他人には見せない時間の共有者 ―青春、超微炭酸系のスクールライフコミック!
公開日:2016/1/29

「誰しも、他人には見せない一面がある。私達は他人には見せない時間の共有者になった」。もしも自分が高校生の時、自分の「他人には見せない姿」を同級生に見られてしまったら。しかも、それが異性で、話したこともないような相手だったら……。『ホリミヤ』(HERO:原作、萩原ダイスケ:作画/スクウェア・エニックス)は、そんな「秘密を共有する男女」の、甘く切ない(そして笑える)恋愛スクールライフ漫画だ。
原作は「堀さんと宮村くん」というWEBコミック(単行本にもなっている)。それを、作画を変えてリメイクしたのが本作『ホリミヤ』。コミックのコミカライズというわけだ。それだけでも『ホリミヤ』がいかに愛されている漫画か分かるだろう。
このストーリーの面白味の一つは、「表と裏がある主役の二人が、誰にも知られていない秘密を共有している」ことにあると思う。
主役の一人、堀 京子は、学校では明るい人気者。スクールカーストなるものでたとえるなら、トップグループに入るような、見ためも可愛く、やや派手な印象を持たれる女子だ。しかし実際、家では共働きの両親に代わり、弟の世話や家事を行う、家庭的な女の子。髪を適当にまとめて、常にジャージを着ている地味な姿は、学校の誰にも教えていない秘密だった。
そんな姿を、ひょんなことからクラスメイトの宮村伊澄に知られてしまう。この宮村も、学校では髪の毛が長く、メガネの暗いオタク系の男子。スクールカーストでは、確実に最下位になるような、超もさい男の子なのだが、学校外の宮村は耳にいくつもピアスを空け、入れ墨をしている美少年なのだ。
誰にも知られていない一面をお互いに知った二人は、友人として仲を深めていくのだが、次第にお互いは「友情」以外の感情も抱いていくようになる。
だが、すぐに告白して両想いとならないのが、堀と宮村だ。しっかり者でがんばり屋の堀と、天然系で少し変わっている宮村の恋愛はそう簡単に大団円とならない。
そのじれったい様子と、大人のような子供のような、そんな高校生ならではの甘酸っぱい展開が、何とも言えず、読んでいてドキドキしてしまう。お互い気の置けない仲なのに、肝心なことは話せなかったり、聞けなかったり、相手を独占したいと思ってしまったり、「好き」という感情が迷走したり、爆走したりする。
そんな中で、親しい友人もでき、修学旅行に行ったり、生徒会役員と関わりを持ったりと、楽しい学園生活を送る堀と宮村。「秘密を共有している」以外は、ごく普通のスクールライフを描いているだけ。
特段、悪いやつや、(恋の)ライバルらしいライバルも出てこない。登場人物は個性的だが、基本「いいやつ」なのだ。だからこそ、「超微炭酸系」と称されるコミックなのに、どうしてこんなにドキドキするのだろうか。
それは堀と宮村の心を開いているようで、開ききっていない、いや、むしろ「恋愛感情」があるからこそ隠してしまう本心を、読者も知りたくて知りたくて仕方がなくなるからではないだろうか。そうこうしているうちに、不思議なくらいホリミヤワールドにハマってしまうのだろう。
自分の青春時代も、こんな風なら良かったのに、と思わずこぼしたくなるような物語だが、学園一のイケメンと、刺激的なラブストーリーを繰り広げるような漫画よりかは、身近に感じることができるのも、『ホリミヤ』の魅力かもしれない。超微炭酸系のスクールライフなら自分も送れたのではないだろうかと、そんな想像さえ、させてくれるところも楽しい。
この冬、心が温かくなる、ぜひとも読んでほしいコミックだ。
文=雨野裾