昭和あやかし活劇! 美少女&帝大生が奇獣の起こす事件に挑む『鬼を飼う』
更新日:2019/6/13

青年・鷹名が不可思議な生物“奇獣”と出会い、さまざまな事件に巻き込まれていく。『鬼を飼う』(吉川景都/少年画報社)はそんな奇妙な物語だ。
昭和初期を舞台にしたあやかし奇譚ももう第5巻。物語はシリアスの様相を深め、ますます盛り上がってきた。そんな本作をレビューしていく。
“架空だと思われている生き物”奇獣をめぐる奇妙すぎる物語
昭和7年から物語は始まる。帝大生の鷹名基(たかなもとい)は東京・本郷で、アリスという美少女と出会い、不思議な生き物“奇獣”を扱う「四王天鳥獣商」に導かれる。
その店主、四王天(しおうてん)とかかわるようになった鷹名は、友人の司(つかさ)と共に奇獣の起こすさまざまなトラブルや事件に巻き込まれていく。
奇獣とは 世界中の伝説や言い伝えに登場する妖怪や神。“架空だと思われている生き物”のことで、飼うことができる。だが“従わせること”はできない。
危険や代償も伴うものの、大金を払ってでも手に入れたがる人間も存在する。
なお本作のタイトルである“鬼”は奇獣全般を指していると思われる(鬼という奇獣そのものも登場し鷹名が短期間飼う)。
そして人間に従わない彼ら奇獣を、どう飼うのか、が本作のテーマのひとつであるようだ。
1巻の途中までは人情味のある怪異譚であり、妖怪は存在するにしても1話完結で、言ってみれば昭和初期の時代を楽しめる日常ものだ。(血なまぐさい話もあるが)奇獣を飼った人間、飼いたがる人間たちのエピソードが続く。
だが警察の特高部奇獣隊“夜叉”や軍の将校が登場すると、物語の様相は一変する。
夜叉は奇獣による事件を担当しつつ、奇獣を飼ってもいた。そしてこれらの事件について嗅ぎまわる記者も現われる。
奇獣商である四王天を中心に夜叉や軍が暗闘を繰り広げるのだ。
読んでいくうちに彼らのバトル、陰謀、それぞれの“目的”が本作の中心にあることがわかってくる。
そして鷹名だ。アリスを追っている記者が奇獣により命が危ないとわかったとき、鷹名は血が凍っていくように感じた。
「いいんじゃないか」
「喰われてしまえば」
思わず口にした自分の言葉に戸惑う鷹名。この時彼はアリスを守るためならば人をも殺せると思うのだった。
この奇獣をめぐる物語において、なぜ一介の学生が主人公なのか。彼の秘密も徐々に明らかになっていく。
謎と陰謀が渦巻く第5巻
徐々に世界観がスケールアップしてきた『鬼を飼う』の5巻では、夜叉のメンバーと“ある奇獣”を手に入れようとする軍部の当事者・宍戸が対決する。
そして鷹名の出自に関する秘密や、アリスに好かれている理由などが明らかになる。
奇獣は飼うことしかできないはずだった。従わせる魔法はないと四王天は言う。だがそれができる人間がいるとしたらーー?
謎が謎を呼び、キャラクター同士が複雑に絡み合い、物語は渦を巻くようにますます盛り上がっていく。
レトロな時代もの好き、妖怪好き、ミステリー好きの方たちにぜひ読んでみてほしい。
文=古林恭
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