30歳OL、16歳の猫系男子を飼う? 石川恋主演ドラマ「猫カレ-少年を飼う-」に学ぶ「年の差」同居のメリット
更新日:2023/11/22

深夜帯にテレビ東京で放送中の、石川恋主演ドラマ「猫カレ-少年を飼う-」の原作は、『少年を飼う(ゼノンコミックス)』(青井ぬゐ/コアミックス)です。ドラマには「猫カレ」という言葉がついていますが、原作のマンガのタイトルには、少年が「猫」っぽいという情報は付いていません。本稿ではそんな原作マンガの第1巻をご紹介できればと思います。
主人公は森川藍。都内で働くバリキャリの30歳OL。全てを完璧にこなす「鉄の女」。仕事のためなら、残業・深夜帰宅は当たり前。ある日、彼女が勢いで買った2LDKのマンションのドアの前に、とびきり綺麗な16歳の少年で甥の凪沙(なぎさ)が、捨て猫のようにうずくまっている。藍は凪沙を招き入れて、共同生活がはじまることに。ふたりが互いに持つ孤独は、不思議な形で共鳴し、藍の仕事もプライベートも変容していく…
主人公の藍はいわゆる「デキる女」で、桜並木と小川のある遊歩道が近所にある日当たり・設備良好なマンションの高層階に住めるほどの収入と貯蓄もある女性です。男性社会の中を、うまく渡り歩いてきたことが細かい描写からうかがえます。
「女のくせに」と言われるのには慣れていて物ともしないけれども、完璧すぎて「甘えられない女」だという言葉は若干グサッと来る。そんな藍の孤独は何によって癒えるのでしょうか? 体調を崩したとき、表参道のザッハトルテが「ご自愛プラン」として挙がってくるような藍でしたが、そこに凪沙が現れました。
バリキャリ30歳の藍は、「欠勤すること」と「無理して出勤すること」を天秤にかけると、前者のほうがストレスフルになってしまうような思考回路の持ち主です。ですが、いわゆる「Z世代」の凪沙は「そんな無理せず休めばいいじゃん」と言い放ち、藍は「ど正論だ」とハッとします。そういった形で、凪沙は整体師であるかのように、バキバキと音を立てながら藍の生き方が問い直されていきます。
あくまで想像でしかないのですが、30代独身女性ならば誰しもが心の中で一度はつぶやくかと思われる「このままずっとひとりの生活が続くのだろうか」という不安感に、きっと藍は、仕事に励むことでずっと抗い続けてきたのでしょう。
加えて、それと似て非なる別の葛藤で、「この生活をいつまでも続けられるのだろうか」ということを、藍はまさに感じ始めたタイミングでもあります。つまり、年齢の数字からだけでなく、30歳になり体力が明らかに20代よりも低下してくることを身体的に自覚し始めたということです。
凪沙の美術の先生で偶然藍の同級生だった鹿目は、何かしら恋愛や結婚の引き合いがあったときに、高校生の凪沙と同居していることがネックとなり関係がうまくいかなくなって、後悔することにならないかと藍を案じます。凪沙は凪沙で、美術という「食っていく」のには現実味が湧きにくい方向を目指すかどうかの岐路に立たされていることが、美術好きな同級生・こころや、お調子者・柊平とのコミュニケーションの中で明らかになっていきます。
総じてこの1巻では「人にとやかく言われようとも制約があろうとも、自分のやりたいことや好きなことを突き詰めるにはどうすればいいか」という問いに、主要となる登場人物たちが答えようと葛藤しています。藍は「少年を飼う」こと、つまりジェネレーションギャップのある存在を家庭内に抱えておくことが、自分の心身のバランスに変化をもたらすことにますます今後自覚的になっていくでしょう。タイトルから連想されやすい「禁断の~」感のある展開はさほどなく、ときにホッとさせてくれて、純粋に「次が読みたい」と思わせてくれる一冊です。
文=神保慶政