もし動物と会話ができたら…? 函館を舞台に描かれる、もっふもふの動物たちとの生活
更新日:2018/10/9

私事で恐縮だが、高校生の時に家にやって来た柴犬が、14歳の老犬になった。片目は完全に見えず、もう片方の目もほとんど見えない。自力でソファに登れなくなり、散歩も近所の公園をゆっくりと一周程度。夜中に徘徊をすることもある。
ご飯だけはよく食べてくれるのが救いだが、子犬だった頃には考えられない様々な変化が起きた。
だが、共に過ごした時間が長いからだろうか。愛情は年月と共に増える一方で、人間のエゴだが、長生きしてほしいと願っている。一日でも長く温かな身体に触れていたい。そして、家に来て幸せだったかどうか聞いてみたいと思うのである。
加藤えりこの『こはる日和とアニマルボイス』(KADOKAWA)は、動物の声が聞こえる義兄の真樹と久々に同居することになった小陽(こはる)のマンガだ。
物語は、唯一の肉親である母親を亡くした中学生の小陽と、彼の相棒でもある柴犬のひよりが、6年ぶりに、過去に1年間だけ共に暮らした真樹のもとで再び暮らすことになるところから始まる。
小陽にとって共に過ごした1年は、人生で一番幸せだった時間。
記憶の中では、真樹はいつも動物たちと楽しそうに会話をしていた。そして、自分も動物と話ができた気がするのだが、再会した真樹は動物と話すところを目撃されても「今のは独り言だから」と断固として認めようとしない……。
真樹の家には、いつも様々な動物がやって来る。アライグマ、たぬき、ご近所に住むマダムの飼い犬のポメに野良ネコたち。彼らは、動物には基本「無」を通す、忙しい大学講師の真樹に懐いており、時には自ら枕や湯たんぽにもなるほどだった。
そんなある日、家には真樹の幼馴染である獣医の朝比奈が訪れる。
彼は、折れ耳が特徴の猫・スコティッシュフォールドを抱いていた。話を聞くと、この猫は病気を抱えており、生涯治療費がかかるとのこと。飼い主はそれを払うのが嫌で逃げてしまい、新しい家族が決まらず困っていると話す。
小陽は思わず「じゃあうちに来る?」と提案するのだが、真樹と朝比奈に反対される。
「生涯 犬は300万 猫は150万位かかると言われてる この子は病気もあるからもっとだね かわいそうだからって簡単に飼うのを決めちゃいけないんだよ この子が死ぬまで面倒をみるという責任を持たないと」
その言葉を聞き、簡単に動物を飼いたいと言ったことを猛省した小陽。里親探しを手伝うのだが、とんでもなく非常識な里親候補に出会ってしまい落ち込む。
そんな小陽の様子を見た真樹は「里親探しはもうやめろ」と告げ、施設送りにしない最善の提案をするのだが――?
本書は他にも、函館水族館の脱走癖のあるケープペンギン道代(※ちなみに「道代」は飼育員の逃げられた妻の名前)や、単身赴任の夫がいる母と赤ちゃんを守るシベリアンハスキーのチョビ丸などが登場する。
中でも飼い主が亡くなってしまったものの、空き家から決して離れようとしない15歳のおばあちゃん猫の「ましろ」の話は涙が止まらず、真樹が「動物と話せることは良いことではないと思う 聞きたくない声も聞こえてしまう」と発言した意味を深く考えさせられた。
普通の人間は動物の声を直接聞くことができないが、彼らからは両手では足りないほど、たくさんのものをもらっている。可愛さや癒しだけではなく、命の儚さや尊さ、優しさや温もり……。身体は小さいにもかかわらず、彼らなしの人生はもう考えられないほど、存在が大きいのだ。
もっふもふの動物たちに癒されるだけではなく、動物を飼う厳しさや現実も訴えかけてくるマンガである。ぜひ読んでみてほしい。
文=さゆ