あまりに救いのない百合漫画が登場…。佐久間結衣『わるいおんなのこ』がエグすぎる
公開日:2019/6/1

『わるいおんなのこ』(佐久間結衣/講談社)というタイトルや、その表紙の可憐さから、ちょっとエロティックな百合物語だと思って手に取ったら、とんでもない物語で腰を抜かしてしまった。
佐久間結衣氏が描くこの作品は、2019年5月7日に第4巻が発売され完結した。
舞台は、清都女子学園高等部の美術部。ある日、どこか影のある美少女・葛城繭(かつらぎまゆ)が美術部に入部をしてくるところから物語は始まる。同じ1年生のテオは、「繭ちゃん! 美術部へようこそ」と飛びつき、顧問にたしなめられる。どうやら、テオと繭は同じクラスで仲がいいようだ。
いざデッサンが始まると、繭は驚異の才能を見せる。みんなが彫刻を見ながら描く中、繭はその後ろから、デッサンをする部員たちを短時間のうちに見事に描ききっていた。美しく、才能があり、おまけに誰に対しても分け隔てなく優しい繭は、あっという間にその存在感を示したのであった。
…と、穏やかなのは、ここまで。
繭は入部初日から、不穏な行動に出始める。
その日の夜、同級生の部員を部屋に招き入れた彼女は、おもむろにデッサンを始める。すると不思議なことが起こる。部員は、鉛筆で自分を描かれるたびに、ビクビクと身体が反応してしまうのだ。自分のふしだらな反応に顔を赤らめながらも、もともと繭に対して憧れの気持ちをもっていた部員が、彼女のことを崇拝し始めるのに時間はかからなかった。「繭ちゃんの作品になれたら一体どれだけ幸せなんだろう」と想いを募らせる。
しかし、繭に陶酔しきった部員に訪れたのは、あまりに残酷な仕打ちだった。
繭は、相手の心を自分のものにしたあとは、その部員の絵を描く。それにより、彼女独自の、エロティックかつグロテスクな世界観の絵画は出来上がっていくのだった。これを皮切りに、「見たもの」しか描けないという繭は、次々に部員に手を下していく。
正直、第1巻を読んでいたときは、あまりの胸糞の悪さに心が折れかけていた。おもしろい作品だけど、出てくる女の子たちがあまりにかわいそうで、あまりに浅はかで、あまりに救いがなくて、これが延々と続くことに耐えられる気がしなかった。
しかし、1巻の終わりにかけて、物語は急展開を見せる。
副部長・咲良凌だ。
彼女は同級生で部長の槙村晶、同じく同級生の曽我部真智、そして顧問の教師までを自分の一派として、繭の行動に目を光らせていた。
悪徳の限りを尽くす繭と、そんな繭に興味を示す咲良の対決が始まる。読後感はよくないが、繭の一方的な暴虐の物語ではなくなったことで、エンタメ的にはとてもおもしろくなってくる。
両者ともにエゴイストで、正義のために動くようなことはしない。どこまでも自分の芸術や快楽のために、周りの人々を振り回し、ときに暗黒面に落としていく。ただ、悪い人間同士が自分のエゴでぶつかり合っている姿は、どこか清々しさもある。
似た者同士の繭と咲良。ふたりの決着はどのようにつくのか。
ヒリヒリとするような攻防戦を繰り広げる中で、物語が行き着いた場所とは。読むものは選びそうだが、第1巻のグロ描写に耐性があれば最終話まで十分に楽しめる作品だろう。
文=園田菜々