河合優実が選んだ1冊は?「書き手の視点によって作品の印象も変わる。翻訳という仕事にすごく心を惹かれました」
公開日:2024/6/15
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年7月号からの転載です。

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、河合優実さん。
(取材・文=倉田モトキ 写真=TOWA)
「今、すごく翻訳の仕事に興味があるんです。映画の字幕でも、翻訳者が選んだ言葉次第で作品の印象が変わっていく場合がある。もし、今の仕事をしていなければ、翻訳家を目指す未来もあったかもしれません」
河合さんが書店で偶然手にしたという一冊は、村上春樹と盟友・柴田元幸による、二人の“翻訳”に対するアプローチに迫った対話集だ。
「同じ英文でも、どの文節を強調し、どの視点で訳すかで異なる文章が生まれる。すると当然、読後感も変わってくる。そこに面白さを感じました。村上さんは日本語として読んだ時の心地よさを優先することが多いそうで、柴田さんは大学教授らしく、正確さにこだわっている。原文と一緒にお二人が訳した文章も載っているので、私ならどんな言葉を紡ぐかなと考えながら読んでましたね」
翻訳に関心を抱くようになったのは、思わぬことがきっかけだった。
「自分が出演した映画が海外で上映されることになり、英字幕を作成する資料をたまたま目にしたんです。そこには『このニュアンスで合ってますか?』といった言葉がたくさん書かれていて。その時、文章やセリフの解釈は人によって違いがあり、正解はないんだと改めて思ったんです」
河合さんが主演を務めた映画『あんのこと』。この作品も観る者にさまざまな余韻をもたらす。壮絶な人生を送った一人の少女。実話をベースにした本作へのオファーを受け、河合さんは「絶対に守らなければ」と感じたという。
「彼女の尊厳や生きた証など、ありとあらゆるものを守らなければいけないと思ったんです。映画には創作の部分があるとはいえ、彼女の人生を覚悟のない手で汚すようなことだけは絶対にしてはいけないって」
幼い頃から母親の虐待を受け、覚醒剤にも手を染めていた少女・杏。しかし周囲の支えを受け、人生をやり直すため、彼女は静かに動き出す。
「強い女性だと思いました。前を向く力がすごい。私には彼女ほど努力できないかもしれない。初めて希望を知ってからの心の変化は、監督と何度も話し合い、演じていきました」
撮影を終えた今でも、「彼女が抱えていた感情やそのときの想いを言葉にするのは難しい」と河合さん。
「杏は決して特別ではなく、今の時代が作り出した社会の一部だと思うんです。彼女の痛みを共有するだけではなく、私たちも背負わなければいけない。そのことを映画を通して感じていただければと思います」
ヘアメイク:上川タカエ スタイリング:吉田達哉
映画『あんのこと』

監督・脚本:入江 悠 出演:河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、広岡由里子、早見あかりほか 配給:キノフィルムズ 6月7日(金)より全国で公開 ●幼少期より母親から暴力を受け、売春を強いられてきた杏は21歳になっても無気力な日々を送っていた。彼女の人生は、覚醒剤の使用容疑で取り調べにあたった刑事・多々羅との出会いで少しずつ変化する。2020年に起きた事件をモチーフに、“生きること”に迫った衝撃の人間ドラマ。 (c)2023『あんのこと』製作委員会