ブクガ、覚醒。メジャー3rdアルバム『海と宇宙の子供たち』を語る――サクライケンタ インタビュー
公開日:2019/12/18

Maison book girl(以下ブクガ)のメジャー3rdアルバム、『海と宇宙の子供たち』がリリースされた。「夢」をコンセプトにした2018年11月リリースの前作『yume』は、ブクガのすべての楽曲を担う音楽家・サクライケンタの才気が全編を包む素晴らしいアルバムだったが、新作『海と宇宙の子供たち』には、今年の春から夏にかけて発表された2枚のシングル『SOUP』『umbla』でも方向性が示されていたように、「歌」を前面に打ち出した楽曲が揃った。メンバー4人のパフォーマンス面の成長に伴い、楽曲の中で表現できる幅を飛躍的に広げてきたブクガは今、「覚醒」の時を迎えている。『海と宇宙の子供たち』は、今後ブクガの音楽が広く届き、多くの聴き手を巻き込んでいくことを予感させてくれる1枚である。
今回は、メジャー3rdアルバムのリリースに伴い、メンバー4人とサクライケンタ、それぞれ個別に話を聞くことで、『海と宇宙の子供たち』が完成するまでの背景に迫っていきたい。ラストは、ブクガのすべてのクリエイティブを司る、サクライケンタのインタビューをお届けする。前作『yume』の総括と、それを受けて生まれた本作の構想、制作過程をめぐるエピソード、そして成長を続けるメンバーに思うことを語ってもらった。
一般的な4分の4拍子に曲をはめても、自分の色がちゃんと出せる自信があった
──はじめに、音楽家・サクライケンタは完璧主義者である、と自分は思ってるんですけど、『海と宇宙の子供たち』の満足度を教えていただけますか。
サクライ:『SOUP』『umbla』という2枚のシングルがあって、前作の『yume』の次にシングルを作り始めたときからアルバムのことは考えていたんですけど、そこに向けていろいろ変化もありつつ、2枚のシングルへのいろんな反応があった上で、最終的に考えていた全体の流れだったり、CDの感触であったりは、ちゃんときれいに落とし込めたかな、と思っています。
──『yume』の後に当初描いたビジョンを言葉にしてみると、どういうものになるんですか?
サクライ:『SOUP』の“鯨工場”の歌詞を書くときに、すでにこの『海と宇宙の子供たち(仮)』のタイトルがあったんですね。だいたい(仮)が外れて、タイトルが変わったりすることが多いんですけど(笑)、今回はそのまま変わらず。アルバムの内容としては、『SOUP』がわりと海のイメージがあって――今までのMaison book girlの世界があったとして、その外側を考えました。逆に今までのMaison book girlが虚構だったんじゃないか、みたいな、メタフィクション的な感じで考え始めて。
──虚構?
サクライ:はい。僕自身も含めて、誰かが作っているもの。アイドルって、基本的にはそういうものじゃないですか。そういうところを超えて、曲を作ってプロデュースをしている僕すらも、誰かが作ってたらどうなるんだろう?って思って、『SOUP』の“鯨工場”とかを作ったんですね。なので、構造としては今までのMaison book girlと『SOUP』以降は、けっこう違うと思っていて。たとえば今までのMaison book girlがメタフィクションだとして、ひとつ外側のレイヤーで、海から「あれ? ちょっとこれ、怪しいぞ?」みたいな感じで、今までのMaison book girlが気づき始めた、というか抜け出すような感じから始まって、さらにその外にもう1個レイヤーがあって。それが宇宙のイメージなんですけど、そこから生まれた別の子供たち、というイメージで曲を作りました。
──そういう意味では、前作アルバムが「夢」というコンセプトだったのは非常に納得感があるというか、つながってますね。
サクライ:そうですね。ある意味、夢オチじゃないですけど(笑)、そこでちょっと区切りをつけて。前作のアルバムは「夢」にかなりピントを合わせたアルバムだったんですけど、今回はもっと広いところを見せたいな、という気持ちはありました。
──実体化したというか。
サクライ:そうですね。わりと輪郭がはっきりしたんじゃないかな、と思います。
──なぜ今、それを実体化させたかったのか、あるいは実体化させられる、と考えたんでしょうか。
サクライ:やっぱり、メンバーの成長は大きいと思います。単純に、昔より歌が歌えるようになったり、パフォーマンスがよくなったり、表現力の部分で、今までの曲の中でも、ある意味その世界観からはみ出すようになってきたかな、と思っていて。で、このタイミングで、歌を前面に出したものを作りたい、と思いました。
──以前、Maison book girlの作品に箱庭感がある、みたいな話をしたことがあると思うんですけど、今ここで振り返ってみると、メジャー1stアルバムの『image』も、『yume』も、箱庭の中で歌われている感じがありますよね。
サクライ:うんうん。
──それは、意図して箱庭を作ろうとしたのではなくて、その時点の彼女たちの存在感、実力、佇まいが、箱庭の外側にはみ出していくものではなかった、というか。
サクライ:そうですね。まだそこに収まっている感じはあったんですけど、そこから抜け出すというか、逃げ出すというか。箱庭にいるときは気づかなかったと思うんですけど、やっと外からちょっと気づき始めた、そういうところが見えてきたんじゃないかな、と思います。逆に今回は、それを意識したというか。箱庭の外側をもっと全体的に描きたいな、と思って、曲を作りました。
──ちょっと振り返りを挟みたいんですけど、前作の『yume』は音楽的に非常に完成度が高いと思いますし、コンセプトもはっきりしているし、聴き応えがある作品だったと思うんですけど、サクライさんはどのように総括しているんですか?
サクライ:今回のアルバムができてから振り返って考えると、「さすがにちょっと、いきなりハードル高いよな、重すぎたのかな」みたいな部分はあります。3本のワンマンライブ(2018年11月・12月の「hiru」「yoru」「yume」)があって、そのあと『SOUP』を作り始めたときに、「あれ? もしかして」と思ったんですね。『SOUP』を作りながら、「これくらいでいいんじゃないの?」みたいな(笑)。
──(笑)『yume』が傑作であるという前提で言いますけど、初めてブクガに触れる人にとっては重かったかもしれないですね。
サクライ:僕もそう思います。もう、通して聴きたくないですもん。しんどいし(笑)。『yume』のほうが、一個の塊、という感じがしますよね。逆に、今回のアルバムで知ってくれた人が、より深いところを探るときに『yume』を聴いて、当時やっていたことが評価されたりしたら、面白いなと思います。
──サクライさんって、意外とリアクションの人なのかなっていう感じがしますね。自身が作ったクリエイティブに対して、自分で検証して、次はこうするっていうサイクルが回ってるというか。
サクライ:そうですね。意外と、そうなのかもしれないです。
──『yume』は大作だし、すごくいいアルバムだったけど、同じことをやり続けているわけにはいかないし、そのときにやりたいことはやりきった、というところまで到達できている。
サクライ:そうですね。アルバムごとに、ちゃんと着地させるというか。そこで僕は、一回ゼロになっちゃうんですよね。そこから考えないと、わからないタイプで。その感触って、自分でもすぐには気づかないじゃないですか。なので、アルバムができてから少しして、シングルを作り始めるときに、毎回ゼロからやっている、という感じです。そのほうが、絶対面白いと思うので。特にMaison book girlはそうなんですけど、誰かに「やれ」と言われてやっている感じではなくて。なので、自分が動かないと何も動かないんですけど、何を作るにしても、ゼロイチでやっていくのは大変なんだな、とめちゃくちゃ実感しています(笑)。
──『image』『yume』のときのサクライさんは「死にそうになりながら作った」と言ってましたけど、今回はどうだったんですか?
サクライ:今回も、もちろん同じくですよ。よく発売できたな、と思ってます(笑)。ほんとにギリギリでした。なので精神的にもけっこう……わりと今回、「こういう曲を作ろう」と思って作った曲が多くて。何も考えずに自由に作った曲が、意外と少ないんですよね。なので、いつもとは別のベクトルでの大変さはあったかもしれないです。たとえば、“悲しみの子供たち”はいつも通りに何も考えずに変拍子で作った感じなんですけど、アルバム用の他の4曲の新曲は、4分の4拍子で。一般的には、4分の4拍子の曲が聴き心地がいいとされているじゃないですか。特に日本では、4分の4拍子に体が慣れているというところで、そこでちゃんといい曲を作るっていう。それでいてブクガらしさを失わず、僕のニュアンスもそのまま生かして、4分の4の箱に音を、置いていって。誰に言われたわけでもないんですけど、少しでも人に伝わりやすくしたいと思って、自分の中で4分の4拍子しばりをつけてました。今なら、4分の4拍子でも自分の色が出せるんじゃないか、と思っていて。
──以前は、そういう感覚はなかったですか。
サクライ:逆に、「もっと攻めたことをしよう」みたいな意識はあったと思います。だけど、Maison book girlをやってきた過程で、自分も成長してきたところがあるのかなと、自分でも実感していて。一般的な4分の4拍子に曲をはめても、自分の色がちゃんと出せる自信があったのかもしれないです。
アレンジしてる曲が、寝てるときもずっと、一生流れてる
──さっき、誰かに言われてやっている感じではない、という話がありましたけど、ブクガはサクライさんがクリエイティブにおける要で、やりたいことをできるグループでもある。今、ブクガというグループを動かしていくサクライさんの中での原動力って、なんだと思います?
サクライ:なんですかねえ……イメージ的には、「できたから聴いてくださいね」みたいな感じが、僕の中では強いかもしれないです。作ったから聴いてください、みたいな(笑)。一番ストレートに表現できる場所でもあるかもしれない。でも今回は、商業的にも、もしかしたら今まで聴いてくれなかった人たちが聴いてくれる可能性も少しあるんじゃないか、今までよりちょっと間口が広いんじゃないかな、とは思ってます。
──音楽的な選択肢としてはいくつもあって、コンセプトを貫いてたどり着く最高到達点が『yume』だとしたら、違うところを目指して違うゴールにちゃんと到達したのがこのアルバムなんですかね。
サクライ:まさにそうですね。
──同時に、これまでと同じことをやっていないし、その上で「らしさ」も損なっていない。だから、今までブクガを聴いてきた人にも、喜んでもらえる作品だと思います。
サクライ:それは嬉しいですね。そういうニュアンスで伝わってくれるといいな、と思います。
──単体の楽曲では、“ランドリー”が印象的でした。『yume』のときに、サクライさんはエレキギターを使うと曲がまとまる、という話をしてたんですけど、実際ブクガの曲ではエレキギターはあまり使われていない。でも“ランドリー”を聴いて、1年越しでその言葉の意味がわかりました。「曲、まとまるなあ!」って(笑)。
サクライ:ははは。そうですよね。僕自身は、“ランドリー”を作ってたときの記憶がないですね。最後に作ったのかな? でも、歌メロを一回作って、全部作り直した気がします。他の曲と同様、ギターから作り始めて、リズムを作って。サビのギターも、はじめは要らないかな、とも思ってたんです。それで成り立つかな、と思ってはいたんですけど、試しにエレキギターを1本だけ録ってみたんです。そうしたら、やっぱりすごくまとまるんですよね。で、これは入れようと思って、1本だけ入れたんです。
──結果、何も知らずに流れているのを聴いたら、ブクガの曲だと気づかないかもしれないくらい、ポップな楽曲になりましたね。
サクライ:そうですね。他の曲と比べても、一番ブクガだとわかりにくい曲かもしれないですね。ある意味、今までなかった曲というか。
──歌にもパワーがあるし、ちょっと感動的なものがありました。
サクライ:ありがとうございます。制作中って、アルバムのことしか考えてないので、あんまり覚えてないんですよね。「半日休もう」とか、「今日はもう寝よう」とかなっても、完成するまで──完璧主義者とか、あまりブクガを商業的に考えてないとか、自分のやりたいことをやる、みたいなところにつながると思うんですけど──頭から曲が離れないんですよね。いくら休もうと思っても、離れない。制作期間が長くなるにつれ、頭が変になっていくんですよ。もう、一生考えてるんで。アレンジしてる曲が、寝てるときもずっと、一生流れてるんです。大変だと思いませんか?
──大変ですね。想像するだけでおかしくなりそう。でも、その成果なのか、ポップミュージックとしての性能という点で、“ランドリー”はブクガ史上最高の曲だと思いますよ。
サクライ:ありがとうございます。そう言っていただいて嬉しいです。僕も、少しは丸くなったのかもしれないですね。
──実際、『yume』っていうコンセプチュアルなアルバムがあったから、こういう曲が生まれたのかな、とも思います。ある方向にギリギリまで尖らせることができたから、同じ方向に尖るのではなく別ベクトルに向かうことができた、というか。
サクライ:そうですね。尖ることのほうが、簡単なんですよね。『yume』より尖ったものを作ってくれって言われたら、それは簡単にできると思うんです。意外と、容易に想像がつく、というか。だけど、そういうものを作るよりも、今回のアルバムを作るほうが脳を使いますね。こっち(『海と宇宙の子供たち』)のほうが、計算しないとできないものじゃないかなって思いますね。
──なるほど。それにしても、一生流れてるのはしんどいですね。
サクライ:一生流れてますよ。まだ流れてます。これ、マジですよ(笑)。
──(笑)言葉だけを聞くと、楽しそうではないですけど、サクライさん的にはアルバムの制作作業ってどういうものなんですか?
サクライ:全然楽しくないです(笑)。
──ははは。でも、できあがったものに対する喜びはありますよね。
サクライ:そうですね。大体アルバムができて数ヶ月経った頃に、「いいアルバムができたなあ」って、いつも思うので。徐々に時間が経つにつれて、客観的に見られるようになる、というか。今は、ほぼほぼないですけど、まだうっすら鳴ってるかも、くらいの感じです。
Maison book girlに懸ける思い、本気度を、今までにないくらいメンバーから感じる
──ブクガの4人のメンバーは、明らかに実力が向上していると思うんですけど、サクライさんは彼女たちをどう見ているんですか。
サクライ:4人の結束力とか、Maison book girlに懸ける思い、本気度みたいなものを、今までにないくらいメンバーから感じてますね。思いは、すごく強いのかなって思います。
──今回、個別にインタビューをさせてもらって、特にコショージの発言は頼もしくて印象的でした。「君はキャプテンなの?」みたいな(笑)。
サクライ:(笑)なるほど。キャプテン感ありますね、今。
──リーダーではないんですよね、ブクガの場合。
サクライ:そうですね、なんとなくリーダーではないですね。唯ちゃん(井上唯)は、普通に歌もうまくなっているし、ステージでのパフォーマンスも着実に伸びているのかな、と思います。
──他のメンバーの歌が頼もしく感じるようになった一方で、彼女の歌にはしなやかさが出てきたような気がします。
サクライ:はい。ちゃんと、伸びやかに歌うことができるようになったんじゃないかと思います。今までは、音符にきれいに乗せるように頑張ってたと思うんですけど、その中でちょっとずつ自分らしさを出していけるようにはなってきた、そこの変化じゃないですかね。和田(輪)は、いろんな声を使えるようになってきましたね。いろんな歌い方、ニュアンスというか、声の出し方や声質が選べるようになってきたのかな、と思います。
──本人も、選べる引き出しが増えた、的な話をしてました。
サクライ:そうですね。で、葵ちゃん(矢川葵)は、ふわっとしてるんですけど、リズム感がよくなりましたね。落ちサビとかでソロパートにしたり――意外と度胸があると思うので、ライブでもそういうところを任せられるようになったな、と思います。
──本人は、落ちサビを任されることがけっこう多くて、でもサクライさんになぜなのかは聞いたことはない、と言ってましたけど、実際「度胸があるから」という理由なんですか?
サクライ:特に説明しなくてもいいかな、と思ってました(笑)。僕が思うに、ですけど、度胸があるんじゃないかっていう。度胸があるので、100%を出せるとして、110、120の可能性を感じる、というか。落ちサビって、そういうパートじゃないですか。物怖じしない感じがしますよね。
──『海と宇宙の子供たち』には、現時点でのブクガの集大成という感じがあると思うんです。で、これに対するリアクションを受けて、サクライさんの次のクリエイティブが決まっていくと思うんですが、今この時点で思う、ブクガの今後のビジョンってどういうものですか?
サクライ:いつも、アルバムの後にワンマンライブをするじゃないですか。で、そのワンマンを観る。観るときって、まだ「次、こういう曲作ろう」って思ってないんですよ。だから、まだわからなくて。
──無ですか?
サクライ:無です。ちょうど、ワンマンをやるときに、うっすらあるかないか、くらいのペースですね。だから今は本当にわからないですけど、特に東京でのワンマンを観て、たぶん自分にも思うことがあるだろうし、そこはもう神のみぞ知る、じゃないですけど、僕の心境の変化が音楽に影響することもあると思いますし。ワンマンを観て僕が何かを感じて、そこから何か生まれるんじゃないかな、と思ってます。
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取材・文=清水大輔