最新シリーズ放送直前、『ソードアート・オンライン』特集――『SAO』を磨き育てた、4人のプロデューサー座談会【後編】
公開日:2020/7/3
TVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』最終章が、いよいよ7月11日(土)にスタートする。「アリシゼーション編 最終章」となる本作で、待ち受けている物語とは――? 期待が高まる放送に先立ち、ダ・ヴィンチニュースでは、3本のインタビューを通して『SAO』の真髄に迫っていきたいと思う。第3弾は、『SAO』の第1期《アインクラッド》編から最新作《アリシゼーション》編まで関わってきたプロデューサー陣=アニプレックス・岩上敦宏氏、A-1 Pictures・柏田真一郎氏、EGG FIRM・大澤信博氏、ストレートエッジ ・三木一馬氏に集まっていただき、それぞれの組織の代表取締役も務める4人に、『SAO』への想いを語り合ってもらった。TVシリーズから劇場版へステップアップした経緯、そして《アリシゼーション》編最終章にかけた思いとは? 『SAO』の過去と未来を見通す、貴重な座談会だ。

――第2期まで放送を終えて、劇場版『ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール- 』の企画はどうやって立ち上がったのでしょうか。
大澤 立ち上げの話に戻るんだけど、僕はどんな作品でもアニメ化を始めた以上、最後までアニメにしたいと思っているんです。でも、『SAO』の場合は最後が見えないから、どうしたら良いんだろうと思っていました。そこで第2期までアニメ化したところで、岩上さんを含めた、プロデューサーで集まって、『SAO』の企画をリブートさせようということになったんです。
岩上 そうでしたね。
大澤 そこで、『SAO』をどういうコンセプトで続けていくかを確認したんです。
柏田 この頃でしたっけ、「『SAO』を5年やろう」という話をしたのは。
三木 「5ヵ年計画」という話があったんです。
大澤 劇場を皮切りにして、『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』のアニメ化と《アリシゼーション》編のアニメ化を構想したんです。この規模だと5年はかかるね、と。
――劇場版をオリジナルの作品にしたのは、どんなことがきっかけだったのでしょうか。
柏田 原作では劇場版を作るのは難しかったんですよね。
三木 確か劇場版を制作する時点では原作の〈アリシゼーション編〉がまだ出切っていなかったんです。だから、オリジナルをやろうということになったんですよね。
――過去のインタビューによると、柏田さんが「興行収入20億円を目指す」と公開前におっしゃっていたようですね。
柏田 いやいや、それは岩上からのプレッシャーが大きかったので。
岩上 映画化の最初の打ち合わせの段階で、その数字は出ていたんです。
大澤 いや、最初は20億じゃなくて30億とか言っていなかったっけ?
柏田 いやいや、増えているじゃないですか!
大澤 いや、「すごい数を言うな」って思ってた。
岩上 当時のアニプレックスは、劇場版『魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』が20億円を超える興行収入を上げた後で、それを超えそうなタイトルは『SAO』だと考えていました。『SAO』は、視聴者の年齢層も含めて、ファンの層が広い作品だな、という手ごたえがあって。若い年齢層のファンが劇場に観に行くような作品になればいいね、という話をしていたんです。
柏田 大澤さんとは、「15~20億ぐらいになれば良いね」と話をしていたんですよ。
大澤 そう……ね。いや、ホントに劇場は怖かったんですよ。まさに興行ですよね。フタを開けてみないとわからないから。
――アニプレックスさんが配給することは、最初から決めていたんですか?
岩上 それも最初から決めていたことのひとつですね。アニプレックスなら作品への理解は深いし、全社一丸となって取り組もうと思っていました。でも、それもさることながら、やはりどんな映画にするかが大きいだろうなと思っていましたね。
大澤 映画は結局、川原さんにおんぶにだっこになっちゃいましたけど。
柏田 川原さんから「AR(Augmented Reality=拡張現実)」のアイディアをいただいたことが大きかったですね。
――劇場版の発表と同時期に、ARゲームの『ポケモンGO』が発表されて、AR技術に一気に注目が集まった時期でした。
岩上 あのタイミングはミラクルでしたね。
――オリジナル作品となるわけですが、ホン読みはどうでしたか?
柏田 順調でしたよね。
一同 えー(笑)。
三木 劇場版のホン読みは、柏田さんに感謝していますね。柏田さんは先祖返りキャラなんですよ。
大澤 ひっくり返すんだよね。
三木 そう。3週間前に「これでOKです」といった内容を、「やっぱり、おれダメだと思いますわ」といって、ひっくり返すんです。
大澤 たしか、脚本が6稿くらいのときで。そのときは「お前、この状況でなんてことを言うんだ」ってみんなが思ったんだけど……、あとから、みんな「やっぱり変えたほうが良かったね」と納得するという。
柏田 まあ白状すると、そのとき(3週間前)の脚本を読んでなかったんですけどね。
一同 おい!(爆笑)
大澤 やっぱりそうだったか。
三木 でも、その読んでないのが良いんです。ある意味で、先入観が強くないから視聴者に近いってことじゃないですか。そのときに柏田さんが言ったのは「デスゲームの緊迫感がない」とか、「アスナとキリトの物語にすべきだ」と言ったんですよ。それはたしかに『SAO』の基本だし、「そうだよな」と。それでアスナの記憶が失われる、というところを強化しようということになって。あと、伊藤さんからもキリトと対峙する存在を強化しようということで、ライバルキャラクターのエイジというキャラクターが出てきたんです。結果としてキリトも際立ちましたね。
――当時、来場者特典として配布された「裏記録本」によると、柏田さんはアスナへの思い入れが強かったようですが……。
柏田 いや、気のせいだと思います(笑)。
――アスナの入浴シーンへのこだわりが……。
柏田 ええっ、それは足立(慎吾)さんじゃないかな(笑)。
大澤 おかげでアスナの入浴シーンは素晴らしいものになりましたよ。いや、アスナの入浴シーン以外も素晴らしかった(笑)。
岩上 川原さんのシナリオはもちろんのこと、伊藤さんとスタッフによる、アニメの出来が素晴らしくて。エンタメ作品として相当クオリティの高いものができたなと思いましたね。
――劇場版『SAO』は、海外でも話題になりましたね。
大澤 劇場版『SAO』は日米ほぼ同時公開でしょ。ワールドプレミアもアメリカでやって。
柏田 僕と三木さん、大澤さん、川原さん、abec(キャラクターデザイン原案)、伊藤さん、足立さんがアメリカに行ったんです。
――実際に海外での『SAO』の反応はどうだったんですか?
柏田 2012年の頃から『SAO』はたびたび海外でイベントに呼ばれることが多くて。僕ばかりが海外へ行くって、みんなから言われているんですけど。
大澤 海外出張ばかりして。だいぶマイル溜まったでしょ?
柏田 まあ、溜まりましたけど……。『SAO』は海外で人気がもともと高かったので、劇場版も海外で公開できて良かったです。
三木 アニメの第1話の評判がすごく良くて、SNSで海外からの反響がすごく大きかったんですね。やっぱり日本で海外から注目を集めているエンタメってゲームやアニメじゃないですか。『SAO』はそのどちらも入っている。日本の「ゲーム」を題材にした作品なんだと、海外の方が理解してくださっていたからこそ人気が出たんだと思います。
岩上 三木さんがおっしゃったとおり〈アインクラッド編〉の第1話がやっぱり、海外においても、インパクトが大きかったんだと思います。日本のアニメの中には、事前情報が必要な作品もあると思うんです。ある程度のリテラシーが求められる作品もある。でも、『SAO』は第1話を見ると、全世界のファンが感情移入できる。そこに普遍的な強さがあるんだと思います。

小野監督の原作の理解度がすごく深くて、救われているところがたくさんある(大澤)
――そして、いよいよみなさんは『SAO』最大のシリーズ《アリシゼーション》編のアニメ化に挑まれます。
大澤 柏田さんが「4クール」ってわけのわからないことを言ってきて……(笑)。
柏田 いやいや、もともと川原さんからは「6クールほしい」って話があったんですよ。
大澤 でも、最初、僕は当然2クールでアニメ化をするんだろうなと思っていたんです。だけど4クールでやるという話が出て。ムチャぶりですよね(笑)。
柏田 ムチャぶりです。これまでは自分がムチャぶりをする側だったんですけど、今度は自分(A-1 Picturesに移ったことで)がムチャぶりを受ける側になってしまいました(笑)。因果応報ですね(笑)。
三木 そもそも《アリシゼーション》編はアニメ化するうえで、めちゃめちゃハードルが高いんですよ。まったく新しい世界を舞台にしていて、既存のキャラクターはキリトしか出てこない。キリトが金髪のお兄ちゃん(ユージオ)と冒険して敵を倒したあとは、キリトがしばらく出てこない。しかも、キリトがいないときは、ほぼ全編大戦争。これをアニメ化するというあなたたち(大澤、柏田)は原作をちゃんと読んでるの?(笑)と不安になりました。
大澤 いや、(原作は)読んでるけどさ(笑)。
三木 大澤さんと柏田さんは「なんとかなるだろ」っていう空気があって(笑)。いやあ、度胸があるなと。
岩上 僕は視聴者として《アリシゼーション》編を観てますけど、「キリトがなかなか出てこないな」って思ってます(笑)。
一同 (笑)。
大澤 いや、ホント《アリシゼーション》編はすごいんですよ。《アリシゼーション》編では、1話まるまるキリトが延々木を切る話ですからね。そこから《アンダーワールド》大戦にまで発展していくんだから……。
柏田 (ボソッと)大変です。
――監督も伊藤さんから、小野学さんに代わられて、現場も一新している感じはあるんでしょうか。
柏田 そうですね。メインのスタッフは引き続き参加してくださっている方も多いんですが、新しい現場の雰囲気はありますね。
大澤 伊藤さんは「監督をするのは劇場版まで」と決められていたし、僕らもそれは納得していたので。じゃあ、長いシリーズをどなたにお願いするのが良いだろうと。そこで柏田さんが「長丁場なので、ベテランが良いでしょう」ということで、小野さんを紹介してくれて。小野さんも快諾してくださった。キャラクターデザインも足立さんだけでなく、新しいスタッフが参加してくれて、すごく良いメンバーになったと思います。
――《アリシゼーション》編は長いシリーズになりますが、ホン読みの現場はいかがでしたか?
三木 やっぱり川原さんもアニメの現場に慣れてきて、自分がどれくらいコミットすべきかを感覚的につかんでいらっしゃるので、ご本人の負担もちょっとは軽減しているんでしょうし、良い意味で現場の脚本スタッフに任せる部分も出てきています。そこは良いチームになっているなと思います。あと、ここで懺悔をしますと、川原さんはスタジオのスタッフ宛に、必ず素晴らしい差し入れを現場にお持ちになるんです。でも、ストレートエッジは一度も持って行ったことがない(汗)。
一同 (笑)。
柏田 ぜんぜん気にしていませんよ!
三木 いや、めっちゃ気にしてる感じじゃん(笑)。
柏田 川原先生は各話の絵コンテもチェックしてくださるんです。おかげで原作との整合性もきっちり取れています。
大澤 あと、小野監督の原作の理解度がすごく深くて、救われているところがたくさんありますね。
三木 さすが『境界線上のホライゾン』をアニメ化した監督だけありますよ。『魔法科高校の劣等生』も小野監督にやっていただきました。電撃文庫の大変な作品を次々とアニメ化してくださっている。
大澤 たくさん人数のキャラクターが出てきても、それぞれしっかり把握されているんです。
岩上 ひとりひとりの整合騎士をしっかり描いているので、《アリシゼーション》編の『War of Underworld(以下、WoU)』まで観ると、その意味が出てくるな、と思いますね。
大澤 この記事が出る頃はまだ、キリトは心神喪失状態なんですよね? 1クール以上主人公が意識を失っている作品なんて、原作ものじゃなきゃアニメ化できないですよね。
三木 いやいや、電撃文庫でも主人公が文庫3巻分出てこない作品はなかなか書籍化できないです。いやほんと、ありがたい限りです。

僕自身もこの作品をまだまだ観ていたい。今後も『SAO』を続けていくことができたら(岩上)
――〈『SAO』5ヵ年計画〉もいよいよ7月から放送の『WoU』最終章でクライマックスを迎えます。みなさんのキャリアとって『SAO』とはどんな作品になっていますか。柏田さんと大澤さんはいかがですか?
柏田 プロデューサーとして関わった最初の作品が『SAO』ですし、『SAO』がなければ僕はこの場にいないと思います。《アリシゼーション》編は長いシリーズですが、なんとかここまでこられたな、と。応援してくださるファンも多い作品なので、その期待に応えられるように最後まで駆け抜けたいと思います。
大澤 ここにいるプロデューサー4人とも、『SAO』《アインクラッド》編〉から《アリシゼーション》編に関わっている間に、役職が変わってしまったわけですが。『SAO』は、みんなそれぞれの転機になった作品じゃないかと思います。僕は『SAO』の第1期、第2期に関わっていたときはジェンコに所属していて、独立する転機になりましたし。僕がアニプレックスさんとご一緒した初めての作品でした。自分を育ててもらえた作品になりましたね。
――そんな縁の深い作品も〈5ヵ年計画〉でひと段落ですね……。
大澤 いや、〈5ヵ年計画〉は終わらないんですよ。どんどん1年ずつズレてますから……。
三木 永遠に終わらない〈5ヵ年計画〉(笑)。
柏田 大澤さんは〈5ヵ年計画〉が《アリシゼーション》編〉でいったん終わるとおっしゃいましたが、きっと何かやると思いますよ。そうなったときには、僕も草葉の陰から応援したいと思います。
大澤 草葉の陰って(笑)。
柏田 いや、もちろん僕にやれることは全部やりたいと思うんですが、このタイトルだから任せられる若いスタッフもいますし、遅かれ早かれ若いスタッフに世代交代するものだと思うので。それでも、スタッフが頼りないときは、僕が現場に出ます。
大澤 じゃあ、ラインプロデューサーで。
柏田 いや……それは……。まあ、僕も引き続き、この作品と関わっていきたいと思います。
――三木さん、岩上さんにとって『SAO』はどんなタイトルになっていますか?
三木 『SAO』はライトノベルでありながら、世界に通用する稀有な作品になったと思います。しかも稀有な例をもうひとつ挙げるとすると、バンダイナムコさんによるゲームシリーズも、とても好評をいただいていて、新しいファンを獲得できています。ゲームは「ソードアート・オンライン -インフィニティ・モーメント」から始まり、スマートフォン対応ゲームまで、ずっとシリーズが続いていて、原作冥利に尽きますね。コミックのゲームシリーズでは『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』のように前例があるんですが、ライトノベルのゲーム化では本当に珍しい。
柏田 確かに、二見(鷹介)さん(バンダイナムコエンターテインメント・プロデューサー)の執念ですよね。
三木 ゲームの『SAO』をプレイしている人にアンケートを取ってみると、原作を読んでいない人もけっこういて。アニメやゲームが原作を知るきっかけになっているのは、本当に良かったなと思います。『SAO』をもっと広げていって、「ラノベってスゲーじゃん」と思っていただけるようにしたいです。そして『SAO』が切り開いた道を、ほかのラノベで追随していくことで、さらに大きな流れを作っていきたいと思います。
岩上 先ほど大澤さんもおっしゃったように、ここにいる4人とも『SAO』に関わっているうちに出世したという、とても験の良い作品だと思います。アニプレックスにとっても『SAO』は主幹事を務めたTVシリーズとしては最長作品になりますからね。
一同 おおー、そうなんだ。
岩上 こんなに長いシリーズを作れる機会は滅多にないことですし、クリエイターたちも意欲を持って作ってくれている。この積み重ねを大事にしたいと思いますし、僕自身もこの作品をまだまだ観ていたい。今後も『SAO』を続けていくことができたらと思っています。

『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』公式サイト
取材・文=志田英邦 写真=小野啓