「性別未定」の主人公が美少女とイケメンから同時に告白されて…まったく先が読めない“初恋”物語
公開日:2019/3/31

もし、自分の肉体が「まだ男でも女でもない」状態だったら、私は一体誰を好きになるのだろう。先日第2巻が発売された、吉村旋が描く『性別「モナリザ」の君へ。』(スクウェア・エニックス)を読んで、何度も何度も考えていたが、答えはまだ出ていない。
この作品は、人間が12歳を迎える頃に自分がなりたい性へと次第に身体が変化していき、14歳になる頃には男性または女性へと完全に姿を変える、という世界の物語だ。自分の肉体が性自認の判断材料にならない。身体の変化は自分の意思による部分が大きく占める。
そんな世界で、性別がないまま18歳の春を迎えた、主人公のひなせ。自分もいずれ周囲の人たちと同じように性別が決まるのだろう、と最初は思っていたが、まるで変わる気配がない自分の姿に、だんだんと諦めを抱くようになる。
そんなひなせに、予想外の出来事が起こる。幼馴染のりつとしおりからの告白だ。
それまで恋愛対象としては見ていなかったふたりから、自分がそういう風に見られていたんだと知り、戸惑う。うれしさよりも、動揺や居心地の悪いような感情がひなせを襲う。りつからは「私がひなせを男にする!」と言われ、しおりからは「俺がお前を女にする」と言われる。
その後、定期的に診察を受けている担当医から、ホルモン値が男女ともに微妙に上昇している(この世界では、ホルモン値が男か女かで偏ることで、身体に変化が訪れるらしい)と言われる。しかし、いずれにしても体が変わるには程遠い微少な量だという。
そして、前巻となる第1巻では「無性別の身体のまま20歳を超えて生きたものは未だに存在しない」という事実が明かされて終わる。
続く第2巻では、幼馴染ふたりの恋心が明かされてから、少しずつ変わるお互いの関係性やひなせの態度が描かれる。今まで恋愛対象と思っていなかった相手の気持ちに気づいた途端、どこか居心地の悪いような感覚に陥る、というのは現実世界でもままあることだろう。同時に、その相手の肉体や男らしさ・女らしさのような部分が、以前よりもずっと目につく、ということもある。ひなせも、しおりの男の子らしい腕の筋肉や、りつの女の子らしいそぶりに、以前よりずっと心動かされるようになる。明らかに意識してしまう。
美少女と美男子から同時に言い寄られる主人公、とだけ聞くと、なんとも羨ましい立場だが、当の本人は気が気じゃないだろう。どちらかを恋愛対象としてみることで、自分の肉体や心まで、大きく変わってしまう可能性があるのだ。
第1巻で明かされた、20歳まで生き延びることができない(かもしれない)、という謎は、第2巻でさらに深まることとなる。
果たしてなぜ生き延びることができないのか、それは解明されていない。おまけに死因には病死もあれば事故死もあり、科学的に解明できるのかも怪しい。そして、渦中にいる主人公に、新たなる大きな試練が訪れる…。
この作品が特徴的なのは、その世界観とともに随所に差し込まれる綺麗な「青色」だ。大きく心を揺り動かされるような印象的なシーンには、白黒の世界の中でパッと青色が花開く。
はじめてこの作品を読んだときに連想したのは、青いバラの花言葉だった。かつては現実に生まれることができなかった青いバラが、科学の進歩により人工的に作ることができた。その経緯から、不可能を可能にする、という意味が込められることがある。
これは完全なる憶測だが、ひなせはもしかすると、生きることが不可能だとされている「性別のない状態」を、なんらかの方法で生き延びることができるのではないか。美しい青を見るたびに、その希望を胸に抱いてしまう。
しかし、今はひなせがこれからどのようにりつとしおりの気持ちに応え、そして変化していく(もしくは、しない)のか、まるで想像がつかない。第1巻をはるかにこえる、目を疑うような展開で終えた2巻を閉じ、私は今、第3巻を心待ちにしている。
文=園田菜々
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