“残酷な世界”に惹き込まれる――注目のマンガ家が描く緻密で倒錯的な物語『ミカヅキ記念高校55期生』

マンガ

公開日:2024/5/15

ミカヅキ記念高校55期生
ミカヅキ記念高校55期生』(8.7℃/KADOKAWA)

 ある日、ヤケ酒後に目覚めたら自分の彼女が隣で死んでいた。そこへ隣人がやって来て「殺人鬼」だと自己紹介をした。あなたはどんな結末を予測できる? これはBL=ボーイズラブの漫画だ。

 2022年10月、X(Twitter)で新たな創作BL漫画が投稿された。センセーショナルな展開と予測できない結末に5万いいねを超えてバズった。それが漫画『トロイの海馬』だ。「アイデアとトリックが見事過ぎます」「すごい性癖の扉」とBLファンのみならず、たくさんのコメントで溢れかえった。

ミカヅキ記念高校55期生

https://twitter.com/noponopochu_/status/1579073427021123584

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『トロイの海馬』のワンシーン。オムライスをふるまってくれる殺人鬼。どうやら彼は主人公と関係があるらしい。

 著者は新進気鋭の作家・8.7℃。Xでの投稿がきっかけで商業デビューした新人漫画家だ。愛くるしい絵柄の表情豊かな主人公たちが、容赦ない物語に巻き込まれる。作中に登場する三日月記念高校は呪われた学校で、生徒たちは次々と悲惨な死を遂げてしまう。けれど、そこで一貫して描かれているのは、道徳の欠如した男の子たちの愛なのだ。

 特筆すべきは原稿の描き込み。狂気じみた慟哭が画面いっぱいに描かれていたり、背景に不思議なモチーフが描かれていたりする。隅々まで伏線がちりばめられていて、まるで間違い探しのようにページを凝視してしまう。

ミカヅキ記念高校55期生
体育倉庫に住む少年がトラウマを思い出してしまうシーン。感情の質感を画面から感じる。

ミカヅキ記念高校55期生
「やさしいこっくりさんだぜ!」と名乗る謎のケモミミ二人組。夜の街の真ん中にある機械は一体……?

 単行本『ミカヅキ記念高校55期生』(KADOKAWA)では短編が6本収録されている。そのすべてに共通しているのが展開の速さだ。昨今のWEB漫画でもころころ変わる“飽きさせない”展開が好まれつつあるが、8.7℃の漫画にはそれ以上の、まるでボカロの音楽作品のようなテンポを感じる。倍速視聴に慣れた新しい世代のスピード感なのかもしれない。

ミカヅキ記念高校55期生
昼はしおらしかったバレリーナ志望の少年は、夜になると全く違う様相になる。

ミカヅキ記念高校55期生
さっきまでかわいいゆるキャラと戯れていたのに、急に現れたこのグロテスクな怪物の正体は?

 縦横無尽なイマジネーションと凄まじい熱量で描かれた、この『ミカヅキ記念高校55期生』。ゾクゾクする新しい読書体験をしたいなら是非オススメしたい──みぃんな、おかしいので必見だ。

 才能に溢れた新人作家8.7℃のこれからの活躍に期待したい。