『釣りバカ日誌』ハマちゃんが釣りバカになったきっかけは? 釣り歴2年半のライターが、1巻を読んで確認してみた
公開日:2023/7/8

釣り好きなら、おそらく知らない人はいないだろうタイトル『釣りバカ日誌』(やまさき十三/小学館)。けれど、その内容を実は知らない、という釣りファンって少なくないのでは。釣り歴2年半のかくいう私も、“釣りバカ”というフレーズを身近で見聞きしたり、自分が使ったりするにもかかわらず、『釣りバカ日誌』を読んだことがなく…。釣りバカとはどんな状態をいうのか、そして、主人公ハマちゃんはどうやって釣りバカになっていったのか。遅まきながら初読して確かめた。
主人公は浜崎伝助、33歳。「ハマザキ」と間違われると怒る「ハマサキ」で、愛称はハマちゃん。“並以上にごく普通”の会社員。特に趣味はなく、釣りは子どもの頃にやって以来、たしなんでいない。出世欲はたいしてなく、仕事面で頭角を現していない。性格的には、自分が嫌いなことはしないし、誰にでも言いたいことを言う。上司にとって扱いにくい存在だ。
1巻冒頭で、このようにハマちゃんの人となりがわかるのだが、同時に気になるのは社内の上司、先輩、同僚の会話が非常に昭和的であること。退社後の話をしている社員らの会話は、(麻雀牌を持つフリをしながら)「今晩プレイしようじゃない? ちょっとオルグってくれや」だとか、「なあ あとで枝豆でググーっとどうだい?」といった感じ。昭和時代のサラリーマンってこんな感じだったのか、と思わされる。というか、17時前にそんな話をしているところが、まさに昭和を象徴する場面だろう。
さて、ハマちゃんはある日、それほど好きでもない課長に珍しく「ハマサキ」と名前を間違えられずに呼ばれたかと思えば、海釣りに誘われる。当日、ハマちゃんは遠足のような恰好で来る、竿もエサも全く違う物を用意している、などの行動で会社と同じように課長をキーっとさせるのだが、課長にとってはただの人数合わせ要員にもかかわらず、空気を読まず爆釣してしまう。課長は、はじめこそ「すごい! 浜サキくんやったじゃないか!」と釣果を喜ぶフリをするが、釣れ続けるハマちゃんの喜びように、次第に笑えない状況に。実際、自分の隣で釣りがたいして上手そうでもない若輩者にバコバコ釣られたら、そんな気持ちになるのかもしれない、と課長にいたく共感した。
とはいえ実際、釣りに身分も立場も貴賤もないのだ。魚は釣り人の知識や腕に対して、平等に相手をしてくれる。忖度なし。これが釣りの一つの魅力だろう。
さて、大活躍をしたハマちゃんは、すっかり釣りのとりこになり、毎日会社を早々に退社しては大物の鯉がいるという沼に直行して数時間粘る。そして、駅のコインロッカーに釣り具をしまって、さも残業したように帰宅するという生活を続けるようになる。出退勤は逆だが、私の知る人でも早朝に釣りをして、「今から仕事行ってくるわ!」と会社へ直行するアングラーが何人もいる。釣りで大きな感動を味わえば、誰でもこのように釣りバカになってしまう可能性があり、恐ろしい。
1巻での印象的なシーンは、課長とタクシーに乗った際の会話。課長の「キミもコリ始めた釣りのように 仕事にも欲が出ないのね」という皮肉に対してカチンときたハマちゃんが、「釣りと仕事とは比べもんにならないでしょ!?」と噛みつく。釣りには男のロマンがあり、その釣りと仕事を比較するなんてナンセンスだ、というのだ。
なるほど、ただ、今の時代では「男のロマン」の部分が古いといわれそうだ。女性の釣りファンや女性アングラーは増え続けるばかり。年齢層も広がった。しかしながら、釣りの歴史やスタイルの変遷を知るうえでも、本書はやはり全釣りファンのバイブルたり得る。そう感じた読書体験だった。
文=ルートつつみ
(@root223)