突然「すごいアホそうな弟」が家族になったら? 女子高生と、ふざけるのが大好きな小学生男子が成長するホームコメディ

マンガ

PR 公開日:2023/10/7

転がる兄弟
転がる兄弟』(森つぶみ/ヒーローズ)

 もし、ある日突然家族が増えることになったら、しかも思っていたタイプと違う見た目や性格の人が来てしまったら……。ある程度の年齢であれば表向きは取り繕えるかもしれないし、頭では理解できるかもしれない。しかし心の中では、やっぱり不安やモヤモヤが生まれてしまうのが普通だろう。ましてや子どもなら尚のこと――。

転がる兄弟』(森つぶみ/ヒーローズ)は、父親の再婚で初対面の弟と暮らすことになった女子高生と、その家族の様子を描くホームコメディ。ヒーローズが運営するWEBマンガサイト「コミプレ」で連載されている作品で、「心が温まる」「優しい気持ちになれる」と多くの人を虜にし続けている。2023年9月28日には5巻も発売された。

 本作の主人公は、母親を亡くし、父親の再婚によって弟ができることになった女子高生・宇佐美みなと。顔合わせの前日、父親から「とてもかわいい男の子」と言われて期待するも、実際にやってきた弟・光志郎はみなとの想像と違っていた。

advertisement
転がる兄弟 P.10

 光志郎は落ち着きがなく独特の感性を持った小学生で、ふざけるのが大好き。みなとは新しくできた弟を前に、この子とうまくやっていけるのかと不安を募らせる。

 女子高生であるみなとにとって、光志郎の言動は理解できないことの連続。理屈が通用せず、気づけば光志郎のペースに巻き込まれてしまう。おまけに部屋の片づけを手伝わされたり、いつも見ていたテレビ番組を見られなかったり……これが毎日続くなんて耐えられない、と生活の変化に不満を募らせていた。

 一方、弟の光志郎は新しい家、新しい家族の前でも元気に明るく自由奔放な性格を貫いており、初日にしてすっかり馴染んだように思えた。しかし夜、ふと目が覚めた光志郎は、母親を探し求め家の中を歩き回る。そして新しい父親、つまりみなとの父親の横で眠る自分の母親を見て、「…なんか母ちゃん しらねえ人みてえだ」と一言。その後元の家に帰りたくなり、リビングで1人泣いてしまう。

転がる兄弟 P.46

転がる兄弟 P.48

 小学生の子どもにとって、突然これまでと違う環境で他人と暮らす不安や違和感は相当なものだろう。引っ越せば、学校の友達とも離れてしまう。当然、学校での環境も変わる。それは、積み上げてきたすべてをひっくり返されるも同然なのかもしれない。泣いている光志郎に気づいたみなとは、自身が幼い頃母親に作ってもらったホットミルクを思い出し、その思い出を辿るかのようにホットミルクを作って光志郎に渡す。みなとと光志郎は、不安やモヤモヤ、寂しさを抱えながらも、こうして少しずつ互いに歩み寄り理解を深めていく。

転がる兄弟 P.53

転がる兄弟 P.54

 光志郎の自由すぎる振る舞いを見て、最初は筆者も「こういう子苦手だな」と感じた。だが読み進める中で、「こんな一面もあるのか」と光志郎の持つ優しさに何度もハッとさせられた。たとえば転校初日に、光志郎が無口で「ロボ」と呼ばれているクラスメイト・斎藤維一に話しかけるシーン。光志郎はクラスのみんなから「ロボはしゃべんねーぞ」と言われて取り残されていたロボに、話しかけ、言葉と笑顔を引き出した。この誰にでも自然体な光志郎の姿に筆者は、彼の優しさを感じた。

転がる兄弟 P.89

転がる兄弟 P.90

 本作の魅力は、みなとと光志郎が家族になっていく様子や、周囲の人たちとのかかわりを通して、家族観や人間観の幅広さ、多様さを見せてくれるところにある。光四郎の素直な性格、態度が、作中のキャラクターだけでなく読み手の“自分でも気づいていない、実は凝り固まっていた価値観”に優しく楽しく気づくきっかけをくれるのだ。

 みなとと光志郎の姉弟としての道は、まだ始まったばかり。これからどんな人生を歩んでいくのか、どう成長していくのか、5巻以降も引き続き見守っていきたい。

文=月乃雫