「あまり迷惑かけるなよ…」祖母に娘が殴られても無関心な父親。胸の内を隠したまますれ違いの中で生きる家族の物語

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公開日:2024/8/5

この記事には不快感を伴う内容が含まれます。ご了承の上、お読みください。

母親に捨てられて残された子どもの話

 何を考えているのか分からないけど、つらく当たってくる祖母。自分に対して1ミリも興味がなさそうで、部屋に閉じこもって仕事ばかりしている父親。そんな2人の胸中はいかに? 『母親に捨てられて残された子どもの話』(菊屋きく子/KADOKAWA)は、家族のすれ違いの中で生きる子どもを描いた作品である。

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 主人公のゆきは、物心ついたときから父と祖母の3人暮らし。父は仕事で忙しく、会話もほとんどない。祖母はいつもピリピリしている。そんな2人に、ゆきは母親がいない理由を聞けずにいた。

母親に捨てられて残された子どもの話

 ある日、ゆきの通っている学校で三者面談が行われた。普段仕事ばかりでまったく相手にしてくれない父の「俺が行くよ」という言葉に、うれしさで飛び上がるゆき。父が学校行事に来てくれるのははじめてだった。

 しかし、当日現れたのは祖母だった。とてもがっかりした表情を浮かべるゆきが不憫でかわいそうだ。ゆきの性格や日頃の行いを高く評価して褒めてくれる先生に対して、祖母はゆきを蔑ろにする発言ばかりする。

母親に捨てられて残された子どもの話

母親に捨てられて残された子どもの話

 祖母はゆきにはじめて生理が来たときも、汚いものを見るような目で見ていた。祖母のゆきに対する扱いはひどく、目を覆いたくなるほど。父親が助けてくれず、味方も周りにおらず、孤独は深まるばかり。

母親に捨てられて残された子どもの話

母親に捨てられて残された子どもの話

 物語の中盤で、精神的に追い詰められたゆきが自ら命を絶とうとするシーンがある。祖母に見つかって未遂に終わるのだが、そのとき祖母にゆきは自分の思っていることや感情をぶちまけるのだ。

母親に捨てられて残された子どもの話

母親に捨てられて残された子どもの話

 ゆきはこの一件がきっかけで、自分のことをかわいそうだと思うのはやめて、ちゃんと現実と向き合おうと決心する。児童養護施設についてインターネットで調べたり、母親の意見を聞くために電話帳に書いてある電話番号に電話してみたり、具体的なアクションを起こすのだ。

 祖母に自分の意見をはっきり伝えた後、ゆきが力強く変化していく。ただ置かれた境遇に絶望するのではなく、変わらなきゃという生きる意思を感じる。現状がつらくて生きる希望が持てない人が読むと、ゆきの前向きな姿に勇気をもらえるだろう。

 さて、なぜ祖母はゆきに対して悪意や敵対心を持ったような接し方をするのだろうか。祖母の態度に読み手が抱く疑問は、物語の終盤に回収される。とても嫌な人物に感じるが、また読み返したときは一度目とは違った感想を持つだろう。

母親に捨てられて残された子どもの話

 本作には、隠されている秘密が大きく分けて2つある。父がまったくゆきに関心がなさそうに見える理由。そして、祖母がゆきにつらく当たる理由だ。分からないまま読み進めていくとつらい描写が多いが、秘密が明かされると「そういうことだったのか」とモヤモヤがスッキリする。

 本作は、母親に捨てられ祖母にいじめられているゆきの過酷な境遇を描いている。だが、後半で父と祖母の胸の内が分かったとき、今度は父と祖母に感情移入している自分がいる。だからといって、子どもを傷付けていいことにはならないが…。1度読んだだけでは味わえない、2度目に新しい読後感を味わえる作品だ。

文=ネゴト/ まわる まがり

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