青春が詰まった“超微炭酸系”コミックは、こうして生まれた──アニメ『ホリミヤ』HERO×萩原ダイスケ原作者対談
公開日:2021/1/9

1月9日よりTOKYO MXほかにて放送が始まるTVアニメ『ホリミヤ』。この作品の原作漫画『ホリミヤ』は、マンガ家・HEROさんが自身のサイトで発表した縦スクロール形式のWEBコミック『堀さんと宮村くん』を再構築したものだ。ストーリーマンガ『ホリミヤ』として再構築した作画の萩原ダイスケさんとの対談で、作品が誕生した経緯、お互いのキャラクター造形やテンポ感に対する印象を語っていただいた。さらに、おふたりも深く関わっているというアニメの見どころも!
あこがれの青春模様でありながら、隠したいような感情も生々しく描かれているんです(萩原)
──『ホリミヤ』は、HEROさんが2007年からWebサイトに発表している『堀さんと宮村くん』から生まれた作品です。HEROさんが『堀さんと宮村くん』を描き始めた経緯を教えてください。
HERO:個人サイトを作ったので、なにかコンテンツを上げられたらいいなと思い、マンガという形を選びました。それがいきなりこんなことになって、運が良かったなと思います。
──ストーリーに関しても、最初から先々の展開を考えていたというより、描き続けていたらこうなったという感じでしょうか。
HERO:そうですね。最初はそもそもタイトルもなかったので、堀さんと宮村くんのふたりを描こうという思いもなく。好き勝手に描き続けている感じです。
──縦スクロールのコンテ形式にしたのはなぜでしょう。
HERO:単純にコマ割りができないので……。最初のうちは下書きやネームもなく、描いたものをそのままアップしていました。さすがに、この2年ぐらいで下書きはするようになりましたが。
──萩原さんは、そんな『堀さんと宮村くん』をストーリーマンガ『ホリミヤ』に生まれ変わらせています。『堀さんと宮村くん』を最初に読んだ時の感想は?
萩原:あこがれの青春模様を描きつつ、キラキラしたところだけじゃない、隠したいような感情も良い意味で生々しく描いていると思いました。私は少女マンガを読んで育ってきましたが、そこにはないリアルさがあって。しかも、リアルではあっても、読んでいて不快にならない絶妙なラインで描かれている作品なんですよね。
──HEROさんはもともと少女マンガと少年マンガ、どちらがお好きだったんですか?
HERO:どちらかといえば少年マンガです。高橋留美子先生が好きで、中でも最初に読んだ『らんま1/2』に衝撃を受けました。『らんま1/2』は、いろいろな年代のキャラクターが登場して、学園ものとひとくくりにできないようなマンガです。そんな一筋縄ではいかない作品を子どもの頃に読んだので、「マンガとはこういうものだ」と刷り込まれました。畏れ多いですが、影響はすごく受けていると思います。
──萩原さんが作画を担当することになった経緯についてですが、『堀さんと宮村くん』をコミカライズするにあたり、萩原さんは作画コンペを勝ち抜かれたとお聞きしました。決め手はなんだったのでしょう。
HERO:表情がいきいきしていましたし、変に私の絵に寄せていないのがいいなと思いました。ちゃんとご自分の絵があって、「こういうテンションで描きたいんだろうな」とわかったので。
萩原:私は全然意識してなかったんですけど、でも作画を変えるって多分そういうことなんだろうなと思って…。自分の絵柄そのままで描かせていただきました。
──縦スクロールのコンテ形式のマンガをストーリーマンガにしていく過程について教えてください。
萩原:コマ割りに関しては、「ここは見せたい」というところを意識して、シーンを並べていきます。その中で、ちょっとテンポがズレるところがあれば、その隙間だけ埋めていく感じですね。
──作業工程では、どのようにやりとりしているのでしょうか。
萩原:私と担当編集さんが「次はこの話をやりましょう」と相談して、編集さん経由でネームをHERO先生にお見せします。
HERO:私は、基本的に「いいですね」と言うだけです(笑)。1話1話いつも丁寧に作ってくださるので、「こうしてください」というオーダーはめったにありません。
──HEROさんは、萩原さんが描くキャラクターの造形、お話のテンポ感についてどう思われていますか?
HERO:今風になったと思います。もともとの『堀さんと宮村くん』を描いたのが2007年で、当時高校生だった人には懐かしくても、今の高校生から見るとちょっと違和感を覚えるところもあるので。言い回しやセリフのニュアンスも、わかりやすくしていただきました。
萩原:セリフが吹き出しの中に入りきらないことがあって、それで言い回しを変えただけなんです……。いい感じに捉えていただいて、ありがとうございます(笑)。
──おふたりが描いていて楽しいキャラクター、お好きなキャラクターは?
萩原:個人的に、まつげが好きなんです。宮村の下まつげを描くのはすごく楽しいですね(笑)。もともとは女の子のきゅるんとしたまつげを描くのが好きだったんですけど、「意外と下まつげ、長……」というシーンがあって(マンガ第1話)。描いているうちに楽しくなり、なにかが開花してしまったのかもしれません。
──確かに、ほかのキャラクターに比べて宮村の下まつげは印象的に描かれていますね。
萩原:なかなか下まつげを描く男子キャラクターがいないので。あとは柳くんくらい。柳くんのほうがまつげが細い感じで、宮村とはまた違う描き方なんです。
HERO:私は、萩原先生が描かれる堀の髪が好きなんです。堀やレミの長い髪が広がる描写を見ていると、いい香りがしてきそうで。
萩原:ありがとうございます!
HERO:優しい茶色にしていただいたので、雰囲気も柔らかいですよね。
萩原:女の子や髪の毛をかわいく描きたい欲求があるので、うれしいです。HERO先生の髪のウェーブの描き方もかわいくて。それを自分の絵にどう落とし込んだらいいんだろうと考えた結果、描き込む量が多くなったのかなと思います。
──HEROさんは『ホリミヤ』だけで読めるエピソードも描き下ろされているとお聞きしました。ご自身のサイトでアップされるエピソードと何か違いはありますか?
HERO:そうですね、「萩原先生の絵でこのシーンを見てみたい」と思いながらお話を作ることが多いかもしれません。萩原先生には、どんなものでも安心して預けられるので。自分では絶対ゲームセンターなんて描けないですが、ネームに「ゲームセンターです」と書いたら、完成した原稿では本当にゲームセンターが建っていて感激しました(笑)。やっぱりすごいなぁ、と。
──萩原さんが、作画で一番大変だったのは?
萩原:修学旅行で京都に行くエピソードでしょうか。京都のどの風景を切り取るか任せて頂いたので、関西に住んでいる友人から京都旅行で撮った写真を送ってもらってそれを参考に描きました。
──これまでの中で、特に印象に残っているシーンについて教えてください。
萩原:クリスマスのプロポーズの話は、印象に残っています。いち読者として読んだ時も、作画させていただいた時も、「フゥ~ッ!」ってテンションが上がりました(笑)。ページ数が多かった回なので必死で描きましたが、ふたりが雪の中でやりとりするシーンは、気づいたらニヤけながら作画していましたね。もともと『堀さんと宮村くん』でも好きなエピソードだったので、「ついにここまで来たか」という感慨もあって。「ここまで続けてこられたのか」と思うと、本当にうれしかったです。
──HEROさんはいかがですか?
HERO:特に「この話が好き」というのはなくて。萩原先生が描く『ホリミヤ』は、何気ないやりとりや会話だけの回なのに、動きがついて退屈させない作りになっているんですよね。そういうのを見るのは楽しいです。
──HEROさんご自身が、描いていて楽しかったエピソードは?
HERO:会話を考えるのが好きなので、会話でコマが埋まった時は「読みづらいだろうな」と思いつつ、自分では楽しいです。ギャグ回は、頭にぽんぽんセリフが浮かんできて、テンションがハイになります。
──頭の中で、キャラクター同士が勝手に会話を始める感じですか?
HERO:完全にそうですね。私が考えるというよりは、勝手にしゃべるので。……というと、ヤバい人みたいですけど(笑)。頭の中でキャラクターがしゃべったことを紙にバーッと書き出し、セリフだけ先に埋めてあとで絵を入れていくこともあります。
──頭の中で、特にうるさいキャラって誰ですか?
HERO:井浦です(即答)。井浦しかないですね。




『ホリミヤ』のような超微炭酸系の青春ではありませんでした(HERO)
──『ホリミヤ』は高校生のお話ですが、おふたりはどんな高校時代を過ごしてきましたか?
HERO:協調性がない高校生でした(笑)。みんなで何かをするのがとにかく苦手で、そもそも高校が向いてなかったんです。部活にも入っていなくて、特に仲の良い子もいなくて。でも、学校自体は好きでした。「楽しそうなこと話してるなー」と、みんなを遠くから見ているのは楽しかったです。
──絵は描いてました?
HERO:落書き程度ですね。そういえば、席が一番後ろだったので、自習の時間に自分が見ている風景を描こうと思って、みんなの背中を描いたことがありました。
──萩原さんはどんな高校時代を送っていましたか?
萩原:陰キャでした(笑)。人前で発言するのが苦手で、目立つスキルもなかったので、ぼやーっとしていた気がします。
──部活は何かされていました?
萩原:美術部とマンガ研究部でした。中学の頃からノートにマンガを描いていましたが、投稿することはなくて。マンガ家になりたいと意識して本格的に描こうと思ったのは、高校に入ってからでした。
──当時はどんなマンガを描いていましたか?
萩原:最初は少女マンガを描きたかったんですが、気付くと登場人物を殺してるんですよね…(笑)。これは少女マンガじゃないなと思いました。兄の影響で少年マンガを読み始めるようになり、そちらに寄っていた感じですね。当時は『まもって守護月天!』や『シャーマンキング』が好きでした。
──おふたりとも『ホリミヤ』のような超微炭酸系の青春っていう感じではなかった?
HERO・萩原:ないですねー。
──自分が経験してこなかった青春を描いているわけですが、どのようにイメージを膨らませてこの空気感を出しているんでしょうか。
HERO:「空気感がいい」とよく言われるんですけど、何を指しているのかいまひとつピンと来ていないんです。もちろんどのマンガにも空気感はあると思いますが、私が描いたものに関しては読んだ方々がいい空気を察してくれているのかな、と。
萩原:私の場合は、最初HERO先生のテンポ感、原作の空気感を再現できたらいいなと思っていました。ただ、私が挟まる時点で、そのまま再現するのは無理なんです。コマ割りも私のテンポになってしまうし、それによってHERO先生独特のテンポが変わってしまうので。それだったら、自分のフレーバーが多少入ってしまっても、キャラクターの動きや気持ちにズレが生じないようにと意識しています。
──1月9日からテレビアニメが放送開始となります。アニメ化が決まった時のご感想は?
HERO:すごくうれしかったです。それと同時に、「萩原先生の作業がめっちゃ増えるな、大丈夫かな」と思いました。
萩原:私もすごくうれしかったのですが、やっぱり『ホリミヤ』は『堀さんと宮村くん』があっての作品なので。ありがたいのと同時に、大丈夫かなという不安もありました。HERO先生が「うれしいです。頑張ってください」とおっしゃってくださって、本当に胸がいっぱいになりました。
──おふたりは、アニメの設定等を細かく監修されているとお聞きしました。
萩原:そうですね。シナリオやコンテ、キャラ設定や美術設定など、見せていただいて。細かい質問も時々いただいたのですが「子供のころのユキとお姉ちゃんのコートがお揃いなのはなぜですか?」と聞かれたことがあって、自分では意識せずに描いた部分だったのでちょっと返答に困りました(笑)。だけど、監督がそういった本編に直接関係ない部分も気にしてくださる方だったので安心してお任せすることができました。
HERO:私は「ここを絶対こうしてほしい」と口出しするのは避けたくて。『ホリミヤ』のアニメ化なので、私が変なこだわりを出すと『堀さんと宮村くん』のほうに無意識に引っ張られてしまうかもしれないという思いがありました。「こうしたいんだろうな」というアニメスタッフの方の思いがこちらにも伝わってきたので、それに寄り添えればなと。ただ、タイトルのイントネーションだけ、「多摩川」ではなく、「品川」のイントネーションにしてほしいとお願いしました。声優さんそれぞれでイントネーションがバラバラになるかなと思ったのですが、私以外はみんなそろっていました。
──そうだったんですね(笑)。収録には立ち会いましたか?
HERO:1、2回ですが立ち会いました。スタジオにおうかがいできない時も、すべてリモートで収録を聞かせていただきました。みなさんお上手なのでとてもスムーズで、普通にアニメを聞いているみたいでした。
萩原:私はみなさんの演じられる声にただただ「すごいなー」ってぼやっと聞き入ってしまうことが多かったです(笑)。
──アニメは第2話までご覧になったそうですが、おふたりの感想は?
HERO:私は普段あまりアニメを見ないので、「すごい技術だな、キラキラしてるな」って。「今アニメってこんなところまで来てるのか。へー!」と感心することばかりでした。表情と声もぴったり合っていて、スタッフやキャストのみなさんのすごさを感じました。
萩原:やっぱりマンガと動きのあるアニメは違うんだなと、あらためて認識しました。第1話で宮村が堀の代わりに卵を買いに行くシーンがあるのですが、走る宮村が若干スローモーションになるんです。「宮村、かっこいい」と思ってニヤニヤしました(笑)。
──HEROさんは会話を重視されていますが、アニメの会話のテンポ感はどう感じましたか?
HERO:アニメをご覧になる方のテンポに合わせてくださったなと感じました。変に詰め込まず、会話劇として安心して見られるような作りになっていますよね。
──アニメに期待すること、楽しみにしているポイントをお聞かせください。
HERO:安心して全部おまかせしているので、私も視聴者のみなさんと一緒に楽しんで見るだけです。1、2話だけでも、クオリティの高さ、音楽の優しさが十分伝わってきました。堀たちと一緒の時間を過ごすような気持ちで、ご覧になっていただけたらなと思います。
萩原:私も、いち視聴者として楽しみにしています。第1話から、作画の方々がキャラクターの細かい動作までこだわって描いてくださっているのを見て、感激しました。例えば宮村が石川くんに「堀と付き合ってるの?」と聞かれるシーンでは、宮村が手をブンブンさせるんです。小さな動きで、その時の宮村の感情がより立体的になっていて。そういう細かいところまでチェックすると、より楽しめるのではないかと思います。
取材・文=野本由起