真実の愛を手に入れたら人間になれる? 猫と人間の危うい同棲生活を描く『愛しの国玉』
公開日:2020/12/26

きっかけは勘違いや嘘であっても、一緒にいる時間がその関係を本物に変えていく。もちろんそんな都合のいいことばかりではないが、そうして変わっていくのが人間という生き物だ。『愛しの国玉』(アッチあい/KADOKAWA)の主人公・日野真もまた、そうして“ある相手”に惚れてしまうことになる――。
本作品の主人公は、1人暮らしをしているごく普通の大学生・日野真。ある日たまたま実家に参考書を取りに帰ると、そこには人間のように服を着て二本足で立つ猫がいた。この猫・国玉は、真を見るなり「ずっと会いたかったです…日野進さま」と目を輝かせて飛びついてくる。国玉は、真を真の兄である進と勘違いしてしまったのだ。

その後自分は進ではなく弟の真であると説明すると、国玉の態度は冷ややかなものへと一変。

そして真に、自分がある契約で人間にしてもらった猫であること、“真実の愛”を手に入れればちゃんとした人間になれること、進との“ある約束”を果たすためにやってきたことを語る。その約束とは――なんと「結婚」すること。進は、猫である国玉と結婚の約束をしていたのだ。しかし進は別人と結婚してしまっている。
この時、真の脳裏にある物語が浮かんだ。魔女に人間にしてもらい、しかし意中の相手と結ばれずに泡となって消えてしまう「人魚姫」だ。真は国玉のことを思い、気がつくと「結婚しようオレが幸せにするから」と口走っていた。ここから2人は、同棲生活を送ることになる。

人間になりたての猫である国玉との生活は大変なものだった。最初は水も1人で飲めず、真はしばらくの間大学を休むこととなる。しかし一緒に暮らすうちに、真は国玉の自由奔放な愛らしさ、可愛らしい反応に惹かれていく。だがその一方で、国玉はなかなか進への思いを断ち切れずにいて――。
人間とも猫ともいえない姿の国玉相手に、真は「人間の食べ物は毒にならないか」「キャットフードはどうか」と手探り状態。しかし国玉は、自分は「ほとんど人間」だと主張し、キャットフードを拒否。でもその反面、猫用おやつの匂いに我慢できず飛びつこうとしたり、猫用おもちゃにじゃれつこうとしたりするなど、やはり本当は猫っぽい一面も。そんな人間と認められたい一心で猫としての本能と格闘する国玉がとにかく可愛い…!
そんな一見うまくいっている2人だが、国玉が寝言で名前を呼ぶのは「真さま」ではなく「進さま」。どうしても進のことが忘れられず、夢に出てくるのだ。

それでも真の思いは嬉しいようで、国玉の心は少しずつ揺り動かされていく。自分を救ってくれた進への思いと、今ある真の思い。国玉はこれから、真の結婚相手として“真実の愛”を手に入れることができるのか。それとも進のことが忘れられないのか…。そしてもし真実の愛が手に入らなかったら、国玉はどうなってしまうのだろうか…。
また、自分が人間ではないというコンプレックスを抱える国玉は、真の些細な言動に不安を覚えずにはいられない。なぜ自分と結婚したのか、興味本位や同情ではないのか、自分なんかが愛されることがあるのか、と、ことあるごとに不安定な心を覗かせるのだ。普段の無邪気な国玉と陰りのある国玉のギャップに、見ているこちらまで庇護欲をそそられる。
また、真が暮らすマンションの隣人2人も個性派で、こことの関係も目が離せない。真に思いを寄せている黒川百恵の国玉への不信感や嫉妬、猫が好きでたまらないのにペット禁止である現状を必死で我慢している樹本美彦の国玉への異常な関心など、思わぬところに危険がいっぱい…!

2人の関係は、2人を取り巻く環境は、国玉自身は、これからどうなっていくのか。『愛しの国玉』の今後の展開に注目!
文=月乃雫