家主が行方不明の屋敷から、13体もの子どもの遺体が…。『親愛なる僕へ殺意をこめて』コンビによる予測不能ノワールサスペンス
公開日:2023/7/29

伏線回収が見事な作品は、すべての謎が明らかになった時の衝撃がすさまじい。2022年にフジテレビでドラマ化された漫画『親愛なる僕へ殺意をこめて』(井龍一:原作、伊藤翔太:漫画/講談社)は、まさにそんな作品だった。謎が謎を呼ぶ展開からの見事な伏線回収が大きな話題となったのだ。
そして、同作を手掛けた最強コンビが再びタッグを組んだ『降り積もれ孤独な死よ』(講談社)も大きな反響を得ている。
本作は、とある屋敷で起きた少年少女監禁死体遺棄事件を調べることになったひとりの刑事が、さまざまな謎にぶち当たりながら、真実を追い求める姿にハラハラさせられる、ノワールサスペンスだ。
空き巣の通報を受けた屋敷で子どもたちの遺体を発見…
エリート刑事の冴木仁は、空き巣の通報を受け、とある屋敷へ赴く。家主は灰川十三という男だが、数年前から家には住んでおらず、行方が分からなくなっていた。
それなのに、屋敷はなぜか電気が通っており、手入れもされている。家の中は贋作や造花など、偽りの装飾品ばかり。灰川は一人暮らしであるのに、子ども部屋が作られていた。
そして、不気味なこの屋敷には厳重に鍵をかけられた地下室への入り口が。開錠を待つ間、冴木は部屋にあったDVDを視聴することに。すると、そこに映っていたのは地下室で監禁されている子どもの姿。その子の近くには、餓死した子どもたちの遺体が積み上げられていた。
実際、地下室からは子どもの遺体が13体も見つかり、灰川は全国に指名手配されることとなる。
灰川は結婚歴がなく、子どもの出生届や認知届も出されていない。ということは、殺された13人は一体誰なのか…。そんな疑問が浮上する中、ひとりの女性が警察署に現れた。彼女の名前は蓮水花音。なんと、花音は4年前まで灰川の屋敷で暮らしており、彼を父と慕っていた。
実の親に育児放棄され、餓死寸前だった花音は、幼少期に灰川と出会い、屋敷へ。灰川や自身を含む19人の子どもと共同生活を送っていたという。
虐待などに遭った恵まれない子を我が子のように大切に思い、生きる術を教えてくれた“父”が子どもたちを手にかけるわけがない…。そう訴える花音は、過去に屋敷で起きた不気味な出来事を打ち明け、生き残った6人の子どもの中に真犯人がいることを示唆する。
冴木は花音と話す中で、幼い頃に生き別れた血の繋がらない弟が灰川と暮らしていたことを知り、驚愕。身内が関わっていることから捜査を外されてしまうが、真相を掴もうと、独自に事件を調べ始める……。
本作は1巻から多くの謎が詰め込まれていて、一気にこの世界観に引き込まれてしまう。子どもと一緒に遊んだり、怖い夢を見た子を抱きしめて宥めたりするなど、花音が語る灰川の人物像は優しく、とても凶悪犯であるようには思えない。
さらに、花音と共に屋敷で暮らしていた子どもたちにはどこか不気味な一面があり、もしかして本当に、6人の中に真犯人がいるのではないかと思えてしまう。
ただ、作者が前作で鮮やかに読者の予想を裏切ったことから、そもそも花音の話を鵜呑みにしてもいいのだろうか…という疑いも芽生えてくる。どこに伏線がちりばめられているか分からず、疑心暗鬼になり、登場人物全員が怪しく見えてしまうのだ。
本作も前作同様、予想のななめ上をいく結末となるはず。ぜひ、自分なりの考察を持ちながら、物語の行方を追ってみてほしい。
文=古川諭香