火葬中に遺体が起き上がることも…1万人を見送った作者の火葬場での知られざる仕事体験に、驚きと感謝の連続
公開日:2023/11/29

世の中には無数の職業、仕事があり、当然ながらそこで働いている人以外はその仕事の詳細はほとんどわからないものだ。コミックエッセイ『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』(下駄華緒:原作、蓮古田二郎:漫画/竹書房)は、そんな我々からは見えていない部分の「火葬場」の実態が描かれている。
本作の原作者で主人公の下駄華緒氏は、YouTubeでも元・火葬場職員としてのエピソードを明かしている。百聞は一見にしかず。故人にとって「人生最後のしめくくり」となる場での仕事は、驚きと、そして感謝の気持ちをあらためて持つことになるはずだ。
火葬中の遺体がこっちを向いた? 初めての光景に驚く
物語は、主人公の初出勤日から始まり、先輩職員の案内で施設内を巡り歩く。
施設の本丸は、遺体の「焼き場」だ。初めて火葬中の光景を小窓から覗き込む主人公。コミカルな絵柄ながら生々しいタッチで描かれる。
その時見た光景は、焼き場で焼かれている遺体が炎に包まれ、血を噴き出しながら、起き上がって座っていたという。そしてふと、「助けを求めるかのように」こちらを向き……。
しかし、先輩職員は「人体は焼くとスルメのようにクネクネ動くこともある」と解説。ファイティングポーズをとる、くの字に曲がる、体をよじる、など動きもさまざまで、先述の遺体も当然意思があったわけではない。
そして、持ち手が円形で先端が曲がった「デレキ」と呼ばれる長さ2メートルの棒で遺体を整えながら、火葬は完了。今日も明日も火葬場では、こうして職員が遺体と向き合っているのだ。
火葬場に充満する「ニオイ」と「暑さ」
火葬場職員ならではの苦労もある。本書でふれているのが、火葬場特有の「ニオイ」だ。
焼き場には「炉の熱と燃料の灯油のニオイ」が充満しているという。実際、施設内には火葬中に発生し付着した臭気を洗い落とす職員浴室もあり、職員は入浴も仕事の一環というのは驚きだ。
経験を重ね、仕事に慣れてきた主人公。しかし、どれほど遺体と向き合っても「たじろいでしまう」と述べているのが「脳みそのニオイ」だった。
一部の遺体は「検死」を受けて頭蓋骨に穴を開けられた場合もある。検死後にフタをしても火葬中に外れることがあるそうで、先述のデレキを使って脳みそにふれた際に放たれる臭いは、直接5分間バーナーに当てて灼熱させても取れないほどだという。
そして焼き場の暑さも仕事の過酷さをよく表す。夏場は特にひどく、氷水をバケツに入れてタオルをぬらし頭と顔、首に当てながら作業にあたっていると語るが、それでも、人生の“真の”最期を迎える遺体と日々、向き合い続けているのだ。
さまざまな人々が行き交う火葬場では、故人を中心とした思いも交錯する。遺族でもない謎の女性や、あるはずない“手の骨”が残った水死体……。実体験にもとづいたエピソードの数々は、ときに奇妙で思わず興味をそそられてしまうものも正直ある。しかし火葬場職員の想像を絶する大変さ、そしてこの仕事の大切さを知ることができるのは、いつか必ずお世話になる私たちにとって、大変貴重な学びの体験になる。
文=カネコシュウヘイ