ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、薄場圭『スーパースターを唄って。』(1〜2巻)
更新日:2025/1/10

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年3月号からの転載になります。
『スーパースターを唄って。』(1〜2巻)
●あらすじ●
「だから詩が、いるんか」。幼い頃に母と姉を喪い天涯孤独となった雪人は、覚醒剤の売人として日銭を稼いで生きるが、残された人間の受け止めきれない衝動をノートに綴っていた。18歳の誕生日を迎えた夜、ビートメイカーとして音楽の才を世に知らしめつつあった親友・メイジからトラック(曲)をもらったことをきっかけに、雪人はラップに挑むことになり─。音楽に祈りを捧げる人々を描く一作。
うすば・けい● 1998年、大阪府生まれ。マンガ家。『飛べない鳥達』で第84回新人コミック大賞〈青年部門〉佳作を受賞。「月刊!スピリッツ」2020年3月号に掲載された『君の背に青を想う。』でデビュー。現在連載中の『スーパースターを唄って。』が初連載となる。
- 薄場圭
小学館ビッグC 各715円(税込)
写真=首藤幹夫
編集部寸評
圧縮された運命のリリックとトラック
4年前、姉と死別した雪人は彼女を真似てノートに書き殴っていた。1015冊というその数こそ彼の境遇の表れであり、感情の生命線なのだろう。それを知るメイジが18歳を迎えた雪人に贈った曲が、1巻の終わりで披露される。スーパースターとは時代の変数で、圧縮された彼らの願いや運命が追い付いてくる過程と、時代がそれを発見する心の動きまで本作は描き出している。詩がステージで象られた瞬間、熱源は体内に侵入して観る者の鼓動を支配する。あとはそれが、早いか遅いかだ。
川戸崇央 本誌編集長。続けると、感情のオンオフも印象的に描かれている作品で、ワードの生命力はもちろん、時にそれ以上物を言う目の表現にも心を奪われた。
〈だから詩が、いるんか。〉
〈その日まで俺は、想像すらしてなかった。このクソみたいな世界に復讐するために、いつか諦めたこの人生を変えるために、戦ってもいいんだと。〉冒頭3ページで気圧される。その気迫が全ページに滾っている。クソみたいな世界でも、愛する存在がいれば生きていけるのかもしれない。では、その存在を失ったら?〈運が悪いだけなんやったら、そんなんしんどすぎるやんか〉本当にそうやんな。と思った矢先、続く言葉に心を打たれる。〈ああ…そうか……だから詩が、いるんか。〉
西條弓子 森見登美彦さん特集(P26~)は森見さん扮するホームズの写真から始まります。あまりにもヴィクトリア朝京都のホームズなお姿。ぜひ目撃ください。
地の底からの叫びが世の中をひっくり返す
千日前の路上を這うゴキブリに自分を重ねる、主人公の雪人。唯一の家族である姉・桜子まで失ってしまう。血と涙にあふれた描写の数々、絶望しかない雪人の日々に、胸がしめつけられる。桜子が死んでから4年、雪人が綴ったノートは1015冊にも及ぶ。その言葉は、雪人の魂の叫びだ。雪人の綴る詩と、幼なじみのメイジのつくるビート、彼らの音楽は世界をひっくり返せるのではないか、そんな予感を感じさせる圧巻のライブシーン。地の底からの雪人の叫びを、これからも見届けたい。
久保田朝子 モノの量がぐっと増え、片付けアドバイザーに来てもらいました。まだまだこんなに収納する場所があったのねと目から鱗……。プロの技はすごい!
命が刻み込まれたリリックに刮目せよ
近年の音楽は、いいなと感じた曲はまずサブスクで検索するようになり、定額で好きなだけ楽しめるものに、そしてだんだんと、日常のBGMのような位置づけになっている気がする。だが本作の“音楽”は違う。のほほんと歩いていた道の横からバイクが飛び出してきたくらいの衝撃。誰も助けてくれない日常のなか、主人公たちは“今”の生きる苦しみを殴りつけるように紙に綴る。自分の命を削り取って言葉に、音に変換していく姿は、音楽という文化が持つ真の強さを思い出させてくれた。
細田まりえ プチ断捨離をしました。痒みが出たり洗濯が大変だったりと、「まだ着れるけれど結局袖を通さない服」たちを処分。心のモヤモヤが晴れました。
音楽に込められた“叫び”
売人をしている雪人と、ビートメイカーのメイジ。2巻で描かれるのは、ふたりの過去だ。最愛の姉の存在、HIPHOPとの出会い。彼らの音楽の原点が明らかになる。現状から抜け出そうと決意する雪人にメイジは語る。「俺さ、ビートメイカーに、なる。」「俺が全部買うよ。大丈夫。雪人がそんな顔せんでいい世界も、全部。」雪人は言う。「…じゃあ俺、ラップとかしよかなぁ。」この世界への憤りを胸に、踏み出すふたりの姿に思う。彼らにとって音楽とは祈りであり、“叫び”なのだ、と。
前田 萌 餃子にハマっています。全国各地の多種多様な餃子を揃えて、食べ比べをするのがとても楽しいです。お気に入りの一品を見つけたいと思います。
彼らの叫びが聞こえてくる
ヒリヒリとした痛みが全ページに広がっている。売人である雪人と、天才ビートメイカーとして知られる幼馴染のメイジ。こんなところから抜け出さなければと思いながらも、現実が彼らの足をからめとり思うように身動きがとれない様子が続いていく。だからこそ、その間に挟み込まれる「音楽」の描写が心の底からずんと響く。音は聞こえなくとも彼らの魂からの叫びが私たちの心をかき乱す。音楽が、雪人が紡ぐ詩が、その行く先の光になりえるか。今後も追わずにはいられない一作だ。
笹渕りり子 ピアノやギター、クラリネットなどそこそこ楽器には触れてきました。ただ、一番肝心である練習が苦手だったためどれもこれも中途半端な腕前。
「ギャラリーやんなら、お前らも、本気で。」
自分たちの抱えたものを音楽で表そうとする雪人とメイジ。彼らの現在と過去と音楽が織り交ざりながら物語は進む。言葉を失うような出来事の数々で、気持ちがわかるなんて到底言えないし、しかも私は彼らの生む音楽であるラップにも明るくないし、そもそもこれはマンガで音なんて聞こえてこない。それなのに、1巻ラストの言葉足らずのライブシーンで鳥肌と涙が止まらなくなるのはなぜなんだろう。彼らの“必然”を思い知らされた。この“詩”が多くの人に届くようにと、思わず祈った。
三条 凪 今年はSNSの更新頻度を上げてみることにしました。どう見られているかが気になる、やや強めの自意識からの卒業を目指して……いつまで続くのか。
音楽に祈り、音楽で祈る
読後抱いた感情に名前がつけられなかった。主人公・雪人を囲む環境はどこまでもつらく、ページをめくりながら息が詰まる。思わず目を背けたくなる読書体験の途中、「痛みを痛みでマヒさせたら心は死ぬど!!」の一言に出会ったとき、靄が晴れたような気持ちになった。この世界に音楽があってよかった。曲の前では、そしてマイクさえ持てば、誰しもが平等に近づく。“唄う”というのは祈りに近い行為なのだと強く実感する。音楽に救われた人、音楽に縋る人、すべての人に捧げたい一作。
重松実歩 音楽は聴くのも自分で演奏するのも大好きです。ここ数年レコードを集めてみたい気持ちもあるのですが、相当な沼と聞き、怖くて手が出せません。
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