読んでるだけで、ホッとする。コーヒー屋の店長と迷える人々を温かく描いた漫画『今日のてんちょと。』

マンガ

公開日:2019/2/24

『今日のてんちょと。』(おおがきなこ/セブン&アイ出版)

 美味しい一杯のコーヒーは、凝り固まった心を驚くほどにときほぐしてくれるものだ。

 仕事で行き詰まったときや、恋心を寄せる相手とのデートで緊張したとき、友達にいやなことを言われて行き場のない怒りを抱えているとき……私はだいたいいつもブレンドコーヒーをブラックで頼んで一息つくようにしている。湯気とともにたちこめる香ばしい香りに癒される。お気に入りの喫茶店があればなおよい。こだわりのカップや気のいい店主との会話でより癒される。

 2月22日に発売された『今日のてんちょと。』(おおがきなこ/セブン&アイ出版)は、とある素敵なコーヒー店で繰り広げられる日々の徒然漫画だ。

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 舞台は「こはぜ珈琲」というコーヒー店。朝が苦手で起きられない店長がひとりで経営しており、夜遅くまで開いているお店だ。ときには0時を超えても営業していることもある。お店にはいつも、店長と、犬の星介、猫の大佐、大佐の母猫ふくふくがいる。

 こはぜ珈琲に訪れたお客さんは、ポロリと、さりげなく自分の抱えているモヤモヤとした気持ちをこぼすことがある。美味しいコーヒーと、なんだかちょっと抜けた店長の癒されオーラで心のガードがゆるんでしまうのかもしれない。

 たとえば、毎晩日記に今日の気分を「○」「△」「×」でメモするようにしているムッコさんは×ばかり続く日に自己嫌悪を抱いてしまう。店長はそんなムッコさんに、外にもペンを持ち歩いて、「○だ!!」と思う瞬間に書かないと、と言うのだ。

 体重は一番軽そうなタイミングではかるでしょ、というてんちょの理論は、確かに納得。なにより「自分でトリミングした自分の姿に巻き込まれちゃだめです」って、すごくいい言葉だ……。何か呪いのようなものに縛られて滅入っている人は、この話を読むだけで気持ちが軽くなるかもしれない。

 そういう説明の仕方をすると、「悩みを抱えたお客さんに店長がズバッと解決策を提示する作品」のように思われるかもしれない。だが、『今日のてんちょと。』は、決していつも店長ばかりがアドバイスをするわけではない。ときにはお客さんの話に耳を傾けるだけの日もある。

 そこに描かれている登場人物たちの悩みは些細な日常のつまずきだが、だからこそ「ああ、わかる、私もそういうことで悩んでいた」と共感する。

 ホッとする絵柄と、ゆるいテンポ、そして店長の押し付けがましくない感じに居心地のよさを感じる。ちょっとモヤモヤしたときに、いつでも話を聞いてくれる人がいるというのは、とても嬉しいことかもしれない。私にもこんなお店があったらな、と羨ましくなった。

 ちなみに、この作品に出てくる喫茶店は実際に下北沢にある「こはぜ珈琲」というお店がモデルになっている。作者がよく通うお気に入りの喫茶店で、作品の最後にはお店や店長との思い出や、この漫画を描こうと思った経緯も描かれている。

 読んでいるだけでホッとする、この作品自体がコーヒーのような漫画だ。気持ちが参ってしまって一息つきたいときに読みたい一冊。

文=園田菜々