趣里が選んだ1冊は?「次第に気になり始める語り手の異常性。その歪みや気持ち悪さがクセになる」

あの人と本の話 and more

公開日:2024/10/12

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年11月号からの転載です。

趣里さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、趣里さん。

(取材・文=野本由起 写真=TOWA)

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「あっという間に読み終わりましたが、『〈わたし〉は一体誰?』『そもそも〈わたし〉とは?』と不思議な余韻が残って。小説を集中的に読んでいた時期に手に取ったのですが、特に印象に残った一冊です」

「なんて言えばいいのかな」と慎重に言葉を選びながら、この物語を説明しようと試みる趣里さん。だが、「むらさきのスカートの女」に執着する〈わたし〉の異様さ、その不穏な気配をひと言で表わすのは難しい。

「読み進めるにつれ〈わたし〉の異常性が気になっていくんです。本来、語り手はまっとうであるはずですが、『そんな常識どこにある?』って問われているようで。〈わたし〉の歪みや気持ち悪さがクセになりましたし、誰もがこうなりかねないという終わり方も好きでした」

 もし趣里さんが演じるなら〈わたし〉と「むらさきのスカートの女」、どちらを選ぶだろうか。そう聞くと、意外な演出プランが返ってきた。

「〈わたし〉を演じるなら、自分の姿は映さず〈わたし〉=カメラにするのはどうでしょう。逆に『むらさき~』は登場せず、〈わたし〉の視線の動きだけでその存在を示すのもいいかも。いずれにしても、どちらか片方を映すほうが面白そうです」

 そんな趣里さんがこのたび演じるのも、一筋縄ではいかない役柄。タイトルどおり、型破りな“モンスター”弁護士役に挑戦する。

「私が演じる神波亮子は、感情はあるものの淡々としていて、自分のことも俯瞰している人物。だからこそ、裁判をゲーム感覚で進められるんでしょうね。感情に左右されやすい私とは正反対です(笑)」

 ジェシー(SixTONES)さん演じる若手弁護士・杉浦とのコンビネーションも見どころだ。

「弁護士界では司法試験に受かった順で先輩後輩が決まるらしく、亮子は年下ながらも先輩なんです。年上の杉浦さんを振り回す迷惑な亮子ですが、行動を見せ、結果を出すことで信頼関係を築いていく。撮影が進むにつれて、ふたりの関係も一緒に育っていけば良いなと思います」

 描かれるのは、ハラスメントやルッキズムなど今まさに起きている諸問題。時に法が追いついていない問題とも向き合っていく。

「ただ無罪を勝ち取るだけでなく、白黒つけられないグレーゾーンにも踏み込みます。その過程では、人間が持つモンスターのような本質も明らかに。判決の先にある人間ドラマまで伝えられたらうれしいです」

ヘアメイク:カワムラノゾミ スタイリング:中井綾子(crêpe) 衣装協力:シャツ11万1100円、パンツ14万1900円(共にPrune goldschmidt/MAISON DIXSEPT TEL03-3470-2100)、ピアス7万9200円、リング8万1400円(共にJOAQUIN BERAO TEL03-6821-7772)

しゅり●1990年、東京都生まれ。2011年、俳優デビュー。23年、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』で主演。24年、映画『ほかげ』で、キネマ旬報ベスト・テンにて主演女優賞受賞を受賞。近年の出演作に、ドラマ「ブラックペアン」シリーズなど。

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月10ドラマ『モンスター』

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脚本:橋部敦子 監督:三宅喜重ほか 出演:趣里、ジェシー、古田新太ほか 10月14日より毎週月曜22:00~カンテレ・フジテレビ系放送
●幼い頃に母を亡くし父と暮らしてきた神波亮子。高校3年生で司法試験に一発合格すると、父が突然失踪。その後ひとりで生きてきた彼女が、法律事務所で働き始める。常識にとらわれず、感情を排除して相手と向き合うモンスター弁護士・亮子が、法廷闘争に立ち向かう。