酒場で背徳の昼ビールが仕事を捗らせる極意? 仕事に行き詰まった時の“休み上手”を『はるかリセット』で学ぶ

マンガ

更新日:2024/2/1

はるかリセット
はるかリセット』(野上武志/秋田書店)

「もうこれ以上なにも頑張れない」

 日々忙しく仕事をこなす中で、そんな“魔の無気力状態”に見舞われることはないだろうか。

 ライターである私にとってはおなじみのプチスランプで、どれだけ原稿を睨み付けても一文字たりとも進まないことも。そんな時はネットサーフィンや漫画アプリで苦し紛れの息抜きを図るが、結局ダラダラと時間を溶かすのみで、心身のダルさはむしろ増していく悪循環に陥ってしまう。

advertisement

 私のような“休み下手”がいる一方、メリハリのある息抜きで仕事の活力をしっかり取り戻す“休み上手”も存在する。例えば、マンガ『はるかリセット』(野上武志/秋田書店)の主人公・天野はるかだ。

仕事を止めて、今すぐ家を飛び出したくなる“リセット”の数々

 小説家・エッセイストの「春河童」こと天野はるか。注文あらばどんなテーマでもためらわない、それが私の売文稼業――と日々粛々と原稿に向き合う彼女にも、やはりプチスランプの瞬間は訪れる。「詰まった!もう書けない!」とジタバタわめき暴れる彼女の姿は自分と重なりすぎて目と胸に刺さる。

 しかし、ここからが“休み下手”と“休み上手”の差。彼女はここでリセット=初期化を宣言し、服を着替え、嬉々として外の世界に飛び出すのだ。

 ある時は、回らない寿司屋にチャレンジして絶品のウニに悶絶したり、タイ古式マッサージでバキバキの体をぐいーっと伸ばされたりと、大人の娯楽を楽しむ。

 またある時は、市民プールでのびのびとクロールしたり、公園で出会った子どもたちと川遊びをしたり、池でゆったり貸しボートを漕いだりも。アクティブに運動することで、凝り固まった体がほぐれて気持ちもスッキリしそうである。

 はるかの息抜きの師・観音(みね)さんが登場するエピソードは、ちょっと豪華なご褒美回。山梨までの日帰りドライブで温泉や甲州ワインを満喫、あるいは香川でうどんを食べるためだけに寝台列車に乗り込むなど、女2人で出かける大胆なプチ旅行は今度ぜひともお試ししたい。

 一方、筆者も仕事(=この原稿)を中断して今すぐにでも実践したいリセットがある。それが第1話の「銭湯」だ。

 街中でふと見つけた昭和レトロな銭湯に突入するはるか。熱々の1番湯でホカホカに茹だった風呂上がり、この後はもちろん定番のビン牛乳……と見せかけて、酒場で背徳の昼ビールである。そしてつまみにはスパイシーなインド料理。口に泡をつけて大変満足げな彼女の表情が「優勝」を物語っている。

『はるかリセット』には、思わず真似したくなるような休みの手本がこれでもかと詰まっている。そして、グルメ漫画でシズル感たっぷりの料理たちに食欲がわくように、癒しと解放感たっぷりのエンタメやアクティビティに“休み欲”が猛烈に刺激されるのだ。

 はるかの豊かなリアクションと文筆家らしい語彙が欲をさらに掻き立て、読者たる我々も今すぐ家を飛び出したくなってしまう。

「良い休み」が「良い仕事」を生む理由

 もちろんリセット=初期化だけでは終わらない。全力で休みを堪能したはるかは、この後リブート=再起動してサクサクと原稿を書き進めていく。心身のリフレッシュによる気力の復活に加え、リセット時の体験そのものが創作のヒントとなり、彼女の作品は輝きを増すのである。

 この好循環は、あらゆる仕事に通ずるのではないだろうか。ガチガチになった頭にはリセットによる余白が生まれ、体験が新たな発想の種となり、行き詰まった作業を前進させてくれる。

 仕事を中断して堂々と休みを楽しむことに、焦りや罪悪感を覚える人もいるだろう。だが、天野はるかは語る。たとえ短い時間しかなくても、たとえ半径500メートル圏内のご近所でも関係ない。休みに最も必要なもの、それは「休む勇気」であると。

 休む勇気と休み方のアイデア、その両方を与えてくれるのが『はるかリセット』なのだ。私の同志である“休み下手”な皆さんには、ぜひ休みの教本としてこの作品を手に取ってみてほしい。

文=真崎睦美