元刑事と前科者がルームシェア 初老男性二人の“やり直し”日常ドラマを温かな手料理と共に描く『おいしい余生の過ごし方 ~元刑事と前科者の食卓~』

マンガ

PR 公開日:2024/8/18

おいしい余生の過ごし方 ~元刑事と前科者の食卓~
おいしい余生の過ごし方 ~元刑事と前科者の食卓~』(山本亜季/少年画報社)

 美味しいご飯は、時に思いもよらない出会いや縁を生み出す。

 元刑事と前科者という真反対の立場。そんな二人がひょんなことから再会し、同居人として共に暮らしつつ、毎日一緒に食卓を囲む。そんな特別かつありふれた初老男性二人の日々を描くマンガが、『おいしい余生の過ごし方 ~元刑事と前科者の食卓~』(山本亜季/少年画報社)だ。

おいしい余生の過ごし方 ~元刑事と前科者の食卓~

 物語は主人公・海老塚が、長年連れ添った妻に“熟年離婚”を言い渡された所から始まる。

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 刑事の仕事を定年まで勤めあげたが、仕事第一の生活で妻に愛想を尽かされた彼。突然独りの生活を余儀なくされたが、長年家のことは妻にまかせきりだった。おかげで掃除や洗濯はおろか、日々の自炊もままならない。

おいしい余生の過ごし方 ~元刑事と前科者の食卓~

 だんだん荒んでいく生活に気持ちが塞ぎかけていた、そんなある日。海老塚は30年前に担当した事件の加害者・蟹原と再会を果たし、そのまま二人で酒の席を共にすることとなる。

 家庭内の過剰な抑圧がきっかけで父親を殺してしまったが、それ以外は穏やかで物静かな人柄の蟹原。だが前科者の立場から孤独に苛まれる彼に、共感や同情から海老塚は気づけば同居を持ちかけていた。

おいしい余生の過ごし方 ~元刑事と前科者の食卓~

 当然蟹原はその提案を一度は断るものの、自分と同じく家族との関係が切れ、寂しさを抱える海老塚の一面を見て、結果同居を受け入れることに。あくまで他人同士の暮らし。しかしだからこそ、「自分のことは自分で」と蟹原に教わりながら、海老塚は少しずつ生活力を身に着けていく。初老の男二人、奇妙な縁で始まった穏やかな同居生活。それを主に、二人が台所に立って作る料理を中心に描く──本作はそんな物語となる。

おいしい余生の過ごし方 ~元刑事と前科者の食卓~

 近年非常に人気の高いジャンルでもある、グルメ・料理を中心とした人々の同居生活や日常を描く物語はこの世にすでにたくさんあるが、彼らの紡ぐ物語に同じものはひとつとしてない。同じ道を歩んできた人間が、この世に二人と存在しないのと同じように。それもまた、このジャンルのユニークで魅力的な部分でもあるだろう。

 本作に関しても、二人の出会いや共同生活の始まりこそ奇妙な縁だが、彼らの送る生活は読者にとっても非常に共感を覚える、平凡でありふれた暮らしである。

 メインとなる主人公二人の年齢からか、他の類似作品に比べゆったりとした雰囲気も作品の大きな魅力かもしれない。

おいしい余生の過ごし方 ~元刑事と前科者の食卓~

 重ねて本作の下地として敷かれるのは、「やり直す人々」という救済のテーマである。情状酌量の余地がある殺人だったがそれでも相応の刑罰を受け、その後なお罪の影響を残しながらも、結果穏やかな暮らしを手に入れた蟹原。妻に愛想を尽かされながらも、少しずつ自らの行いを振り返り、自分の短所の改善に努め始めた海老塚。境遇としても、似たものがある二人。だからこそ、海老塚も蟹原に共同生活を提案したのだろう。

 罪を償っても、罪を犯した事実自体は消えはしない。悪い部分を直しても、長年それに苦しんだ家族は戻ってこないかもしれない。それでも終わったことをただ悔やむより、「どうすればよかったのか」という思いを、行動の改善や反省として先に繋げて生きる。

 本作は余生と呼ばれる人生の期間に差し掛かった二人の“生き方”からも、きっと様々なことを感じられるはずだ。

おいしい余生の過ごし方 ~元刑事と前科者の食卓~

文=ネゴト/ 曽我美なつめ

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