【大人気異世界スローライフ・ファンタジーがコミカライズ】リストラからの再スタートで夢を叶えるほのぼの農業マンガ

マンガ

公開日:2023/8/25

解雇された宮廷錬金術師は辺境で大農園を作り上げる
解雇された宮廷錬金術師は辺境で大農園を作り上げる(グラストCOMICS)』(YUTTOU:作画、錬金王:原作/スターツ出版)

 どんなに知識や経験が豊富で、会社のために身を粉にして働いているとしても、その苦労が必ずしも報われるとは限らない。組織の経営とは非情なものだ。経営方針の変更、スキルの不適合、人間関係の不和など、様々な理由でリストラの憂き目に遭うことも少なくない。無念ではあるが、自分は何のために働くのかと再考する機会でもある。再就職は容易ではないかもしれないが、より自分らしく活躍できる新たな職場と出会うこともあるだろう。

解雇された宮廷錬金術師は辺境で大農園を作り上げる(グラストCOMICS)』(YUTTOU:作画、錬金王:原作/スターツ出版)も、そんなリストラされた主人公が、田舎の村から再出発し成功を掴むスローライフ・ファンタジー。

 原作小説は小説投稿サイト「ノベマ」でも連載中の書き下ろし作品を書籍化。昨年11月に第一巻が発売するやいなや重版がかかる大ヒットをみせ、3巻まで刊行されている。本作は、そんな大人気シリーズのコミカライズだ。

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本作を試し読み

 物語の主人公イサギは、レムルス帝国に仕える宮廷錬金術師。戦争で疲弊するレムルス帝国を救うため、ひとり農業の研究に没頭する善良な若者だ。しかし兵器開発を求める帝国において、農業に傾倒するイサギは不要な人材と判断され、解雇されてしまう。自分の研究が認められず落胆するイサギだが、メイドである獣人族の少女メルシアに誘われ、彼女の故郷の村で再出発することに……。

解雇された宮廷錬金術師は辺境で大農園を作り上げる

 イサギがたどり着いたプルメニア村は、獣人族が多く暮らす辺境の貧しい村だった。自然に囲まれているが土地が痩せて、食糧難が深刻化していた。メルシアの父でもある村長から移住の許しを得たイサギは、錬金術師の工房を立ち上げ、農地の改良に着手する。

 錬金術を用いた特別な肥料と作物で、荒れ果てた土地がたちまち豊かな土地に変わっていく。あっという間に大豊作になった畑を目にしたメルシアやその家族は驚きと喜びにわき立つ。感情豊かな獣人族のキャラクターもキュートでコミカルに描かれて微笑ましくなってしまう。

 作中では実った作物を使って調理するメルシアの手料理が描かれるが、素朴な家庭料理ながらどれも美味しそうなのだ。畑から収穫したばかりの新鮮な野菜をすぐに調理して食べる。これ以上のご馳走は無いだろう。

解雇された宮廷錬金術師は辺境で大農園を作り上げる

解雇された宮廷錬金術師は辺境で大農園を作り上げる

 豊作になった畑の野菜を村人たちに提供したことで、イサギは村の仲間として迎え入れられる。信頼できる獣人たちの協力を得てイサギの農業革命は、さらに広がっていく。

 そもそもイサギがどうして農業にこだわるのか、それには彼の過去が影響している。孤児として育った彼は、常に空腹に苦しんできた。農業への熱意は、今の子どもたちに自分と同じような辛い思いをさせたくないという優しさからだった。帝国に仕えていた頃には叶わなかった夢を、辺境の地で実現していくのもこの作品の魅力だ。

 大都会で働いて得る成功や名声も魅力的かもしれないが、大自然の中でゆったり暮らし、自分のペースでやりたいことを実現する田舎のスローライフには、自由がある。何よりも自分の仕事が多くの人から感謝されるということは、やりがいに満ちている。

 人は何のために働くのか。この作品から、その答えが見つかるかもしれない。

文=愛咲優詩