「今月のプラチナ本」は、田島列島『水は海に向かって流れる』
更新日:2020/2/6

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
『水は海に向かって流れる』(1~2巻)
●あらすじ●
高校への進学を機に、学校から近いおじの家に居候することになった少年・直達。だが最寄りの駅に迎えに来たのは、見知らぬ大人の女性・榊さんだった。案内された家の住人は26歳OLの榊さんに、なぜかマンガ家になっていたおじさん、女装の占い師、眼鏡の大学教授と曲者ぞろい。直達を加えた男女5人での奇妙な共同生活が始まるが、ある日、直達は榊さんとの間に思いもよらぬ因縁があることを知ってしまい――。
たじま・れっとう●2008年前期MANGA OPENにて、さだやす圭賞を受賞。田谷野歩のペンネームで『モーニング』に読み切り「ごあいさつ」「官僚アバンチュール」を発表。ペンネームを変更後、「おっぱいありがとう」「お金のある風景」などの読み切りを発表し、14年、『子供はわかってあげない』で連載デビュー。18年より『別冊少年マガジン』にて『水は海に向かって流れる』を連載中。
編集部寸評
自分の選択は、人に何を及ぼすのか
人は何かを選んで生きていく。そしてその選択は波風を起こし、他の誰かに打ち寄せる。かつて直達の父と榊さんの母は駆け落ちを選び、「子供」だった直達と榊さんは否応なく楔を打ち込まれた。「捨てられる」という怯え。「恋愛しない」という決意。そんな直達と榊さんも選択を繰り返し、周囲に影響を与えていく。選ぶことは怖い。しかし、何も選ばないという選択肢だけはこの世にないのだ。迷いながら、間違えながら選んでいく2人のこれからを、読者も一緒に追っていくしかない。
関口靖彦 本誌編集長。読みながら編集部員でキャスティング。榊さん:三村、直達:前田、ニゲミチ先生:西條、泉谷兄:鎌野、泉谷妹:有田、教授:村井、直達の父:川戸。
脇を固める人々も魅力的!
登場人物たちが、特に脇を固めるニゲミチ先生、教授、そして主人公・直達の同級生である泉谷さんがいい。泉谷さんは「入学してすでに3人に告白されたというウワサの」美少女として物語に登場する。だけど彼女の魅力は、容姿だけではなくて憎めない言動にある。直達とのやりとりはもちろん、ニゲミチ先生との掛け合い、榊さん、お兄ちゃんとの関係性など、彼女のおかげでほかの登場人物たちがより魅力的にみえる。ということで、彼女にはぜひ幸せになってもらいたいのです。
鎌野静華 お正月が過ぎると、毎年思うことがある。家庭用餅つき機を買うかどうか。今年もやっぱり欲しくなった。つきたてのお餅の魔力っておそろしい。
流れ込んでくる今を逃さないように
3巻の刊行が9月頃と知って絶望した。怒ってるじゃん、泣いてるじゃん。誰が見たってそうわかるニゲミチと泉谷妹、面白がり屋の泉谷兄と教授。その狭間で榊と直達はお互いを観察する。怒っているのか、泣いているのか? それは自分自身のことでもある。だからもっと知りたくなる。相手が好き、自分が好き。そしてついに2巻の終わりで二人はお互いに穴という穴をかっぴらく(目と口)! 精一杯、今を受容するかのように。先が気になりすぎるので、連載には穴を空けないでほしい。
川戸崇央 本作は家屋の対比も面白く、一戸建てのニゲミチハウスには塀さえない。2巻までで5つ?の生活空間が出てくるが、いつか間取りを解説してほしい。
膠着した心がうごくには
〝おじさん〟の家で共同生活する大人たちは、感情的ではなく他者に対し優しさと距離感があって、居心地がいい。人生を割り切っている大人たちの関係だが、けれどそれじゃ人生はドラマチックに動かない。「一生恋愛しない」と思いこんできた榊さん。榊さんに「いい子じゃなくていいから」「半分持ちたい」と言ってしまう直達。10年引きずってきた膠着した心は、ストレートでピュアな気持ちを受け止め、動き出していく。現実もきっとそうだ。誰かをつきはなしてばかりじゃ、変わらない。
村井有紀子 大泉洋さん主演映画『騙し絵の牙』豪華キャスト発表になりました! 撮影現場で中村倫也さんと大泉さんを見てニヤニヤしていた担当編集者でした。
「雨と彼女と贈与と憎悪」
「世界に必要なのは/誰かから渡されたバトンを次の誰かに渡すことだけだ」と前作『子供はわかってあげない』で描いた田島列島。だが本作は、親から渡された何かを、次の誰かに渡さないようにする女性がヒロインだ。「怒ってもどうしょもないことばっかりじゃないの」とごちる彼女と、その何かを半分持ちたいと願う少年のボーイミーツガール。と同時に、さりげなく登場するレヴィ=ストロースしかり人類学的な〈交換〉を描いている話とも……って文字数足りん!! とりあえず読んでくれ!!
西條弓子 見出しに置いたのは本作第1話のタイトル。しびれる〜! 今月はバレンタイン特集(?)を通じ、真の贈与とは何かを考えました……(嘘)
コドモだって関係ある
のんびりしたテンポに乗せられて気楽にページをめくっていたら、鋭いセリフがぐさぐさ刺さる。お互いの間に存在する因縁を隠そうとする榊さんと、知ってしまった直達。自分のためにつくのは悪い嘘で、相手のためにつくのはいい嘘だと聞くけれど、本当にそうなのかな? 事実を知らないことで、怒りや悲しみを感じずに済む場合はたしかにある。でも、相手の負の感情を奪うことは、結局嘘をつく側のエゴなのかもしれない。見て見ぬふりをせず、前に進もうとする直達に幸あれ!
三村遼子 年末、人生初のインフルエンザを発症。熱で節々が痛いとはこういうことか……と思い知りながら寝倒しました。積読は今年に持ち越しです。
二次被害の苦しみが一番しんどい
かわいらしい絵柄にだまされてはならぬ。人間のエゴを、当事者ではなく周囲の被害者側から描いた本作は、読み手の情と道徳心をひどく揺らす。「私の中に修羅がおるのです…ちょっと考えればこんなみんなイヤな思いしなくてすんだのに」「みんなにもいるよォ~ ピロリ菌みたいなもんだよ」誰にだって持ち得る病原菌を発症させるかさせないかは、その人次第。己の欲望で動かず、周囲への二次被害を出さないように治療せねば……と、新型肺炎ニュースに慄きながら、心に刻み込んだ。
有田奈央 山椒味噌にはまりました。日本酒を飲みつつ、山椒味噌をつまみ、食べ物小説を読むのが最近のブーム。青唐辛子味噌×焼酎×グルメマンガも最高。
流れに身を任せるか、向き合うか
人生には多かれ少なかれ、どうしようもないことがあると思う。直達が知ってしまった榊さんとの因縁も、変えられない過去の事実の結果であり、実の父という〝他者〟によって与えられたものだ。蒸し返したところで何かが変わるわけでもなければ、ただ思い悩むことが増えるだけ。それでも彼は、榊さんが背負うものを半分持とうとする。ただ流れに身を任せて、煩わしい現実から逃げることもできるけれど、あえて目を背けずに、自分自身とも向き合い始めた直達が格好良かった。
前田 萌 年末年始は実家に帰省。終電が24時過ぎまである東京の凄さを実感していました。私の地元では終バスが21時……! 健全な時間に帰れますね!
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