは思えず、何の目的で自分たちに近づいたのかと困惑する。

 母は、椎花が被害者の娘であるとは気づいていない様子。もし、復讐ならば母を巻き込まず、自分だけ殺してほしい――。そんな気持ちをストレートに伝えるも、椎花は何も知らないと言い放つ。その姿を見て、一馬は本当に椎花が別人なのかもしれないと思い始める。

 そんな中、母が椎花を養子にしようと考えていることを知り、一馬の精神状態は限界に。実の妹すら守れなかった自分には新しい妹を持ち、幸せに暮らす資格がないと感じ、自殺を決意する。

 だが、後を追いかけてきた椎花から生きてほしいと言われ、心に迷いが。

最果てに惑う P124

最果てに惑う P125

 こうした揺れ動く一馬の心理描写を作者は丁寧に表現しているため、読者はページをめくる手が止まらなくなり、重くてどこか温かいこの世界観から抜け出せなくなる。

 その後、一馬は偶然、椎花が同級生にいじめられているところに遭遇。救出後、椎花から「生きる理由がないのなら、私を守ることを理由にして」と言われ、ようやく生きることに対して前向きになり始める。

 だが、その直後、戦慄の事実が…。なんと、一馬が起こした事件をスクラップしてまとめたノートが椎花のカバンから出てきたのだ。

最果てに惑う P146

最果てに惑う P147

 あの子は全てを知った上で、近づいてきた…。そう確信するも、自分を慕い、生きてほしいと望んでくれた椎花に悪意があるとは思えず。

 そこで、一馬は椎花の全てを受け止める覚悟を決め、椎花と距離を縮め始める。だが、その先で目にしたのは予想外な椎花の姿だった……。

 椎花の中にあるかもしれない復讐心を迎え撃とうとするのではなく、受け入れようと決め、行動を起こす一馬。彼がそんなスタンスであるからこそ、本作は復讐を題材にした類似作とは一線を画す読後感をもたらす。生と死の間で揺れ動く和馬の姿に触れると、決して消えない罪の償い方を考えさせられもするはずだ。

 また、椎花に対する同級生の罵りや、一馬以外に向ける椎花の態度など細かな点に着目し、彼女の真意を推測しながら読み進めると、本作から得られるドキドキ感はさらに増す。

 父親を殺した殺人犯であると知りながら、一馬と交流を深める椎花の真意とは一体……? そして、惑いながら生きる一馬には、どんな“最果て”が待ち受けているのだろうか。登場人物たちの心の動きにも着目しつつ、2人が行きつく先を見届けてほしい。

文=古川諭香