400年の歴史を持つ「築地本願寺」、億単位の赤字からの生き残りをかけたサバイバル戦略とは?

ビジネス

公開日:2020/12/2

築地本願寺の経営学 ビジネスマン僧侶にまなぶ常識を超えるマーケティング
『築地本願寺の経営学 ビジネスマン僧侶にまなぶ常識を超えるマーケティング』(安永雄彦/東洋経済新報社)

 東京都築地にあり、400年の歴史を持つ築地本願寺。古代インド様式だというインパクトある本堂は、メディアで一度は目にしたことがあるのではないだろうか。

『築地本願寺の経営学 ビジネスマン僧侶にまなぶ常識を超えるマーケティング』(安永雄彦/東洋経済新報社)は、銀行マン、ヘッドハンターという経歴を持ちながら僧籍を取得した「ビジネスマン僧侶」の著者が、2012年から取り組んだマーケティング改革を記したものである。

 我々がなんとなく不変なものと捉えがちな神社仏閣。その内情はゆるやかな人口減少や核家族化などに影響され、なかなか厳しく、年収300万未満のお寺も45%ほど存在するという。築地本願寺も8年前には億単位の赤字を抱えていた。著者はこのままでは400年の歴史が終焉すると一念発起し、居並ぶ僧侶の前で経営改革を宣言。戸惑いが広がる中、プロジェクトリーダーに就任することになる。

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浄土真宗にはイノベーターがいた? 仏教の教えに基づいた経営改革を行う

 大きな壁となったのは「寺の常識」である。築地本願寺は長い歴史を持ち、認知度も高い。檀家も多いので、当然今までのやり方が存在する。「寺は会社ではない」「商売じゃない」、「今までやってきたのだから大丈夫」……経営改革には誰もが腰が重かったという。

 なぜ変われないのかを思案する著者は、浄土真宗の「イノベーター」に辿り着く。祖といわれる親鸞から数えて8代目の蓮如上人である。小さい宗派だった浄土真宗が庶民に爆発的に広まったのは、蓮如の功績である。わかりやすい手紙を大量に書き、各地の門徒に配る、自らも各地を訪ね歩くなど、蓮如の布教を600年前の「広報活動」だと著者は分析する。改革は自分一人では行えない。けして浄土真宗の教えを蔑ろにしていないと、粘り強く人々を動かしていったそうだ。

目指すはアマゾン!? リブランディングで現代人に寄り添う「ヴァーチャルテンプル」へ

 実際の改革も仏教の考えをもとに進められている。お寺はもともと、寺子屋や人口の把握などを担った存在だったことから、リブランディングを「人生のコンシェルジュ」と定義。築地本願寺内にカフェやショップのオープン、「ご縁」をつなぐサロンの運営、共同墓地など、人生に寄り添う存在としてさまざまな施策を行っていく。

 また、著者には「ヴァーチャル・テンプル構想」があり、これはアマゾン・ドット・コムをヒントにしている。

場所にとらわれることが、もはや時代に合わないのかもしれません。
「必要なものが確実に揃っていて、いつでもアクセスできて、すぐに届く」
この3つを可能にするのは、アマゾンが場所に依存していないからです。そしてこの3つを消費者に約束することで、アマゾンはヴァーチャル・ストアでありながら、消費者から絶大な信頼を得ている……それならば、築地本願寺も「ヴァーチャル・テンプル」(スマート・テンプル)になればいい。

 ことにコロナ禍で踏み切った「オンライン法要」「ユーチューブ法話」は、暗黙の了解だった「寺への訪問は必須」という前提を覆す、まさにイノベーションの第一歩となった。状況を逆手に取った著者の見事な手腕は、ぜひ本書で詳細を確認してほしい。

 仏教寺院としての精神・教えを守りながら、時代に合わせて変化する築地本願寺の経営学。新たな時代に不安を覚える我々をきっと導いてくれるはずだ。

文=宇野なおみ