「夫の飼い猫との対面は、彼の連れ子と初めて会うような感覚でした」。『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』が伝える動物と暮らす幸せ【インタビュー】
更新日:2025/4/1
人にせよ動物にせよ、愛する喜びが増えるほど楽しい
――マンガの作画についても、お話を聞かせてください。ガーラさんがシャーンと現れるシーン(#233)では、「え、こんな体型の猫いる!?」と思いましたが、掲載された写真を見るとそっくりで。シンプルな線ですが、ものすごく特徴を捉えていますよね。
松本:ガーラさんは、うちの猫さまとは何から何まで違ったんです。猫の手ってクリームパンみたいですが、ガーラさんは指が長いので切り込みの長さが全然違いました。うちの猫さまはまん丸なんですけど。
――そういった描写や作画のこだわりについて教えてください。
松本:あんまり丁寧に細かい線を描かず、長い線で一気にシュッと描くようにしています。デジタルなので、失敗したら元に戻してやり直し。下書きを一生懸命に描いて線をなぞる方法も試したことがありますが、やっぱり一発描きのほうが動物たちがいきいきとするんですよね。この方法のほうが、ダイナミックな線になり、動的に描けるのではないかと思います。
――あっさりした線のようですが、とても写実的で動物の骨格が感じられます。
松本:猫の肩関節や犬のかかとの関節が好きで、しっかり見ているからでしょうか。ガーラさんの肩甲骨のあたりも、かっこよくて大好きです。ただ、普段見慣れていない鼻ぺちゃ系の猫や短毛種の猫は、体型も違うので描くのに時間がかかります。犬だとダックスフントはちょっと描くのが苦手かな。やっぱり飼っている犬種は、毎日見ている分、描きやすいですね。
――この作品は、最初にTwitterに投稿して以来、今でも新作をXで発表しています。発表媒体をSNSにしているのはなぜでしょうか。
松本:雑誌でも連載していますが、読者の反応がダイレクトに届くことはあまりなくて。静かに自分の世界を追求していくイメージがあるんですよね。一方、SNSのマンガは、違うジャンルを築いているような気がします。
マンガを描くスタンスって、人それぞれ違いますよね。家でひとり、どこにも発表しないマンガを描く世界もありますし、自分の世界を守りながら描いていく同人誌の世界、多くの読者を意識して、売れるものを描いていくという商業誌の世界もあります。
私の場合、誰かが読んでいることを意識して描くと、爆発力やエネルギーが生まれて独特の世界観や作品が生まれる気がして。こうした読者とエネルギーの相関において、もっともエネルギー値が高くなるのがSNSだと思うんです。「SNSはアンチコメントが怖い」「ビュー数が気になってしまう」という声もありますが、私の場合、読者の皆さんのコメントが刺激になり、作品がまた新しい形になっていくのがとても面白くて。性に合っていると感じます。
――松本さんと読者の方は、とてもいい関係を築いていますよね。アンチコメントもほぼないのでは。
松本:そうですね、皆さん楽しんでくださっています。コメントも優しいですし、ご自分が飼っている犬や猫の写真を載せてくださる方もいて、エネルギーをいただいています。「こういう表現は危険だよ」「こう誤解される可能性もあるんじゃない?」という意見をいただいた時は、「なるほどな」と耳を傾けるようにしています。
――現在は不定期連載ですが、それはやっぱりお子さんが生まれて忙しいからでしょうか。
松本:単純に時間がなくて……。ただ、引き続き描いてはいるので、今後も不定期ですが投稿を続けていきたいです。
――『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』を読むと、自分も犬や猫と暮らしてみたいという気持ちが湧き上がってきます。ただ、ペットと暮らした経験がない人の中には、「自分に育てられるだろうか」「ペットを不幸にしてしまわないか」と気になって、なかなか一歩が踏み出せない人もいると思います。迷っている人に向けて、アドバイスやメッセージはありますか?
松本:犬は最初しつけが必要なので、生活にぬるっと入り込ませるなら猫がおすすめです(笑)。猫は本当に飼いやすいですね。早起きで飼い主を起こしに来るので、生活も整いますし、猫にとって危険なもの、噛まれたくないものは置かなくなるので部屋も片付きます。
私の場合、パンも隠していましたね。うちの子は今1歳ですが、パンが好きで、パンを見つけると大暴れするんです。やむなく冷蔵庫や電子レンジの中にパンを隠すのですが、そういえば猫さまを飼っている時もそうだったなと思い出しました。私は、パンを隠し続ける人生を送る運命なのかもしれません(笑)。

――最後に、人間も含めて犬、猫、トカゲなどの動物と暮らす楽しさ、そこで得られる幸せについて聞かせてください。
松本:家の中を好き勝手に動き回る存在がいるって、なんだか心地いいんですよね。人と暮らすのは難しくても、動物との暮らしならそこまで自分を曲げることもないように思います。
夫と共同生活をしていいなと思うのは、ひとりよりは寂しくないことかな。誰かと一緒に生活すると、外出して自分の時間を楽しんでる時にも「あ、これ、あの人が好きだったな」と思って買って帰る喜びがありますよね。人にせよ動物にせよ、何かを大事に思ったり愛したりする喜びが増えれば、その分日々の楽しさも増えると思います。
取材・文=野本由起