その考え方、時代遅れ!?慣れない料理を通して「あたりまえ」を見つめ直す恋物語『じゃあ、あんたが作ってみろよ』
公開日:2024/12/30

「筑前煮は簡単」「めんつゆ料理は手抜き」「コークハイは食べ物に合わない」「もつはグロテスク」そんな料理や食事への思い込み。イラッとしたり、はたまた共感できたり、何か引っかかるものはあるだろうか。『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(谷口菜津子/ぶんか社)は、古い価値観を持った男性が料理を通して成長していく新時代のグルメ・ラブストーリー。グルメな著者が描く、丁寧で生活感溢れる料理描写にも注目したい1冊だ。
同棲中の社会人カップルの勝男と鮎美は、交際6年目。記念日にプロポーズした勝男だが、理由もわからず別れを告げられる。気持ちを切り替え、出会いの場に繰り出すが、そこで「筑前煮が作れるような子がタイプ」と語る勝男。もちろん全くモテない。何かがおかしいと気づき、実際に筑前煮を作ってみることに。慣れないながらに料理をすることで、鮎美の気持ちや日々の言動を考え直し、今までの「あたりまえ」を見つめ直していくのだった。
本作では料理初心者ならではの思い込みや苦労、料理の工程がとても細かに描かれている。たとえば、家庭的な料理として好まれる筑前煮。勝男は「切って煮るだけ」と考えていたが、野菜の皮むきやこんにゃくの下処理、サヤインゲンの別茹でに苦戦し、現実の厳しさを痛感する。顆粒だしを頭ごなしに否定していた自分を悔やみつつ、具材を切りながら鮎美の飾り切りに込められた愛情を思い知る。各工程をこなしながら変化する勝男の感情に、読者も共感を覚えるのではないだろうか。
料理が好きな人も苦手な人も、勝男にツッコミを入れたり共感したりしながら楽しめるはず。化石男と呼ばれる古臭い考えに縛られた勝男が、料理を通してどんな変化を遂げるのか。その成長は、皆さんの心にもお腹にも響くものがあるはずだ。
文=ネゴト / fumi