父親・彼氏のDVに苦しみ転落死した親友の遺骨と旅に出る…! 永遠の別離と魂の結びつきを描くロマンシスストーリー
更新日:2020/1/26

幼馴染で親友のマリコが睡眠薬を飲んで転落死した…。シイノトモヨは彼女を想い、悲しみから顔を上げて“ある行動”にでる。
『マイ・ブロークン・マリコ』(平庫ワカ/KADOKAWA)はたった4話の短い物語。ただWebコミックとして発表されると、ありていに言えばバズった。というか、バズりまくった。
更新される度にトレンド入りし、多くのマンガファンの知るところとなった。描かれているのはシンプルだ。ギリギリで生きていた、女子ふたりの魂の結びつきである。
ねぇマリコ
本当に手紙の一つもあたしに残さず死んだの?

■シイノは“親友を抱えて”最初で最後の旅に出る
物語はシイノがイカガワマリコの死を知るところからはじまる。幼馴染で親友の彼女とは先週会ったばかりだった。
何も聞いていなかったことに絶望し、彼女の過去を想うシイノ。そのうちに怒りの感情がふつふつとわいてくる。「今度こそ助ける、待ってろ」刃物をバッグに放り込むと、シイノはマリコの実家へ向かった。
子供のころからマリコは、父親に理不尽な暴力を受けてきていた。シイノは彼女の横にいた。ただ何ができたわけでもなかった。
マリコの実家でその男の背中をみたとき、シイノは逆上した。ダチを“壊した”父親が、仏壇と遺骨の前に居る! 遺骨を奪い、抱えて、刃物をかざし、叫ぶ。
弔われたって!! 白々しくて
ヘドが出ンだよォ!!!

シイノのことを覚えていなかった彼には、永遠に失われた娘の言葉にも聞こえた。
そこからシイノは文字通り飛び出し、走った。どこへ向かう? マリコがくれた手紙を読み、辛かった、楽しかった記憶をたどる。
シイノは、骨になったマリコと海へ向かうことにした。こうしてふたりの、最初で最後の短い旅がはじまった。
■私たちにつかみかかってくる、対照的な女子ふたりの物語
たった4話の、遺骨を抱えて逃げる女の物語。本作はネットで大きな話題になった。ただ多くの人たちの胸ぐらをつかんで離さなかった。その理由のひとつは、作品のもつ熱だ。
道中、シイノは過去の親友と交信しながら、“壊れていた”彼女のことを思い出していく。
いつも父親のせいで傷だらけだったマリコ。
自分で自分を傷つけていたマリコ。
大人になってできた彼氏からも暴力を振るわれていたマリコ。
結局、自分で命を絶ったマリコ。
いずれも痛々しく辛そうである。シリアスなドキュメンタリーで映し出されるような、貧困や暴力から抜け出せない女性そのものだ。
ただ不思議と物語からは暗さを感じない。そこには暗く冷たい絶望ではなく、鮮烈な、熱さがあるからだ。それは主人公のシイノそのものである。
シイノはやさぐれた会社員だ。気が強く、激情家でけんかっぱやい(強いわけではない)。マリコほどではないにせよ、恵まれていたとは言えない人生だ。
だがシイノは必死に生きていた(ようにみえる)。マリコとは違った形で。親友の死にすら立ち向かい、あとさき考えずに遺骨を奪い、走り出す。
シイノは考える。自分にはマリコしかいなかった。何度もあのコのことめんどくせー女って思った。でも一番大事だった。
シイちゃんがわたしのこと嫌いになったらわたし死ぬから
死んでやるから

そう言ってあたしを脅していたくせに、ひとりで逝ってしまったあのコは、本当はどうだったのか。彼女を抱えて旅するシイノは、悩み、泣き、怒り、もがく。絶望に打ちひしがれているだけで終わらない。
そこには生者の意思と行動がある。私たちをつかんで離さない熱があるのだ。
■永遠の別離と魂の結びつきのゆくえを描くロマンシスストーリー
恋愛感情のない(性的なつきあいもない)女性同士の深い結びつき、連帯、関係をロマンシスと言うそうだ。
本作はシイノとマリコの永遠の別離からはじまるロマンシスストーリーだ。ギリギリで生きていたふたりは、お互いを必要としていた。それなのに生と死が永遠に彼女らの身をわかつのだ。
彼女たちの魂の結びつきは断たれているのか。ふたりの、ふたりだけの物語を、4話いっきに読んで、確かめてみてほしい。
美しい読後感を約束する。
文=古林恭