自分の中の『よつばと!』に気づく3つのキーワード②よつばとよつばをとりまく大人たち――雑誌『ダ・ヴィンチ』2008年3月号の「よつばと!特集」を特別公開
更新日:2021/6/30

約3年ぶり、『よつばと!』最新15巻発売を記念して、雑誌『ダ・ヴィンチ』2008年3月号に掲載した「あなたのこころの“よつば”は元気ですか? 大人になった今だから、『よつばと!』」特集を大公開!
自分のなかの『よつばと!』に気づく3つのキーワード
天衣無縫の不思議少女・よつばのまわりには、存在感あふれる“大人”たちがいっぱい。ごくごく普通の人たちが、よつばと出会うことで、ちょっとだけ優しくなれる。『よつばと!』のすこやかなユーモアの底には、そんな独特の世界観が流れている。ここでは、そんな“大人”たちとの関わりを、各巻のエピソードとあわせて紹介。
第1巻


ちきゅうおんだんかでいろいろ大変です
恵那から「クーラーは地球の敵だ」と聞いたよつば。クーラーを使うと「ちゅきゅうおんだんか」で、地球が大変なことになってしまうらしい。よつばは、悪のクーラーから地球を守るべく、駆けまわるのだが……。勘違いから話がどんどん展開していく、ユニークなエピソード。地球温暖化は、この後もしばしばネタとして登場します。


やっぱりとーちゃんはすげー‼


デパートで買い物をした帰り道、偶然通りかかった、神社の参道。「見に行きたい!」とはしゃぐよつば。結局ふたりは、階段上り競走をすることになってしまう……。よつばの突然の思いつきに、ちゃんと真正面からつきあってあげるとーちゃん。よつばが言うように「やっぱりとーちゃんはすげー‼」のです。
第2巻

ふくしゅうからはなにも生まれない


家に遊びに来ていたジャンボ&とーちゃんと一緒に、映画を観ていたよつば。その内容はというと、ちょっとしたハードボイルド風のアクション映画。すっかり感化されてしまったよつばは、おもちゃ箱から水鉄砲を引っ張りだして……。よつばのイタズラに、ちゃんと乗ってあげる周りの大人たち。しかも最後は、タメになる教訓で〆。
イタズラしても「どんまい!」

覚えたての言葉は、やっぱり自分でも使ってみたくなるもの。徹夜明けでハイテンションなとーちゃんは、よつばの失敗に「どんまい!」を連呼する。Don’t Mind=「気にするな」ってこと、便利な言葉を覚えたよつばは、そのあと、トンでもない活用法をするのだが……。落書き顔のままで、外出してしまうとーちゃんが、少しかわいそう?
第3巻

タバコをすうのは、なんで?

綾瀬家の玄関先でばったり出会ったのは、あさぎの友人である虎子。この作品では珍しい喫煙者だが、タバコを吸う理由をよつばに聞かれた虎子は……。こんなふうに、ちょっと気の利いた会話が交わされるところも楽しい。
おぼんの日の出会い

「お盆は死んだ人が帰ってくる日」。そう聞いたよつばは、町の人に花を配ったあと、偶然立ち寄った公園で知らないおばちゃんと出会う。よつばの突拍子のない質問に、驚くおばあちゃん。でもそのあと、ちょっとしたイタズラ心を見せたりして……。どんな脇役にも、ちゃんと存在感があるところも『よつばと!』の魅力のひとつだ。
第4巻

まったくおとなは!!

よつばとじゃんけんをしてパーをだすと約束しながらグーをだす、とーちゃん。思わずよつばは「おとなは!まったくおとなは!!」。違う場面で、同じセリフを繰り返す手法も。『よつばと!』らしいユーモラスなポイント。
くるしいのは心

好きな男の子に彼女がいることを知って、大ショックの風香。そんな風香をなぐさめようと、奔走するよつばだが……。結局、風香の失恋を、かーちゃんやあさぎに言いふらしてしまう結果に。でもそれも彼女のかわいいところ。
夏の日のはっけん


どこでどう間違ったのか。「つくつくぼうし」を“夏を終わらせる妖精”だと勘違いしていたよつば。三角の服&三角の帽子でコスプレをして、夏をちょっとだけ終わらせるために。いざ出動……しかし、あさぎと出かけた近所の土手で、彼女は本物のつくつくぼうしを発見する。そんな小さな発見も、よつばにとっては大事件。
第5巻

こどもの夢をこわさない

いつものように恵那のところに遊びに行ったよつばは、そこでカッコいいロボットと遭遇する。彼の名前は、ダンボール製の「ダンボー」。初めて見るロボットに大興奮のよつばだが……。困った様子のみうらもキュート。
いいやつ? わるいやつ?

これまでのセリフの端々に出てきた「ヤンダ」が、ついに初登場。とーちゃんが買い物に出かける隙に、無理矢理上がり込もうとするヤンダに、よつばは警戒心剥き出しで対抗する。子供がふたりいるみたい……。
とーちゃんの優しさ


海水浴にやって来たよつばは、体力が0になるまで、ひたすら大はしゃぎ。意識を失うように眠り込んでしまったよつばを、とーちゃんは電車までおんぶして連れ帰る。とことん、よつばの遊びにつきあうとーちゃんの、優しさあふれる夏の終わりかけのエピソード。
第6巻

こどものしごと

いよいよ夏休みも最終日。宿題を写すため、恵那の部屋にやってきたみうらは、よつばに宿題を「子供の仕事だ」と説明する。自分も仕事をやらねばと、よつばはいらなくなったモノを使って、リサイクル工作に挑戦!
めいしがない

唐突にネクタイ&スーツで登場する、とーちゃん。さらに、スーツ姿の風香とあさぎが現れ、名刺交換を始める3人。と、これはあくまで夢の話。たけど、よつばが大人の世界をどんなふうに見ているかがわかって、ニヤリ。
初めての遠出


風香に牛乳を配達すべく、買ってもらったばかりの自転車に乗って、外へ飛び出したよつば。だけど、外には危険がいっぱい。急坂でへこたれたり、見たことのない景色に驚いたり。よつばの世界はどんどん広がっていく。

約束をやぶったら……
とーちゃんに無断で、一人で自転車で外に出かけてしまったよつばは、当然のごとく、大目玉を食らう。子供を叱らなければいけないときには、ちゃんとゲンコツでゴツン。ふらふらしているようで、ちゃんと“大人”をやっているとーちゃん。そんな、厳しいようで実は優しい大人たちに囲まれて、よつばはすくすくと育っていくのだ。
第7巻

はじめてのおつかい

とーちゃんに頼まれて、昼食を買いに初めてひとりでお買い物。近所のコンビニなら大丈夫、そう思ったら大違い。やっぱりよつばは、トンでもない騒動を繰り広げて……。このエピソードで見ものなのは、よつばが入るコンビニのおばちゃん。親切なようで、ちゃっかり商売しているあたりが、大人な感じだったりします。
世界の広がりと時間の流れ そのゆったりとしたテンポ
いつだって唐突で突拍子がなくて、まるでエネルギーの塊のような、よつばのオカシな行動の数々。ときに危なっかしいところもあるけれど、でもそれを笑って見ていられるのは、周りにいる“大人”たちが、よつばをしっかりと見守っているからこそ。
育ての親であるとーちゃんはもちろんのこと、友人のジャンボや綾瀬家のかーちゃん、あさぎに風香、あるいはちょっとだけ顔を出す町の人々。彼らはいつでも真正面から――ときに優しく、ときに厳しく、よつばの姿を見守っている。そしてよつばは、そんな大人たちと交流することで、ちょっとずつ“世の中”のことを覚えていく。
そう、『よつばと!』の最大の魅力は、なによりも人と人の絆――そしてその先にある広がりを、しっかりと描ききろうとしているところにある。人は、いろんな“他者”と出会い、そして世界のことを知る。そんな当たり前のことを、当たり前に描いているからこそ、『よつばと!』はこれほど多くの人の支持を得ているのだろう。
そんな『よつばと!』の世界観は、例えば時間の描き方にも、はっきりと現れている。第1巻から第7巻までの間に流れている“作中時間”はわずか2か月。月刊連載の作品としては、異例なほどゆったりとしたペースだが、そこから、日常のささやかなエピソードを、丁寧にかつ繊細に拾い上げていこうとする、作者の確固たる意思を感じる。ささやかな日常が積み重なっていくことで、大きな時間の流れができる。そのミニマルな感覚もまた『よつばと!』ならでは、だ。
構成協力・文=宮 昌太朗
(『ダ・ヴィンチ』2008年3月号より転載)