騙し討ちで書かされた「婚姻届」からはじまった2人の関係が、“当て馬男子”の参入で動き出す……『マリッジパープル』2巻
公開日:2019/8/25

当て馬推しというジャンルがある(と思っている)。最終的には主人公がヒーローとくっつくことなんてわかっている。だがそれでも、いやだからこそ、応援したくなる魅力をそなえた当て馬男子。彼がどれだけ魅力的かで物語のおもしろさも決まると言っても過言ではない。その意味で『マリッジパープル』(林 みかせ/白泉社)の佐和田くんは完璧である。主人公・凛の気持ちがヒーロー・諭吉に傾きかけているのはわかっているが「まだまだチャンスはあるぞ! がんばれ!」と旗をふりたくなるほど魅力的だ。
のっけから性癖暴露のようなことを書いたが、もちろん諭吉も魅力的である。というかそれは大前提だ。小学生時代、6年間同じクラスだった思い出の少女・凛と3年ぶりに高校で再会し、騙し討ちのように婚姻届を書かせ、彼女を専属雑用係としてそばにおく、凛限定のサディスティック暴君(外面は完全無欠の生徒会長)。だがこの、騙し討ちのように、というのは、昔から執拗に絡んでくる諭吉のことが苦手なあまり凜が話を聞いておらず、差し出された紙を確認せずにサインしてしまっただけの話。その直前に諭吉は「……ってやるよ」と言っているのだ。聞いてなかっただけでそれ絶対「付き合ってやるよ」って言ってるよね……?
まあ、凜をそばに置いておきたい一心で「婚姻届を返してほしけりゃ3年間オレから逃げるな」「一生か3年か選べ」なんて迫るもんだから、凛に「一生いたぶるためのいじわるだ、好意であるはずがない」なんて誤解されてしまうのだが、どう見ても全力で口説いているし、何があっても凜を最優先してくれているのに、彼の気持ちに気づかない凛も凛である。1巻では確かに暴君ぶりも目立っていたが、2巻では凜の心を自分に向けるために奮闘する諭吉のいじらしさにきゅんとする。そっか……1巻で手に入れたソレ、そんなに大事にしてたんだね……などと微笑ましくなる場面も多数。「3年間逃げるな」というのはつまり彼にとっては、凜を振り向かせるための猶予なわけで。婚姻届をちゃんと意味のあるものにするために、素直になれないながらも、彼は凜を口説き続けるしかないのである。
そんな諭吉が危険視している、凜の部活仲間の佐和田。実は諭吉よりも恋愛経験豊富で、執着というものを知らないだけに距離のとりかたが絶妙だ。恋愛偏差値ゼロ、というかなにごとにもまっすぐで善良な凜は、言動の裏を読むということがない。それが、佐和田が付け入る隙ともなる。2巻では、凛は自らの意志で諭吉のそばにいると決める。完全無欠の仮面をかぶる裏側で、諭吉がひとりどれだけ努力しているのか、静かな孤独をこらえているか、本音にひとつずつ触れていくうち、心惹かれてはいくものの、恋に発展するにはまだまだ障害が多そうだ。2巻で出てきた“あのセリフ”を佐和田が言うとき、物語はまた大きく動き始めるような気がする。さらに、諭吉をパーフェクトに補佐する副会長の意味深な行動も見過ごせない。
マリッジパープルとはすなわち、マリッジブルーにピンクがまざった状態。憂鬱と恋の入り混じる凜の気持ちは果たしてどんなふうに変化していくのか。3巻の展開にも期待したい。
文=立花もも