ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』
更新日:2025/1/10

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年6月号からの転載になります。
『ここはすべての夜明けまえ』
●あらすじ●
「二一二三年十月一日ここは九州地方の山おくもうだれもいないばしょ、いまからわたしがはなすのは、わたしのかぞくのはなしです」。1997年生まれの主人公「わたし」は、2022年に父のすすめで体を機械に置き換える「ゆう合手じゅつ」を受け、25歳のまま永遠に老化しなくなった。術後約100年経ったある日、彼女はかつて父に言われた言葉を思い出し、家族の歴史を手がきで綴り始めることにしたが――。
まみや・かい●1992年、大分県生まれ。本作で第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞し、デビュー。
- 間宮改衣
早川書房 1430円(税込)
写真=首藤幹夫
編集部寸評
時間もジャンルも超えて
機械の身体を手に入れた「わたし」は、高性能AIを搭載したアンドロイドになったわけじゃない。平仮名を多用した文体が、純粋な人間性を醸している。八百比丘尼のごとく長い年月を生きる彼女の視線は、未来より過去を見つめ、言葉からは希望より無常を感じる。万感の思いで最後の頁をめくると、初出クレジットが目に飛び込む。本書はハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作である。だが初版帯に記載はない。あえて謳う必要はないと判断したのだろう。理由は、読めばおのずと理解できる。
似田貝大介 10年ぶりに古巣に戻り、本誌編集長を拝命しました。しばらくお化けの雑誌『怪と幽』にいたので、まるで化かされた気分。身が引き締まります。
「わたしにはどうにもできなかったんでしょうか」
最先端な所で妙にアナログなことをやっているのを見ると、人間の営みってそう変わらないのだなあと心打たれてしまう。この物語でも、不朽の肉体を実現させる技術があってなお、人は、家族は、こいびとたちは、どうしようもない因果を繰り返していて最高である。「人間から人間へ、罹って罹らせて繰り返してしまう何か、自分の力だけではどうしようもない何かが、生まれて生きるの中にあるんでしょうか」。なんて美しく難解な問いだろう。私も彼女と一緒に、一生かけて取り組みたい。
西條弓子 大和和紀先生と山岸凉子先生による超貴重トークイベントの記事がP76より掲載。『あさきゆめみし』も『日出処の天子』も傑作すぎるんじゃ〜!!
ひらがなの砂漠にぽつんと立つ
ページ見開きいっぱいのひらがなに戸惑ったところでもう、著者の術中にはまっていた。どこか幼さを感じさせる独白が、名前の明かされない彼女の謎めいた魅力を引き立てる。静かに語られる今は亡き家族との歪な関係は、どこか他人事のようだ。もともとの性格なのか、それとも死を意識する必要がなくなると感情の起伏にとぼしくなるのか。もしかしたら100年生きる中で整理され、風化していったのかもしれない。家族史が一段落して始まる彼女だけの物語は、さみしいけれど力強い。
三村遼子 久しぶりに特集を担当して、あまりのめまぐるしさに息切れしています。そうだった、これが月刊誌のスケジュール! 1カ月があっという間でした。
人生をしまえない恐怖
ページを開くと、ひらがなを多用した独特の語り口に引き込まれる。老化しないし死なない、融合手術を受けた「わたし」は、20代の姿のまま、周囲の人を看取り続けてきた。「わたし」の語りは、苦しんできた家族との関係からAIやボーカロイドなど自在に話題が飛ぶ。感情が抜け落ちたような淡々とした語り口に違和感を抱くが、シンちゃんとの関係だけは後悔が滲み、機械ではない人間らしさが垣間見える。人生をしまいたくてもしまえない「わたし」が人生とどう向き合うか迫ってくる。
久保田朝子 Netflixで放送中の『ペントハウス』にハマっています。ドロドロの人間模様が描かれ、感情のすべてを表現した演技が素晴らしく一気見が止まりません。
「なんかじぶんがひろがるかんじ」
近頃、「20代のまま時が止まって、あと30年くらいそのまま生きられないかな」と思うことがある。自分にとって、この物語はある意味「私が望む少し遠い未来」だった。主人公は機械化の手術を受け、外見上は永遠の命を手に入れた。しかし、家族の死や愛にまつわる関係を知ったことで、彼女の内側は確実に変化していく。最後に選んだ結末は、彼女の心が育ち、「自分の生きたい道」を知ることができたから。永遠を生きることは幸せなのか、ぜひ自分と向き合いながら読んでみてほしい。
細田まりえ 素敵な可動式本棚を見つけたが、口コミによると驚異的に組み立てが難しいらしく、挑戦すべきか1年近く悩み中。案ずるより産むが易しか……?
古き友との邂逅
「わたし」とは違う世界線を生きているはずなのに、随所に挟まれた時代を感じさせる表現に、彼女との距離がぐっと近づくように思う。17歳のころ、反復して聞いていたと語る「アスノヨゾラ哨戒班」と「DAYBREAK FRONTLINE」。「ほかの一九九七年うまれはどうだったかな、ボーカロイドすきなひと、もしいきてたらはーいって手をあげてみてほしい」という言葉に、“私も好きだよ”と応えたくなる。その語りに自然と頷きを返しながら、古き友の言葉に耳を傾けているような心地がする。
前田 萌 犬をもう1匹迎え入れました。先住犬と2匹で遊ぶ姿がとても可愛い。お世話も2倍ですが、楽しそうな姿を見ると何でもしてあげたくなります。
後悔をみつめ続けたその先は
身体が老化しなくなる融合手術を受けた「わたし」が振り返る自身の人生と家族のこと。父や兄、姉、そして甥とのやり取りとともに、生きることへの虚無感が淡々と紡がれる。「あたたかくてやわらかい布にくるまれて、永遠に昼寝をしているみたいでそれはそれで心地がよかった」と語られるこいびととの日々。しかし言葉とは裏腹に、彼女には大きな後悔があった。家族がいなくなった今、後悔をどう見つめるか。最後に彼女が出した答えから「わたし」を祝福したい気持ちが溢れ出る。
笹渕りり子 連続テレビ小説『虎に翼』を見始めました。ドラマを見て、コーヒーを淹れてから仕事を始められるなんて! 朝への苦手意識をこのまま克服したい。
奪われたもの、そして、奪ったもの
身体が永遠に老化しなくなる手術を受けた「わたし」の家族史として綴られた本作。次第に明らかになる彼女の来し方はあまりに悲劇的だ。どこか淡々と語られるので、彼女の人間的な感情も失われているのだろうかと錯覚するが、終盤に語られるこいびとへの思いに胸が痛む。こんなに重たいものを背負って生きるくらいなら、いっそ内面もロボットのようになってしまった方が良かったんじゃないかと思わずにいられない。そんな彼女の最後の選択に、今を生きる私たちにとっての救いを見た。
三条 凪 歴史時代小説特集(P26〜)は今村翔吾さんの甲冑姿からスタート! 撮影中、20kgの甲冑をものともしない、まさに“武将”の動きでした。ぜひご覧ください。
その体は何を語るのか
温度のない機械の体を持つ主人公の「わたし」が語るのは、人間くさく生々しい、歪な愛にまみれた家族史だ。肉体は身体的苦痛から逃れたものの、彼女は罪悪感や後悔、そしてそのすべてを忘れることができないという精神的な辛さに蝕まれている。「じんせいでたったひとつでいいから、わたしはまちがってなかったっておもうことがしたいな」。朽ちない体で、可能性に満ちあふれた無限の生を得てもなお、その“たったひとつ”だけを求める主人公の姿に、私は涙が止まらなくなるのだ。
重松実歩 散歩が気持ちいい時季で嬉しいです。時間と体力さえ許せばどこまででも歩いていきたい気持ち。暇で元気な大学生のときは20キロ近く歩いてました。
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