許婚同士の軍人と小学生――。大正浪漫の魅力あふれる18歳差の恋模様にキュンとする…!
更新日:2020/8/19

時代は変われど、人が人を想う優しい気持ちは決して変わらない――。わずか15年で幕を閉じたものの、都市化が進み、西洋式の建築も数多く登場し、軍国主義の時代へと進んでいく激動の大正時代を舞台に描かれた長蔵ヒロコ先生のマンガ『煙と蜜』(KADOKAWA)を読んで、私は感嘆のため息を漏らした。
『煙と蜜』は、大正5年の名古屋を舞台に、尋常小学校に通う12歳の少女・花塚姫子と、彼女のことを「許婚殿」と呼ぶ、大日本帝国陸軍・第三師団所属の少佐・土屋文治(30)の淡い恋模様が丁寧に描かれたマンガである。2人は18歳も年の差があり、文治は、病と闘う母親と、明るい女中たちと共に姫子が暮らす立派な日本家屋をたびたび訪ねてくるものの、まだ彼女のことを異性として見ておらず、将来の許婚として大切に見守り続けている。


しかしながら、姫子の方は「恋」だと立派に呼べる感情を文治に抱いており、「素敵で大人な文治さまに釣り合う女性になりたい」と、何にでも挑戦して、果敢に彼と向き合い、少しずつ距離を縮めていく様子が鮮やかに描かれているのである――。
とはいえ、姫子はまだ12歳。文治に「許婚殿」と呼ばれるのが悲しくて、名前で呼ぶようお願いしたものの、いざ「姫子」と呼ばれると、恥ずかしくて真っ赤になってしまったり、雷が怖い日に文治に手を握ってもらうと、動揺したりもする。


そんな姫子の一途で可愛らしい姿を、たばこをくゆらせながら、大きな心で受け止める軍服姿の文治は、大人の余裕が垣間見え、とても格好良い。目の下のひどいクマでさえ、色気を醸し出しているように見えてくるので、文治が姫子と近づくシーンは、姫子と同じように頭がクラクラしてしまった。


本作は、ロマンあふれる大正時代の人々の暮らしが、細かな所まで詳しく念入りに、華やかに描かれている。レトロで個性的な柄やデザインの大正着物や、洋間と和室、裏庭がある立派な日本家屋、人力車や軍服、活気のある美しい女中たち…と、絵を眺めているだけでも大正時代のノスタルジックな雰囲気が伝わってくるようで、心を揺さぶられた。姫子は、文治の他にも、母親や女中たち、お爺さまのこともとても大切に思っており、笑顔の似合う心優しい子であることがわかる。そんな彼女が、18歳年上の彼に見合う女性になろうと、恋心を募らせ、成長させ、ついには余裕たっぷりの文治を無自覚でドキッとさせてしまうシーンは、胸の高鳴りが止まらなかった。ゆっくりと少しずつ変化する恋の形をずっと見守っていたいとても素敵なマンガである。
文=さゆ
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