夫に誕生日を忘れられ――私の中の“女探し”がはじまった…! コミックエッセイ『女はいつまで女ですか?』
公開日:2024/3/25

年齢は、記号――。昨今は、そんな前向きな言葉が飛び交うようになり始めたが、日常の中のふとした瞬間に、「私は、いつまで女なんだろう…」という疑問が頭をよぎる瞬間がある。
それは本当に何気ない瞬間。だからこそ、無防備な心が傷つけられる。例えば、職場に若い子が入社してきた時や夫から女扱いをされなくなった時。周囲の目に映る自分を想像し、女としての存在価値を考えてしまう。
『女はいつまで女ですか? 莉子の結論』(上野りゅうじん/KADOKAWA)は、そんな女心を代弁した作品だ。本作は、夫に誕生日を忘れられたことを機に、平凡な主婦が自分の中の“女”を探し始めるという、考えさせられる物語だ。

夫に誕生日を忘れられて自分の中の“女探し”を始めた39歳の主婦
結婚して7年目の専業主婦・莉子には4歳の息子がいる。平凡な家庭に不満はない。だが、夫から毎年、誕生日を忘れられていることが悲しかった。
周りのママたちは家族になっても、夫から誕生日を祝ってもらえ、女として見てもらえてもいるのだろうか…。そう悶々としていた時に刺さったのが、学生時代からの友人・直美の言葉。

夫が女として見てくれなくなっただけではなく、莉子が女として見せようとしなくなったことにも原因があるのではないか。そろそろ、女として本気を出さないとやばいんじゃない? そう発破をかけられたため、莉子は思い切って数カ月ぶりに美容院へ行き、イメチェン。しかし、夫は「いいと思うよ」と言ってくれただけだった。


同時期、莉子は「女には期限がある」との言葉を添え、2人目を産むように催促してくる義母にもうんざりする。妊娠は、ひとりではどうにもできない問題。そこで、夫に相談するも、セックスを「協力する」という言葉で片付けられてしまい、ショックを受ける。
女として枯れていくのは、やっぱり嫌だ。夫の反応を受け、そう思った莉子は美容に励み始める。だが、夫の反応はイマイチ。そして、夫が会社で貰ってきたバレンタインチョコに部下の女性からの意味深なメッセージカードが入っていたことを問いただした結果、莉子は夫の気持ちがもう自分にないことを知り、深く傷ついた。
そんな時、莉子はママ友から誘われ、花屋でパートをすることになる。だが、妻が働くことに夫はいい顔をせず、夫婦の間に溝が…。それと比例するかのように、莉子は自分を女性扱いしてくれる年下のアルバイト・ハルトに惹かれるように…。果たして、莉子は40歳の誕生日をどんな自分で迎え、“女探し”にどんな答えを下すのか。
本作はラスト数ページで思わぬどんでん返しがあり、背筋が凍る。一筋縄ではいかないストーリー展開は、女であることを追い求め続ける複雑な女心に似ている。
莉子が感じる「女の苦しみ」は多くの女性が経験しているであろう痛み。だからこそ、本作はスっと心に入ってくる。妊娠・出産にリミットがあると感じた時の焦りや、結婚しても綺麗でいることを求め続けられる苦しみ、母の顔と女としての顔を両立することの難しさなど、ここには女として生きる中で悩み、何かを捨てて何かを選んできた自分の気持ちが描かれているようだと感じるはずだ。
なお、本作は別の主人公が登場する2巻『女はいつまで女ですか? 裏アカ主婦・結衣が堕ちた地獄』(KADOKAWA)も発刊中。同作に描かれているのは、セックスレスを機に、匿名の裏アカウントで過激な投稿を始めた平凡な主婦・結衣の末路。結衣はこっそりと承認欲求を満たしていたが、やがて、完璧な母親像を体現するママブロガーや若さを武器に不倫を繰り返す主婦に触発されて暴走。自分が見つけた“女”に追い詰められていく。
「自分が納得できるまで、ずっと女性でいられる」なんて綺麗事。そう思い、自分を卑下するようになってしまった人にこそ、莉子や結衣の物語が届いてほしい。
文=古川諭香
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