『I”s<アイズ>』『ラブひな』『To LOVEる-とらぶる-』etc./【ALL30代男性】俺たちのラブコメ座談会

マンガ

公開日:2021/2/5

大人の胸をくすぐる、ピュアなラブストーリー

杉本 『監獄学園』は若干特殊なところもありますけど、いわゆる学園モノですよね。

五十嵐 そうです。高校が舞台になっていて、男子高生たちがドタバタを繰り広げていきます。

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杉本 それってラブコメのひとつのフォーマットだと思うんですけど、そこで推したいのが『School Rumble』なんですよ。主人公は塚本天満っていう少し天然な子と、彼女に恋をする不良の播磨拳児。そこに他の美少女も加わって、わちゃわちゃしていく。あまりエロ要素はなくて、どちらかというとコメディ色が強い作品ですね。しかも面白いのが、コマの欄外に「塚本 天満、少しバカ。」みたいな神の視点からの冷静なツッコミが書かれているんです。これがアニメ化されたときにも再現されていて、めちゃくちゃ笑いました。

川戸 でも、最初はドタバタラブコメなのに、後半にいくにつれて泣かされる展開になりませんでしたっけ?

杉本 そうなんですよ! 最初はギャグっぽい展開なんだけど、最後はラブストーリーであり人間ドラマがしっかりと描かれる。

今川 1巻を読んだだけでは泣ける展開が想像つかないですね。

杉本 最初はギャグマンガとして面白いなと思っていたんですけど、最終的には泣かされてしまった。結構シリアスでほろ苦い終わり方をするんです。作者も「いつか青年誌で『大人になる彼ら』を描いてみたいものです」と言っていて、ファンとしてはそれを心待ちにしている状態ですね。

今川 学園モノなら、ぼくからは『君は放課後インソムニア』を紹介させてください。これはいま一番推したい作品です!

五十嵐 そんなにハマってるんですか?

今川 もうキュンキュンしてますよ。元々『I”s』を読んでキラキラした青春時代に憧れて、でもそれが叶わなくて『ラブひな』で現実逃避をした。で、大人になって高校生活の記憶を改竄するために読んだのがこの作品なんです。

杉本 マンガと自分を重ねすぎてますね(笑)。

今川 いや、これを読んでいると、「こんな高校生活があったんじゃないだろうか」って温かい気持ちになれるんです。それくらい素晴らしい。主人公とヒロインはともに不眠症で悩んでいて、たまたま一緒にいると気持ちよく眠れることに気付くんです。その流れで天文部を復活させて、ふたりきりの部活をスタートさせる。

五十嵐 不眠症なのは主人公とヒロインだけ?

今川 そう、ふたりだけ。それぞれ異なる理由で不眠症なんです。

川戸 それで結局は恋愛関係になっていくんですか?

今川 なっていくんですよ。そもそも一緒にいると安心して眠れるっていう関係なので、気持ちは許しているわけ。だから、見ている側からすれば、すぐにでも付き合っちゃえば良いのにって思うんだけど、そんな微妙な関係がしばらく続いていて。

五十嵐 すごいもどかしい!

今川 少しずつ距離が縮まるんですけど、それが非常にゆっくり描かれていくんです。お互いに意識してるのになかなか言い出せない感じ。でも、そのもどかしいのがまたキュンキュンして良い。そして5巻のラストで進展があるんですよ!

川戸 めちゃくちゃピュアなラブストーリーじゃないですか。

大人になるにつれて、ラブコメに求めるものが変わる

五十嵐 今川さんのお話を聞いていて思いましたけど、大人になるにつれてラブコメに求めるものが変わっていくような気がしますね。少年時代はちょっと刺激的な作品を面白がる。でも、それなりに経験を積んで大人になると、それ以外の部分に惹かれてしまうというか。

今川 そうですね。『ラブひな』みたいなハーレムものでも、大人になって面白いなと感じたのは『僕らはみんな河合荘』です。高校生の主人公が親の都合で下宿生活をすることになるんですけど、その下宿先にいたのが憧れの先輩である律。周りには強烈なキャラクターがいて、ラブコメが展開されていきます。この作品でも下ネタは描かれますけど、作者が女性ということもあって非常に地に足がついている描写が特徴的なんですよ。

川戸 ハーレムものってラブコメ特有のフィクションですけど、この作品はちょっと違いますよね。

今川 ハーレムものにありがちな下ネタだけじゃなくて、主人公の宇佐くんがバイトしている書生カフェとか宇佐くんとシロさんの掛け合いとかBLっぽい描写も描かれていて、いろんな観点から楽しめるような作品になっているんですよね。しかも、大人になってから読んだので、その状況を俯瞰で読めた。同じ、ひとつ屋根の下設定でも全く別モノになるのが面白いなあと思いましたね。

川戸 ぼくが大人になってからハマったのは、『AKB49~恋愛禁止条例~』かな。まずは設定が見事で、AKB48に男の子が加入したらどうなるのかっていうストーリーなんです。

杉本 え! それってAKB48公認なんですか?

川戸 もちろん、公認です。主人公の実は、好きな子を応援するためにAKB48のオーディションを受けるんですよ。でも、なんと本人がオーディションに合格してしまう。で、女装しながらアイドル活動をスタートさせるんです。

五十嵐 それ、バレないんですか!?

川戸 それはお約束というか(笑)。AKB48の子たちと同じ女子寮で暮らしたり、お着替えしたりグラビア撮影したりもするんだけど、なんとか誤魔化すんです。そのうち、本人にアイドルとしての意識が芽生えていって、人気も出てくる。

五十嵐 ラブコメのなかでもちょっと異色の作品ですね。

川戸 そうそう。始まりが「好きな子のため」っていう気持ちだからラブコメなんですけど、少し変わっている作品かもしれないですね。そもそもAKB48自体が恋愛禁止のグループなので、ラブが展開しようもない。そんななかで淡い恋心を描きつつ、主人公が成長していく物語なんです。

五十嵐 男装した女の子が男のなかに放り込まれちゃうラブコメはしばしば見かけますけど、逆パターンは珍しいですね。しかもそれを実在するアイドルグループで描くのって、すごいチャレンジング!

ラブコメのヒロインたちを「応援したい」

五十嵐 大人になってからラブコメマンガに求めるようになったことのひとつが、「女の子を応援したい」という気持ちなんですよ。それで手に取ったのが『デリバリーシンデレラ』でした。厳密に言うとラブコメとはちょっと違うかもしれないんですけど、昼間は女子大生、夜はデリヘル嬢をしている雅美という子が主人公で、デリヘルの仕事にプライドを持っていて成長していくストーリーで。テーマ的にエロ描写もあるんだけど、それは主題じゃない。それよりも風俗業界への偏見をなくそうと奮闘する姿がとてもカッコよくて、読んでいて応援したくなるんです。

川戸 それでいうと、「レンタル彼女」をテーマにした『彼女、お借りします』も近いかもしれない。女優の卵とかの女の子たちがバイトでレンタル彼女をやっていて、その子たちとデートできるっていう設定なんです。こういう仕事を悪し様に描いていた時代もあったけれど、この作品ではそれを“ふつう”のものとして描いている。ラブコメとしてのお約束も守りながら、なによりも女の子たちがリアルで応援したくなる。これまで読んできたラブコメとはちょっと違うなと思いながらも、登場する子たちに向けて「頑張れ!」って感じている自分に気付くんですよ。

杉本 時代の移り変わりもあると思います。昔は許されていたラッキースケベ的な展開も、最近では「この表現ってポリコレ的にどうなんだろう?」と考えさせられるようになりましたよね。

今川 そう考えると、ラブコメというジャンルでの表現が難しくなってきている気がします。

杉本 その一方でラブコメはあくまでもコメディだから、なにも考えなくても笑えるような、「よし、明日から元気出していこ!」って思えるような作品が生まれ続けてほしいとも思いますね。

五十嵐 ラブコメからいろいろ学ぶこともあるし、なにも考えず元気をもらうこともある。時代に合わせて表現を変えていく必要はあると思いますけど、ラブコメのマンガ家さんたちには面白い作品を描き続けてもらいたいです。

今川 さすがに大人になってからはラブコメで描かれていることを真に受けたりはしないけど、「こういうファンタジーな世界観も楽しいよね」って逃避するのも必要なんじゃないかな、と。

杉本 そういうラブコメを生み出し続けてきたレジェンドが、高橋留美子さんですよ。ドタバタ劇の『うる星やつら』、共同生活モノの『めぞん一刻』、学園ラブコメでもある『らんま1/2』と、あらゆるラブコメを描いてきた高橋留美子さんは偉大。

今川 たしかに! すべての作品は“るーみっくわーるど”から派生しているとも言えます。

杉本 ぼくらはずーっと高橋留美子さんの手のひらで転がされてきたのかもしれない……!

取材・文:五十嵐 大

本座談会の発端になった『ダ・ヴィンチ』3月号では、ラブコメから往年のサラリーマンマンガまで、「男と男のマンガの話」を徹底特集!