人に悪夢を見せて魂を喰らう怪物、その正体は? LaLa期待の新人デビュー作『ナイトメアの星屑』
公開日:2018/11/17

あまりにリアルな悪夢に、目が覚めた瞬間ひきつけを起こしそうになることが時々ある。現実で起きた悲しいできごと、悔しかったこと、消化しきれない怒りが姿を変えて、夜の闇をかいくぐり、穏やかな眠りを壊すのだ。つまり悪夢は、自分自身の心の隙間から生まれるもの。『ナイトメアの星屑』(のおと/白泉社)で眠りを蝕む夢魔という怪物も、人のネガティブな感情が大好物。さみしい。くるしい。助けてほしい。そんな弱音につけこんで、心を闇色に染めていく。そして弱った心ごと魂を喰らってしまう――。
そんな事態を防ぐために、人知れず活躍するのが退魔師。14歳の少年・小星(ちほ)と、パートナーの少女・恋衣(こいごろも)だ。ファンタスティックな世界観と、煌めく星がちりばめられたような繊細で美しい絵柄に反して、というよりはだからこそ、描かれる異形の夢魔はおどろおどろしく、おぞましい。
なぜ小星が退魔師を生業としているのかはわからないが、弟を探しているということが早々に明かされる。幼かった弟の真星(まほ)は、夢魔にさらわれた。残されたのは彼の小さな左手首だけ。それから5年、生きているはずのない弟の行方を、小星は他人の夢と魂を守りながら追い続けている。
手がかりの一つも見つけられないある日、出会ったのが同じ敷地の高校に通う誠一郎だ。いつからか、小星と恋衣が夢に侵入するたび、彼はそこにいる。自分の夢を抜け出すなんて普通はできるはずがないのだが、亡くなった両親に関する記憶を失っている誠一郎は、思い出のかけらを少しでも見つけ出そうとする必死。どうやらそれが魂を遊泳させている原因らしいのだ。人知れず、孤独に泣きぬれていた誠一郎は、千星たちと出会ったことで、夜を楽しみに待てるようになった。いつしか千星のほうも、年上なのにどこかあやうげで、自分を慕ってくれる誠一郎の存在を心のよりどころとするようになる。誠一郎のその“能力”に、思わぬ秘密が隠されているとも知らずに……。
夜は人の孤独を助長させる。大切な人と過ごしたぬくもりを忘れられなければいっそう、その孤独は悲壮さを帯びる。同じ苦しみを背負った2人は、急速に心を近づかせ、願いを強くしていく。
つまりは、ひとりぼっちはもういやだ、大事な人をもう失いたくないという想い。それは暗闇のなかで見つけた初めての希望であり、救いであり、それと同時にあやうい共依存の関係でもあった。そしてその隙間を、夢魔は決して見逃さない。幸せを手に入れたと思った瞬間こそ、人は絶望の淵に近づいているものなのだと、本作を読むと少しひやりとしてしまう。だって夢魔は、人の心の弱さが呼び寄せるものなのだから。
そんななか、小星と誠一郎の絆はもちろんなのだが、いつも強気でツンデレな恋衣ちゃんの存在も救いの一つ。いつも小星を見守り、支えてくれる彼女がいるから、小星は勇気をふるうことができる。はたして彼女の、小星じゃない好きな人が誰なのかは気になるところ。小星の過去を含めて、続編が出る可能性にも期待したい。
文=立花もも