何度自殺を試みても、生き返ってしまう2人の女。「死ねない」絶望と怒りに見舞われる2人が現実に向き合ったとき…
PR 公開日:2023/10/17

自分を大切にしてくれる人がいる、そんな当たり前を手に入れられない人もいる。たとえ家族に愛されていたとしても、生きていくためには親の庇護を抜けなくてはならない。百万の親の愛情よりも、友達がいない、恋人がいない、家の外に誰もいない、ということが死へといざなう絶望になることはある。『散り損ないのヒラエス』(にたもと/ヒーローズ)の主人公・かずらもその一人だ。誰とも会話することのなかったひとりぼっちの教室で、唯一声をかけてくれた乙芽にすがり、社会人になった今も彼女に貢ぎ続けることで愛情を手に入れようともがいている。
かずらは、自分のためにはさしてお金を使わない。しかし、仲の良かった母親に縁を切られるほど借金を重ねてまで乙芽の興を買おうとする。そんなことをしても無駄だ、縁を切って居場所を変えれば、他に大切にしてくれる人と出会えるはずだ。と、現実にかずらのような人を見たら、つい言ってしまうかもしれない。だけど、自分に“他”があるなんて信じることができないのが絶望であり、孤独である。「この人しかいない」という執着が、かずらを生かし続けてきた唯一の希望でもあった。かずらのように、たとえば恋人に、推しのアイドルに、生きるよすがをすべて委ねてかろうじて生きている人はきっと、少なくない。
だから、乙芽に結婚する相手ができて、彼女の愛を一身に受ける日は永遠にないと思い知らされたその日、かずらは「一緒に死のう」と手を差し伸べてくれた人の手をとってしまう。見ず知らずのその女性は、金香と名乗った。金香は、死ぬときまでさびしいのはいやだと、死にたいくらい絶望しているかずらに都合の良さを感じていたようだった。それでも人生で二人目の、自分に手を差し伸べてくれた人の手をとることしか、かずらに選択肢はなかったのだ。
ところが、何度自殺を試みても、二人は“生き返って”しまう。初めて出会った場所に戻り、死んだはずのその日をやりなおすはめになるのだ。
金香は、怒る。死ねないのは、かずらに未練があるからではないのかと。だから、母親との仲直りを手伝い、乙芽との関係が歪んだ原因を探り始める。けれど、絶望の原因をとりのぞいていくことは、死ぬ理由を薄めていくのと同義だ。死ぬために手をとった金香によって、かずらはほんのわずかに前向きさをとりもどしていくように見えるが――。
金香の絶望の形は、第1巻ではまだ見えない。ためらいなく百万を差し出せるほど貯蓄もあり、会社で慕ってくれた後輩もいたらしい彼女の身に、果たして何が起きたのか? 二人は本当に、死ぬことを選ぶのか。二人が出会うことのできた奇跡は、絶望を上回る光となりうるのか。
ヒラエスとは、ウェールズ語で憧れや郷愁などを意味する言葉。何度となく散り損なう二人がその関係に何を見出せるのか。できることなら、愛し愛される幸せに、望郷の地にたどりついてほしいと願ってやまず、その先行きを見守るばかりである。
文=立花もも

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