「今月のプラチナ本」は、『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』
公開日:2020/9/4

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』
●あらすじ●
2020年4月、新型コロナウイルス感染拡大により私たちの働き方は一変した――。“普通の毎日”が一変したとき、人々は何を思いどう過ごしていたのか。パン屋、ごみ清掃員、ミュージシャン、留学生、葬儀社スタッフ、介護士、マンガ家、小説家、ジャーナリスト、落語家、保育士、IT企業社員、占星術家……。コロナ禍で働く全60種77人の日々の記録をまとめた、日記アンソロジー。
編集部寸評
私たちの気持ちが数字に変えられる前に
「はじめに」によれば「緊急事態宣言が発せられた日、」「四月の日記を書いてもらうようお願いしました」。日常が失われたその日からの日記には、まだ結論もまとめもない。ただただ、気持ちが揺れている。「夜が明けても眠気が全然来ない」「殺意を覚える時がある」「四月にしては凍えるほど寒い」「星野源が大好きになった」。自分の知らない人が、ここに確かに生きている。感染者数や経済損失額といった数字には表れない、無数の人間の存在と言葉を、忘れずにいたいと思った。
関口靖彦 本誌編集長。緊急事態宣言後の自分の変化は、自炊するようになったこと。レパートリーは肉野菜炒めとみそ汁のみ。単調さが苦にならないタイプ。
私たちはたくさんの仕事人に支えられている
インフラ・医療関係の方々に過度の負担がかかっているということは、知ったつもりでいたけれど、本当にスレスレのところで社会機能を維持してくれているのだ、と改めて。また教師や保育士といった子どもたちのためにがんばってくださっている方々の大変さ、そしてそれに比例するかのような熱意に心打たれた。誰かのせいにして不満を言ってもいいけれど、その〝誰か〟の立場に自分はいないのだから、大変さなんてわからない。だから人々は自分のできることを、ただやるのだ。
鎌野静華 今月はお菓子特集。特集扉のハミングバードケーキのレシピはダ・ヴィンチニュース(https://ddnavi.com/)の特集番外編にて!
真似の出来ないライブ感
4月の緊急事態宣言の発出直後に企画され、すぐさま77名もの書き下ろし日記を集めた『仕事本』。刊行前の6月に版元の左右社を取材させて頂いたが、その制作体制はまさに“親密”。10人程度の小さな版元だからこそ、社長も現場も分け隔てなく企画を練り、著者への声がけまで分担する。チームで作った本のヒットは新たな企画に還元されていくだろう。ちなみにAmazonのコメントで面白かったのは執筆者の「東京偏重」を疑問視する声だ。『仕事本2』は既に動いているのかもしれない。
川戸崇央 整骨院のお兄さんが施術後に追いかけてきて私を昼食に誘うのである。もじもじしてると思ったら、まさかの恋愛相談が始まるじゃないか!(続く)
2020年は一層想像力が必要だ
〈葬儀社スタッフ〉の章。遺族と会話で、〈「(死因は)ただの肺炎だったみたいです」「あぁ……それは良かったです」お互いニコニコしながら、打合せを始めた〉というエピソードに、日常だけでなく、既存の常識や感情も変化した時期だったなあ、と改めて。〈書店員〉の章の〈すべてをきちんと分別しながらどれも大切にできるように生きたいけど〉〈すぐに混ざってぐちゃぐちゃになってしまう〉に、頷く。このご時世だからこそより想像力が必要で、本書はそれを強固に育ててくれると思う。
村井有紀子 コロナが蔓延しなければ本当なら夏にトロントからNY、そしてベルリンからロッテルダムに行く予定でした(涙)。空いた時間で語学勉強しよ……。
そうか、こんな時代を生きているのか
コロナ禍になって心がますます狭くなった。自粛しすぎ。しなさすぎ。自分と違う基準で動く人を見ると、どうもむかつく。そんな人にうってつけ。本書を読めば、仕事場ごとに異なる秩序があること、誰もが不安のなかで行動を選びとっていることが生々しいほど見えてくる。個人的な話から、時代や社会構造が浮かび上がってくるのが日記のおもしろいところだが、私たちが今もれなく経験中のこの歴史的事件について大勢の日記を読むというのは、得難い読書体験。いま読みましょう、いま!
西條弓子 それにしてもみんな日記がうまい。スーパーのパン売場で働く田中絹子さん(仮名62歳)とか、さりげないエピソードが光る光る。手練れすぎません!?
働く不安、働けない不安
緊急事態宣言下の4月が自分の中であっという間に過去になっていると気づいた。77人の仕事の記録を読むうちに、あのとき感じた不安と非日常感がよみがえる。先が見えない暮らしの中で見つける、ちいさな喜びや励ましの言葉が温かい。カバーにも引用された、留学生・伊子さんの「何に対しても私と関係ないって思ったら、終わりじゃん?」という言葉が表している通り、自分の経験と重ねるだけでなく、まったく違う状況に置かれた人への想像力を働かせる助けになる一冊。
三村遼子 4人のブックウォッチャーの執筆陣が来月から変わります。サンキューさん、高橋さん、辻山さん、山崎さん、2年間ありがとうございました!
変わりゆく日常の中で生きる私たち
働き方が一変したあの時、私たちは様々な仕事に支えられていたのだと改めて気づかされた。働き方を変えざるを得ない人、変えたくても変えられない人、職種によって置かれている状況は異なるけれど、それぞれのリアルな日常を通して切実な想いが伝わってくる。「怖いからと言ってごみの回収を止める訳にはいかない」「もう、どの子も限界です。そう声を出して言いたい」。先の見えない不安を抱えながら、それでも働く人たちがいる。私たちの“今”は多くの人々に支えられているのだ。
前田 萌 緊急事態宣言下の記憶がすっぽりと抜け落ちていることに気が付きました。社会の変化に適応するのに必死すぎて記憶が飛んでしまったようです。
読者の声
連載に関しての御意見、書評を投稿いただけます。
投稿される場合は、弊社のプライバシーポリシーをご確認いただき、
同意のうえ、お問い合わせフォームにてお送りください。
プライバシーポリシーの確認
