男2人が一緒に住む大義名分。高校時代のクラスメイトとの同居生活を描く日常マンガ『煙たい話』

マンガ

公開日:2023/9/3

煙たい話
煙たい話』(林 史也/光文社)

「大義名分」。行動のよりどころとなる正当な理由を表すこの言葉に、僕はとても窮屈さを感じてしまう。もちろん誰かが納得するような理由が必要なときはあるが、必要ないときも少なくない。交友関係はまさにそうだろう。誰が誰と仲良くしていようが、一緒に住んでいようがその人の自由。理由なんか知らなくていいはず。なのに人は、一般的には想定しにくい関係を知ったとき「2人が一緒に住み始めた理由は?」「どういう関係なの?」なんてもっともらしい理由を求めがちだ。本書『煙たい話』(林 史也/光文社)には、そんな誰もが理由を聞きたくなる、男2人の同居生活が描かれている。

 主人公は、教師の武田と花屋の有田。彼らは高校時代の同級生だが、特段仲良しだったわけではなく、ただのクラスメイトという関係だ。しかしある雨の日、うずくまる老猫を拾った有田の前に武田が偶然現れ、数年ぶりに再会。それから何度か会ううちに同居することになる。

 同居に至るまでの過程はいたって単純。きっかけは武田の「有田といると楽しいし、また会えなくなるとつまらないから一緒に住んじゃえと思った」の一言だった。同居すれば家賃が浮くからとか、家事が分担できて楽になるとか、もっともらしい理由は一切なし。「むしろそういう理由がないから一緒に住みたいと思った」と武田は語っている。きっと誰もが有田と同じ立場なら驚くし、「いきなり言われても……」と困ってしまうだろう。断る理由は十二分にある。なにせ相手は高校時代の親友でもない、いやむしろ最近まで存在すら忘れかけていた人だ。しかし有田は、自分の気持ちにまっすぐな言葉をかける武田に心地よさや羨ましさを感じ、後日同居を承諾するのだ。

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 本稿ではさらっと過程を説明したが、そこに至るまでの彼らの心の内に秘めた思いはとても繊細で複雑だ。本書の魅力はそこを一つずつ丁寧に描写している点にある。なぜ有田は武田の言葉に羨ましさを感じたのか。武田が自分の気持ちをまっすぐ伝えるのはなぜか。大人になるとなかなか打ち明けられない、2人の嘘偽りのない思いを知ったとき、きっとあなたも2人の関係に心地よさを感じるはずだ。

 読み進める中で「2人は同性愛者だから一緒に住んでいるのでは?」ともっともらしい理由をつけたくなる人もいるだろう。しかし、現段階では有田と武田の性的指向については描かれていないし、僕は違うと予想している。彼らはただ自分の気持ちにまっすぐ、理由もなくグレーな状態を選んでいるように感じる。少なくとも武田はそうだ。どうか余計な詮索はせず、2人の理由なき同居生活からにじみ出る心地よさを存分に味わっていただきたい。

文=トヤカン