魔女狩りで仲間を失った男が、魔女たちの無実を証明するファンタジー漫画。現実の魔女は手品師みたいな術しか使わない!?
公開日:2024/2/6

魔女とはどのような存在だろうか。杖から華々しい魔法を繰り出して派手なアクションをするイメージだろうか、それとも黒尽くめの格好でボコボコと泡の出る液体の入った鍋をかき混ぜ、怪しい薬を作っているイメージだろうか。今、メディアには様々なスタイルの魔女が溢れ、物語に登場し活躍している。しかし、実際の歴史上の魔女と言えば、中世ヨーロッパにおいては魔術を使って人に悪さをするとし、魔術狩りが行われた迫害の歴史がある。魔女とは奥が深いものだ。
『魔女リュシアンの証明』(トナミショウ/KADOKAWA)に登場するリュシアンは、男性の魔女で、仲間たちを魔女狩りで亡くしている。仲間の真実を探り、リュシアンが魔女の杖と出会うことによって話が加速度的に展開していく。
“物語の魔女ってさ
もっととんでもない力ですんごい悪事を働いたりするじゃん?
でも現実の魔女は手品師みたいな面倒で小規模な魔女術ばっか使ってる”
とあるように、リュシアンは花や実などの素材を用いて薬を作り魔女術を操る。決して、アニメ映画のヴィランズたちのような悪事を働く魔女ではなく、人を呪ったりもしない。恐ろしいイメージとは反対で、派手な魔法も使わない優しいタイプの魔女だ。その彼には、かなしい過去があった。13年前に仲間たちを魔女狩りで失ったのだ。彼は今、魔女文化があまり浸透せず、魔女狩りに追われる心配が少ない丹本(にほん)に潜伏し、情報を集めている。
“魔女はもう俺しか残っていないんじゃねーかって思うようになってきたよ
だからこそこだわらなきゃいけない“魔女”に
俺が魔女を辞めてしまったら
この世から魔女がいなくなるかもしれない”
ひとりぼっちになるということは、辛くさみしいことだ。リュシアンは、魔女仲間がおらずたった1人で、魔女たちの無実を証明するために手がかりを追い求めていく。
彼は情報を探る中で、丹本で魔女の杖の取り引きがあることを知り、杖を探しに行く。杖とは、意志の無いモノだと思う人がほとんどだろう。ところが、リュシアンが杖だと思った棒切れでは何も起こらなかった。杖はモノではなく、杖のそばで倒れていた1人の少女だったのだ。杖を少女にしてしまうという作者の発想に驚いてしまうが、杖の力をリュシアンがうまく使いこなすことができるかどうかは是非本書を読んで確認してほしい。
さらに、杖の取り引きを行っていた謎の組織も登場する。「魔女は皆等しく滅ぶべし」と、とても魔女を憎んでいるようだ。追手の心配がないはずの丹本になぜと思ってしまうほどに、杖の少女と出会ったことで 、リュシアンの日常は変化を迎える。この組織が何かは、1巻では明かされていない。リュシアンの思う小規模な魔女術しか使えない狩られる理由がない魔女たちは、「優しくて穏やか」。その魔女に対してどうして強い悪感情を抱けるのだろうか。
1巻ではまだまだ物語がはじまったばかりで、分からないことがいっぱいだ。良質なファンタジーを読みたいならトナミショウ氏と言っても過言ではない氏が描く、ファンタジー世界にどっぷり浸かりたい。リュシアンと共に魔女狩りの真実を追っていこうではないか。
文=山上乃々