室元気「社会に対して『もっと自由でやれよ』みたいな気持ちがあります」【声優図鑑】
更新日:2021/2/9

キャラクターの裏に隠された自分自身をありのままに語る、ダ・ヴィンチニュースの恒例企画『声優図鑑』。第257回目に登場するのは、TVアニメ『ブラッククローバー』のマグナ・スウィング役、『ダンキラ!!! – Boys, be DANCING! 』の夜野零士役などを演じる室元気さんです。
声優活動11年目。最近は声のお仕事だけでなく、DVDや生放送など本人発信のお仕事も多い室さん。中には、室さんにしかできないような衝撃的な内容も!? これまで転機になった作品やこれから発信していきたいことなどを伺いました。
——小さい頃はどんな子どもだったんですか?
室:クソガキですね。「やるな」って言われたことをまずやるし、「こうしろ」と言われたらまず逆からやるような子どもだったと思います。学生時代は、高校で放送部に入ってましたけど、まあお遊びみたいな感じでした。
——声優になったばかりの頃、印象に残っているような作品は?
室:アニメのデビュー作になった『放浪息子』(2011年/谷口役)。1話1話、アフレコで誰が近くに座っていたとか、今でも覚えていますね。
——室さんといえば、『ブラッククローバー』のマグナ・スウィング役。長く続いている作品ですし、マグナは室さんにとってどんな存在ですか?
室:マグナって熱血的でちょっと暴力的なヤンキーなんですよ。だからもう、基本が怒鳴り声みたいな感じで。アニメのオーディションで初めて受かった役ですし、3年間演じていると“相棒”感がありますね。
——マグナ、どんな相棒なんですか?
室:自分のなかで像を作りながら演じているので、都合のいい像ではありますけど、心が折れちゃってるときとか「もうダメ」って凹んでいるときに、「まあ、やれや」と奮い立たせてくれるような。収録ってもう始まる前から、だいたい心が折れているので。そういうときに「まあ、がんばれ」と心を持ち上げてくれるというか。イマジナリーフレンドみたいな感じです。

——いい関係ですね! 他にも、これまでのお仕事で転機になっているような作品は?
室:『ダンキラ!!! – Boys, be DANCING! 』(2019年/夜野零士役)っていうゲームかな。ゲームの収録ってあんまり多くないんですけど、『ダンキラ』は1年以上続いたし、追加のお仕事もあって、1つのキャラクターをここまで長く、よく考えて演じる機会がそんなにないので。零士はキャラクターとしても好きですし、『ブラッククローバー』のマグナと『ダンキラ』の零士は、自分のなかでも特別っていう感じがありますね。
——零士にどんな思い入れが?
室:普段の演技はできるだけ指示通りに演じますっていう感じで、自分で「こうしたい」って思うことがあんまりないんですよ。でも零士の場合は、家族っていうのが彼のキーワードになっているところもあって、それを吐露するシーンで「絶対にこうしたい!」という想いがあって、演じる前にディレクターさんとディスカッションしたんです。めずらしく自分から意思表示をした役で、それもあって思い入れが強くなりました。
——室さんは吹き替えのお仕事も多いですが。もしアニメファンに吹き替え作品をおすすめするとしたら、どんな作品?
室:少し前に『SMASH』(2012〜2013年/エリス・ボイド役)っていう海外ドラマがあって、ミュージカルが作られるまでのお話なんですけど、やっぱり外国のミュージカルってすごく華やかなんですよね。正直、「そこで歌は必要なの?」って気になってしまうので好きじゃなかったんですよ。でもこの作品では、曲を練習するシーンから、そのまま歌う場面に入っていく…みたいな流れがあって、スッと歌に入っていけたし、作品としても面白かったのでおすすめですね。
——ちなみに、映画は見るほうですか?
室:まったく見ないです。10分以上、同じものを見ていることに耐えられなくて…。面白くても飽きちゃうんです。『たそがれ清兵衛』とかは、そろばんを弾いてるシーンでギブアップしちゃって……。
——チャレンジしてみたものの(笑)。そんな室さんでも夢中になれた作品があったら伺いたいのですが。
室:『デスパレートな妻たち』はずっと好きで観てました。地元の宮城ではあんまり映画をやってなかったので、NHKで流れている海外ドラマはちょこちょこ見てたんですよ。『ダーマ&グレッグ』とかも好きで、夢中になってましたね。

●「え?」って思われるようなことをいっぱいしたい
——オフの日はどんなふうに過ごしていますか?
室:何もしていない…横になってます。僕ヒマで、基本休日みたいなものなので…ただ天井を見つめています。
——よく会う声優さんは?
室:特に誰とも関わりがありません。
——Twitter、おもしろいですよね。
室:Twitterは…「無」ですね。呼吸みたいな感じです。なんでTwitterやってるんですかね。きっと宣伝のつもりだったんですけど。大事なのは、フォロワーさんの中で、何人が物を買ってくれるかってことですね。
——趣味なんかはどうでしょうか。
室:ないんですよね。何か作ったほうがいいんでしょうか。事務所に入るとき、趣味が何もないのもどうかなと思って「京王線」って書いたんですけど、それまで住んでいたところの沿線だったというだけで。一生懸命考えましたけど、取り立てて好きかって言われるとちょっと…。今はもう引っ越しましたしね。
——(笑)。いろんなお仕事があるなかで、これから力を入れたいと感じるようなジャンルはありますか?
室:最近はけっこう顔出しのお仕事があって。この前は“自宅丸写し”のDVDを出していただいたりもしました。また別番組では作詞をさせてもらったりとか。他にも某番組の企画では「お行儀のわるい声優ファンをぶっ飛ばす」みたいな企画を(笑)。そういう「え?」って思われるようなことをいっぱいしたいですね。
——企画は室さん発信なんですか?
室:もちろん話し合いの上ではありますけど、自分発信であることがよくありますね。声優さんって、他人事みたいになっちゃうけど、会社に所属している以上いろんな制約があるじゃないですか。あんまり変なことしちゃいけないとか、反社会的なことしちゃいけないとか。私の場合は声優としての格がカス以下なので、なんでもやってもいいとお目こぼしをいただいてる状態なんです。
——お目こぼし(笑)。番組の反響はどうでした?
室:「大丈夫?」って言われました。他にも、顔出し映像でいろいろあって、「声優を10年間やってきて許せなかった人は誰ですか」っていう年表を作ったりもしてるんですよ。
——え、実名で…?
室:映像では見えないようになってましたけど、その場にいたスタッフさんには見えています(笑)。そこに書かれた人たちが仕事を辞めるとき「お礼参りをする」っていうリストだったんですよ。そのときは「誰だ?」っていう反響がいくつかありましたね。今は言えないけど、その人が辞めてしまったときをお楽しみに…そこで答え合わせができるかなと。
——世の中のタブーに挑戦ですね。
室:そうですね。どんどん反社会的なことをしていきたいと思ってます。

——次に思い浮かんでいる企画はあるんですか?
室:僕は好きな男性声優が7人いるんですけど、その人たちを養って集落を作るっていうのが僕の最終目標なんですよ。山梨とか、土地が現実的に買えそうな土地を切り拓いて、インフラを整えて。トラックやミニバンを運転できるようにして送り迎えすれば、向こうも仕事ができるし、こちらも欲求を満たせるしっていう集落ですね。
——それは…まるで天国のような暮らしですね。
室:みなさんはどう考えてくれるかわかりませんけど、僕にとってはそうですね、天国ですね。
——他にも実現したいことは?
室:作品を作るのはいいですね。僕、年間に100冊くらいBLの漫画を読んでるんですよ。だから、そういう系のコンテンツを一つ作れたらいいなあと思います。
——次々と思いつくんですね。やっぱり表現することが好きなんですか?
室:それが、本当に好きで実現してみたいのか、社会に反抗しているだけなのか、自分でもわからなくて…。でも、社会に対して「もっと自由でやれよ」みたいな気持ちはありますね。

——なるほど。ではもし室さんがもっと自由になれたら…? 声優のお仕事は続けてますか?
室:僕が自由になれたら…需要があれば声優業はやめてないと思いますけど。だいたいこの先、5年も生きてるんですかね?
——それは…神のみぞ知る、ですね。
室:コロッと病死してても何も不思議じゃないですけどね。孤独死してるのが見えます、大好きな天井を見ながら(笑)。そんな気がしますね、それが自由と言える気もします。
——最後になりますが、読者に伝えたいメッセージをお願いします。いつも予想外のことを実現してくれる室さんの次の手を楽しみにしている方も多いと思うのですが。
室:僕に興味を持ってくれている人って、疲れてる人が多いんですよ。社会の軋轢とか人間関係とか。私も同じように、何も楽しいことが思い浮かばなくなったらどうしよう、っていう恐怖がやっぱりあるんですよ。だから、お互い常に恐怖は感じているし、突然死することがあるかもしれないけど、とりあえず生きていようっていう。それまではお達者で。
——Twitterなどで交流することもあると思いますし。生存確認をしてもいいわけですね(笑)。
室:ははは、そうですね。誰に対しても気軽に返事をすることが多いので。アイコンと名前さえ変わっていなければ、久々のコメントだったりすると「おっ!」と思いますからね。「生きとったんか、お前!」ってそのまま返しちゃいます(笑)。そういうとき、生きててくれたのか!ってピリッとしますよね。
——室さん、ありがとうございました!
次回の「声優図鑑」をお楽しみに!

室元気
◆撮影協力
撮影=山本哲也、取材・文=麻布たぬ、制作・キャスティング=吉村尚紀「オブジェクト」