圧倒的「オトナBL」! 生死不明の想い人を追う、堅物検事は……『夜が終わるまで』

マンガ

更新日:2018/8/6

『夜が終わるまで』(西田ヒガシ/祥伝社)

 爆発的な大ヒット作があるわけではないのだが、ストーリーの「圧倒的な魅力」に、着実にファンを増やし続けているBL作家、西田ヒガシ先生の最新作『夜が終わるまで』(祥伝社)が発売された。

 堅物検事の日浦(ひうら)は、ある男に抱かれる夢を、繰り返しみるようになった。男は、とある暴力事件に巻き込まれ、生死不明になっている弁護士、影山(かげやま)。酔ったチンピラに絡まれ「殺されたかもしれない」彼は、日浦の司法研修所の同期で、数少ない友人であり、また、ひそかに「気になる相手」でもあった。

 生真面目で親しい友人もいなかった日浦にとって、気さくで明るく、いつも人の中心にいる影山は魅力的な存在。そして一見リア充に見える影山も、心の底では日浦の生き方に憧れを抱いていた。だが二人は自分の気持ちを明らかにすることなく、検事と弁護士として、それぞれの道を歩むことになる。

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 だが、数年が経ち、日浦にとって「特別な存在」だった影山が、自分の担当事件の被害者となってしまった。容疑者の証言はあいまいで、取り調べは一向に進まず、影山の遺体も見つからない。平静を装いながらも、不安と苛立ちを募らせる日浦は、望みを捨てずに彼の行方を捜していた時、影山とそっくりな彼の弟・直人と出会う。

 日浦は直人のことが、どうしても影山に見えてしまう。そんな瓜二つの弟と、捜査の過程で接触するうちに、日浦は段々と、「夢」と「現実」の区別があいまいになっていく。弟の直人は影山ではないのか? 影山に抱かれる夢は、本当に夢なのだろうか?……混乱しながらも、事件の核心に迫っていく日浦。物語の結末は、思わぬ展開に――。

 ……というのが、あらすじ。

 一読しただけでは、分かりづらい箇所もあったりするので、何度か読んでみると、そのつど違った「気づき」があるはずだ。また、読者がそれぞれに「私はこう解釈した」と読んでもいい作品かもしれない。

 本作の一番の読みどころは、そういった「結局、どっち?」という事実より、この事件によって動き出した日浦と影山の関係ではないだろうか。

 研修所時代、日浦は不器用がゆえに、影山は日浦への「憧れ」や自分自身への「劣等感」ゆえに、お互いがお互い、気持ちを隠していた。その伝えられなかった想いや、敢えて気づかないフリをしていた相手への好意。長年隠していた「本心」が、影山の失踪事件を追うことで、大きく変化していく。この辺りの心理描写や、感情の「機微」の巧みさが、本作の魅力の一つなのだ。

 西田先生の作品は、ものすごくカッコいい攻めとか、かわいい受けが出てくるわけでもなく、オシャレで素敵な恋愛が繰り広げられるわけでもないのだが、妙に物語に惹き込まれる。

 それはきっと、登場人物たちが、非常に「人間くさい」からだと思う。好きなのに、思うように表現できない「歯がゆさ」とか、好きだからこそ、カッコ悪いところを見せたくなくて、背伸びしてしまう見栄とか意地とか、「人間くさい」感情がいっぱい詰まっている。

 そういう意味で、本作は圧倒的に「オトナ」な物語であり、その「人間くさい」男たちの不器用な恋愛に、読者は魅了されるのである。

文=雨野裾