今一番おススメしたいBLマンガ『俺は仕事ができない』―ハイテンションギャグ、なのに意外と純情ハートフルストーリー!?
更新日:2018/2/19

女性なら一度は、石油王の第○夫人になってファビュラスに暮らしたいと思ったことはないだろうか? その願望が叶う(?)BLマンガがある。『俺は仕事ができない』(ちしゃの実/竹書房)だ。
そこそこ順調に人生を送っていたはずのサラリーマン名鳥(なとり)は、社会人5年目にして気が付く。「自分は仕事ができない」と。要領も悪ければ、ミスも多く、指示待ち人間。同期が出世していく中、落ちこぼれていく。やる気がないわけではない。手を抜いているわけではない。「やってもできない人間」なのだ。
本来なら、落ち込むなり、さらなる努力を重ねるなりするところだろうが、名鳥は違った。「こりゃあ……もう、誰かに養ってもらうしかねぇな」(悪い顔)。
ということで、自分を養ってくれる相手を探すことに。仕事はできないが、明るく見た目も可愛い名鳥には、案外多くの立候補者が現れる。変態上司、ホスト王、さらには、石油王にまで見初められ、アラブでのゴージャスな生活……!
だが、もちろん本作は、愛嬌のあるアホの子が、愛はないけれど金持ちとくっついて成功するという物語ではない。
同僚の市ヶ瀬(いちがせ)は、不愛想で鉄面皮だが有能な、名鳥に想いを寄せる年下上司。そのため、他の男に養われようとする名鳥と、養おうとする猛者たちを食い止めるべく画策する。市ヶ瀬は名鳥の高校時代のバスケ部の後輩であり、エースとして活躍していた名鳥のことがずっと好きだった。
名鳥はその想いに薄々気づきながらも、お互い一歩踏み出せないでいる(けれど、身体的なスキンシップはある)という、微妙な関係なのだ。
全体的にハイテンションなギャグなので、「仕事がうまくいかないから、いい男に養われたいぜ」という名鳥と、立候補者の「ぶっ飛び具合」に笑いながら読める作品なのだが、この二人のじれったい関係は、心理描写を重視する系のBLが好きな私もグッときた。
誰でもいいから養ってほしい名鳥だが、後輩である市ヶ瀬にだけは養われたくないのだ。バスケ部の先輩としてのプライドだったり、社会人として情けないところを見られていることへの葛藤だったり……名鳥にとって市ヶ瀬は色々な意味で「特別」だからこそ、名鳥は市ヶ瀬にだけは甘えられないのである。ほぼ両想いなのに、くっつかない二人……はがゆいけれど萌える……。
しかし、様々な困難を越えて二人は結ばれる。市ヶ瀬が石油王から名鳥を救い出すシーンなんかは、往年の名作少女マンガを読んでいるようで、胸キュン必至ではないだろうか。「やっぱ王道は最高」だと思わせてくれる展開もあり、読みどころがたくさんの作品だった。
名鳥がただのクズリーマンではなく、本人なりにがんばっている姿や、学生時代の栄光と現在のギャップに悩んだりする姿は、BLという枠を越えて共感できたし、その過去の関係があるから市ヶ瀬に対して素直になれない姿は萌えるし、でも決める時は決める男らしさもあって好感が持てた。さらに、口は悪いけれど名鳥一筋で実はかなりのハイスペックである市ヶ瀬の執着攻めもよかった。
友人に「ハッピーエンドのいいBLある?」と聞かれたら、本作を教えるだろう。今一番おススメしたいBLマンガである。
文=雨野裾