読書のすゝめ/絶望ライン工 独身獄中記㉞
公開日:2024/12/25

こんなエッセイを恥ずかしげもなく連載しているくらゐだから、絶望某とやらは随分と読書家なのだらう。
そう噂される事があるが、実情まったくそんなことはない。
読書という二文字がやや威圧的な高尚さを醸し出してはいるが、活字を読むのが好きなだけでそれは別に本でなくとも何でもよい。
インターネットサービス「X」を眺めるだけで毎日大量の活字が流れてくるし、匿名掲示板やダーク・ウェブで誰かの醜聞(たまに自分の)を面白おかしく読む日もある。
一日の終わりにコメント欄を読んで満足する時もあれば、持ち帰ったタウンワークの求人を熱心に見る時もある。
令和の暮らしは活字に溢れている。
最近の若者は本を読まずけしからん、などと宣うご老公もいらっしゃるかもしれないが、ネットを眺めれば活字の海である。
昔より文字に触れる機会は圧倒的に増えたと感じる今日この頃だ。
本なんてダセぇよな!ギャハハ!TikTok観ようぜ!
などと言っている輩ですら電車内では音を消し熱心に字幕を読む。
酒とパチンコとポルノサイトしか楽しみのないオッサンも、閲覧するコンテンツを選ぶためスケベ動画の説明文を必死に読む始末だ。
ところでポルノサイトの概要欄は実に面白い。あすこでしか見ることのできない、新しい日本語に触れる事ができる。
ホットで魅力的な性的体験!いやらしい超セクシーなだらしない行為。それを見ることができます!比類のない成熟したテクニックで、ハードコアを促す。すべてのアクションを見逃さないでください。(ENG SUB)
などと書いてある。愛と欲望をテーマにした短い男女の物語、これはもう純文学である。
ホットで魅力的なポルノサイトの概要欄に、貴方は国境を超えた文学を見出すことができます!見逃さないでください。(ENG SUB)
TikTokやポルノも大変にホットであるが、自分の場合小説の文庫本を特に好む。
好きな作家や作品を挙げればきりがないため、それは言わぬがとある時代小説から多分に影響を受けた様が今の暮らしである。
文庫本は便利だ。愛おしいパートナーでもある。
通勤電車で、休憩時間に、寝る前に。いつでも好きなタイミングで物語に還ることができる。
安い居酒屋に入り、漬物でも齧りながら読むのも実に楽しい。
酔いが廻る頃には読み終えるが、なんてったって酔っている。うろ覚えの結末を、翌朝読み直し二度楽しむことすらできるってわけ。
小説は不思議なもので、時間を置いて読み返すとまったく感じ方が変わる作品がある。
夏目漱石の「三四郎」がまさにそれだった。
学生時代に初めて読んだ時は、なんと退屈で単調な話だ、これなら電話帳でも眺めている方がマシだぜ、などと散々たる感想を持った。
名作と言われるが所詮時代錯誤の古典文学。2ちゃんねるでビッグダディの私小説読むほうがリアルで楽しいぜ!ギャハハ!
(当時ビッグダディと思われる人物が匿名掲示板上に私小説を投稿していた)
時を経て36歳になる。自称音楽家、ほぼ無職。中年、貧乏、妻子なし。
そんな絶望的な状況で読む三四郎は実に堪えた。
美しい街並み、希望に満ち溢れた若者達のキラキラした暮らし。
小さな出来事で少しずつ変わっていく心の動きや淡い憧れ、風のない湖面に広がる波紋のように静かで清らかな恋心。
それら全てが羨ましく、狂おしいほどに妬ましい。
自分には何もない。若くもなく、もうあの頃には戻れない。
この生活には希望もなく、湖面にはさざ波すら立たぬ。
学生時代に退屈な凡作と感じた物語は、それら全て失った今直視できぬ眩しさをもって目の前に再び現れ、鋭利な鉾となって私の胸を衝いた。
それから5年。順調に婚姻の機会を失い続け、今では独身獄中暮らし。
多くの友人、知人達がウェディング・ベルを叩き鳴らし、幸せな家庭を築いていく。
いい感じだと思っていた女性は皆ポっと出の男と突然結婚しちまう。
三四郎に登場するヒロイン、里見美禰子も例外ではなく、主人公ではなくポっと出の男と結ばれる。
取り残されていく感じが恐ろしく、すがるように婚活パーティーの門を叩き、今日に至る。
三四郎を読んで、どう感じるか。
今幸せであれば退屈な作品に、そうでなければ心をかき乱される程の羨望に毒される。
それは人生のジャッジメントですの。
この素晴らしい物語のあらすじを、末項に記す。
性的魅力による興奮の時間!日本人ストレイ・シープは熱烈な夜を楽しみます。ホットな体験をさらけ出す!迷子の羊はハードコアなモデルを伴い大学生を誘惑。それらの34ロウ行為すべてを見逃さない!東京で超セクシーなライスカレーを食べましょう!(ENG SUB)
<第35回に続く>42歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。