棚橋弘至があきらめない仕事術&生き方を伝授!「プロレス総選挙」「棚橋大人計画十か条」/『逆境からの「復活力」』⑥
公開日:2019/8/16
謙虚さを大切に! できていないことを認める。──男四十にして惑わず!?
「余裕(よゆう)」:必要分以上に余りがあること。ゆったりと落ち着いていること(三省堂『大辞林』より)
僕は3年前に40歳を迎えた。40歳は「不惑」と言われ、これは『論語』で孔子が自身の生涯について記した「男四十にして惑わず」という言葉から生まれたものらしい。
たしかに子供の頃に見上げた大人たちは、貫禄があったように思う。昔の40歳には余裕が感じられ、だからこそ惑わない〝大人たる大人〟だった。ところが、いざ自分が40歳になってみると、余裕の「よ」の字もないのが実情……。
大人とはしっかりと仕事をこなし、余暇を楽しみ、家族を温かい眼差しで見守る。これが僕の中での“大人の定義”だ。しかし、この理想像と現在の自分に大きな隔たりを感じている。
「移動」「練習」「試合」の連続で、プロレス以外のことがおざなりと指摘されても言い返せない。家の電気を消し忘れて怒られ、プロテインをこぼして怒られ、靴が揃っていないと怒られ……。「パパの洗濯物しまっておいたよ!」という息子の助け舟で、奥さんの雷を回避する始末。こんなことでは、ちっとも大人感がない。
そこで考えたのが「棚橋大人計画十か条」!!と言ってもすでに40歳オーバーなので、大人までの最短距離を走ってゴールしたい。プランは次のとおりだ。
一.頼まれたことは後回しにしない
二.時間厳守。もしくは時間に余裕を持って行動する
三.点(つ)けた電気は消す
四.こぼしたプロテインは拭く
五.こぼしたアミノ酸も拭く
六.脱いだ靴は揃える
七.タクシーに忘れ物をしない
八.衝動買いを控える
九.家族とチャンネルを取り合って、無理やり『仮面ライダー』を観ない
十.自分ができていないことを認める
とくに大事なのが「十.自分ができていないことを認める」だ。これこそがスタートだろう。
僕は普段から「自分ができないことをこなせる人には、すべて尊敬の眼差しを送る」ことを心がけている。そうすると人間関係が潤滑にいくからだ。
ならば奥さんに対しても、自分ができない家事や育児をやってくれていると思えばリスペクトの念が生まれ、ひいては夫婦円満につながる。「こぼしたプロテイン、ちゃんと拭いてよ!」と怒られたら「いや、拭いたよ!」と言い返してはダメなのだ。素直に「ごめんなさい」をスッと言えてこそ、大人だと思う。
人間、40歳をすぎたら本当の大人に近づくためにも、自分ができていないことを潔く認めるのが肝要だ。

新日本プロレス所属プロレスラー。1976年、岐阜県大垣市生まれ。立命館大学法学部時代はアマチュアレスリング、ウェイトトレーニングに励み、1999年、新日本プロレスに入門。同年10月10日、真壁伸也(現・刀義)戦でデビュー。その後、団体最高峰のベルト、IWGPヘビー級王座に何度も君臨。第56代IWGPヘビー級王者時代には、当時の“歴代最多防衛記録”である“V11”を達成した