絶対に恋愛には発展しないだろうと思っていても、何が起こるか分からないのが男女の関係。恋愛対象ではないと思っていても、ひょんなことから距離がグッと縮まり、恋に落ちることもある。『ご懐妊！！（Berry’s COMICS）』（真條りの：漫画、砂川雨路：原作/スターツ出版）は、まさにそうした一夜の関係から始まる“本当の恋”の物語だ。

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　本作品は、スターツ出版文庫から刊行されている小説が原作の作品。コミカライズ版はBerry’s COMICS史上1位の電子売上を記録しており、200万ダウンロードを突破した超人気作だ。電子書店の女性漫画ランキングでも1位を獲得しており、リアルな大人の悩みや展開に共感し、そこから始まる恋模様にときめくファンが続出している。

　この物語の主人公は、広告代理店に勤めるグラフィックデザイナー・梅原佐波（うめはら さわ）。風通しのいい職場とやりがいのある仕事に満足な日々を送っていた佐波だが、超厳しい鬼上司・一色禅（いっしき ひとえ）部長にだけは苦手意識を持っていた。そんなある日、一色部長から大きなプロジェクトを任され、佐波は疲弊しながらもどうにかそのプロジェクトを完遂。深夜のオフィス、いつもは怖い部長が笑顔で「祝杯あげるぞ!!」とビールやワインを買い込んできたことで、二人は会社で打ち上げをすることになった。

　最初は楽しく飲んでいた二人だが、酔いが回ったのか次第にいい雰囲気に。そしてついに、佐波と一色部長は一線を越えてしまう。しかしそれは、あくまで酔った勢い。翌日には、互いに大人として何事もない関係性に戻っていたのだが……。その過ちから1ヶ月ほど経ったころ、なんと佐波の妊娠が発覚。出産を悩んだりもしたが、赤ちゃんの心臓が動いているのを目の当たりにし、産むことを決心する。佐波は散々迷った結果、出張で海外に行っていた一色部長の帰国を待ってその事実を打ち明ける。妊娠を打ち明けられた一色部長は、一瞬動揺したものの「結婚して二人で子供を育てよう」「二人で責任をとろう」と妊娠の事実を真摯に受け止め、結婚を提案してくれたのだ。こうして二人は、出産に向けての準備を始めていく――。

　妊娠が発覚した段階で、佐波と一色部長はあくまで酔った勢いによる一夜限りの関係。互いに恋愛感情もない、しかも上司と部下という関係で妊娠を打ち明けるのはどれだけ勇気が必要だっただろうと、読んでいて思わず涙がにじんだ。妊娠報告を拒絶し、逃げてしまう男性もいるかもしれない。でも一色部長は佐波に寄り添い、むしろ時が経ち現実味が帯びてくるにつれ、子供が生まれることへの楽しみを隠せずにいる。仕事には厳しいものの、イケメンで仕事ができて周囲からの信頼も厚い上司との秘密の関係にドキドキが止まらないだけでなく、佐波を気遣う様子などときめき要素もたっぷりだ。

　思いがけない妊娠から始まった関係ではあるが、結婚の約束をして以降、二人は協力して少しずつ「夫婦」になっていく。予想外の妊娠への戸惑い、授かり婚や社内結婚ならではの悩み、そして初めての妊娠への不安……。リアルな悩みを描いた本作は、結婚や出産を経験した大人の女性も共感できるラブストーリーに仕上がっている。

　これからおなかが大きくなり、出産、子育てを経験し、「家族」になっていくのだろう。そこにはたくさんの困難が立ちはだかるかもしれない。二人はこれから、そうした壁をどう乗り越えていくのか、二人それぞれの生活や気持ちはどう動いていくのか――。まだまだ気になることが山積みの『ご懐妊！！』に、引き続き注目していきたい。

文＝月乃雫