ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、坂月さかな『星旅少年』

今月のプラチナ本

公開日:2024/9/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年10月号からの転載です。

『星旅少年』(1〜4巻)

●あらすじ●

ある宇宙では、「トビアスの木」が生み出す毒により、人々は覚めない眠りに落ちたのちに木へと姿を変えるようになった。プラネタリウム・ゴースト・トラベル社(PGT社)で働く少年「登録ナンバー303」は、残された文化を記録するために「まどろみの星」をめぐる星旅に出かける。星旅を続けるなかで、303は悲しみや痛みを抱えた人々、そして思いの込められたモノの数々に出会い――。

さかつき・さかな●2021年、初の商業作品集『坂月さかな作品集 プラネタリウム・ゴースト・トラベル』を刊行。イラストレーターとして『令和元年のゲーム・キッズ』『水の聖歌隊』の装画を手掛ける。『星旅少年』が『このマンガがすごい!2023』(宝島社)オンナ編第5位ランクイン。

『月ぬ走いや、馬ぬ走い』書影

坂月さかな
パイ インターナショナル PIE C 1100~1210円(税込)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

追憶と喪失を巡る、深夜の旅路

303少年は消えゆく文化の痕跡を拾い集める。針のない時計、穴のない笛、迷子バス。一見無価値なものでも採取し、長い時間の中で幾多の人々の眠りに立ち会い、追憶する。居場所のないジリらの兄にもなった。だが303の言動は意味深だ。3巻で彼の過去が描かれ、物語の解像度がぐんと高まる。穿たれた喪失の果てに何があるのか。発見の喜びや今あるものへの感謝か。「他の誰かの中に残って ずっとずっと続いていくんだよ」の言葉が胸を衝き、4巻のラストに昂る。Good Midnight!

似田貝大介 本誌編集長。「涼しい」と噂の千葉県勝浦市へ。薄曇りだったこともあり、調子に乗って海水浴を楽しんだら、ただいま皮膚が絶賛ずる剥け中です。

 

ここはなくなるものが永遠になるところ

いつかみんな死んでしまうとか、あらゆるものは変わってしまうとか、そういった人類不可避の運命に打ちひしがれる夜がやってきたら、この世界に逃げ込もう。客のこない文具店、もうすぐ廃線になる鉄道、一度きりの旅に出る凧、ほとんどの人が眠った星。覚めない眠りについた人が木になって光っている。それらを眺めていると、永遠なるものが存在するような気がしてくる。なくなってしまうことばかり描かれているのになぜだろう。そんなことを考えながら、いつしか眠りに落ちている。

西條弓子 官能と本特集を担当。自分がはじめて官能を知った本は何だっけと考えたら、夫婦生活円満のため(?)のAVがひっそり載っていた通販雑誌でした。

 

“ここにいるよ”

繊細に描かれる静かな宇宙に『ひとりぼっち惑星』というアプリを思い出した。人のいない星から、宛のないメッセージボトルを流し合うようなゲームなのだけど、そんなメッセージボトルを受け取りにきてくれるのが、星旅人の303だ。「まどろみの星」に残った人々の心に、彼の来訪があたたかな火を灯していく。作中には夢のように素敵なインクや便箋による手紙が何度か登場するが、必ずしも投函されるわけではない。たとえ届かなくても、伝えたい何かがあるということを尊く思える。

三村遼子 スマホを手に入れた甥にギフトを贈るためにポケモンGOを再開しました。金銀までしかプレイしていないので、知らないキャラクターばかりで新鮮。

 

世界のどこかにあると思わせてくれる青の世界

星旅人・303と、彼を取り巻く人々の物語。ページを進めると、深い青が静かに広がり、丁寧に描き込まれたホテルやバス、料理などが魅力的で、見入ってしまう。自分の知らない世界のどこかに、青の美しい景色が広がっているのではないかとワクワクする。特に心をうたれたのが「無人迷子バス」の303と家出少女の物語。予期せぬ場所へ行ってしまうバスは、思わぬ方向へ進んでしまう私たちの生き方と重なる。さみしさや自分の気持ちと向き合うことの大切さを、教えてくれる。

久保田朝子 歯医者に行くたびに、新しい虫歯が発見されてしまうのはなぜだろうか……。ひとまず、オススメされた電動歯ブラシに変えてみようかと思います。

 

寂しさを抱きしめる

303の旅路は、どこか寂しい。星々を巡るなかで出会いと別れを繰り返し、そこに確かに在ったたくさんの記憶に寄り添いながら、その変化をただ見つめている。見送る側にしかなれない彼は言う。「変わっていくのは悪いことじゃないし 誰にも止められないからね」。対し、かつて303に救われた505(ジリ)は「そんなことないよ ずっと変わらないものだってちゃんとあるよ」。変わりゆく世界だからこそ、変わらないものを見つけられる。心に沁みる、この寂しさが愛おしくなる。

前田 萌 9月を迎えたというのに、夏らしいことを何一つやっていなかったことに気づきました。まずはそうめんを茹でるところから始めようと思います。

 

宇宙の果てにある美しき記憶の数々

記憶って儚くて、美しい。人の記憶を保存しながら旅をする303の旅路を追っていくとそんな風に思う。実体はないけれど、確かに人々の中にある。その人が“存在した証”が消えないように303はいろんな星を彷徨い続ける。「後悔も寂しさも全部大切な思い出ですから」。嬉しい、悲しい、辛い、美味しい。身体で経験したものすべてが自分の中でかけがえのない記憶になる。その尊さをかみしめながら、読後はつい自分が最期に思い出す記憶は何なのだろうかと思いを馳せてしまった。

笹渕りり子 連載企画『4人のブックウォッチャー』でご執筆いただいている現メンバーの方々の書評は今号で最後になります。2年間ありがとうございました!

 

眠りゆく世界で 独り起きているということ

「トビアスの木」の毒によってやがて誰もが眠りにつく世界で、主人公・303だけはその影響を受けず、眠りゆく人々を見送ってきた。自分だけを残し、みんな「記憶」になってしまう。そのことは、他者の存在自体を無意味にしてしまいうる。だれかと深く繋がることを避け続ける303だが、それでも「寒い時はちゃんと口に出せよ」と言ってくれる、ほかでもない他者との関わり合いによってその心は少しずつ変化していく。胸を打つ言葉の数々は、だれかと生きていくことの意味を教えてくれる。

三条 凪 枕に頭をつけると30秒で眠ることのできる私。修学旅行など泊まりのイベントでも最初に眠っていたような。独り起きているという経験がほぼありません。

 

寂しい気持ちもわるくない

本書を読んで、太宰治の一節を思い出した。「君が死ねば、(中略)君が生前、腰かけたままにやわらかく窪みを持ったクッションが、いつまでも、私の傍に残るだろう」。人やモノは物理的にはいつか必ず消えてしまう。だが、私たちにはそのかたちを留めておく方法がいくつもある。感情もまたそのひとつだ。「寂しい分だけ あの子がここにいたことをきっと大事に思い出せるから」。いなくなった相手を思う気持ちが、その人の存在を証明してくれるという儚く静かな優しさに抱きしめられる。

重松実歩 定期的に仕事でのミスを反芻して落ち込む。昔は本で回復していたが、今は本を手に取ると仕事を思い出し、また反芻する負のループ。辛いですね。

 

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