お嬢様とギャル、ふたりのJKがひたすら喋りまくるだけなのに、なぜかハマってしまう『フードコートで、また明日。』
公開日:2021/3/17

会話劇形式のマンガを読んだことはあるだろうか? 決して珍しいジャンルではないものの、アクションやホラーなどに比べると派手な展開が少ないため、なかには「面白くなさそう……」と食わず嫌いをしている人もいると思う。けれど、それは大きな損! 物は試しで、読んでみてもらいたい。
会話劇のキモとなるのは、文字通り、登場するキャラクターたちの「会話」だ。ときにはバカバカしいくらいくだらないことをテーマに、延々と喋り続ける。突拍子もないイメージと絡めながら広がっていく会話の様子を見ていると、ある種、他人の思考回路を覗き見しているかのような感覚にもなる。そして、それが会話劇の醍醐味だ。
もしも、まだ一度も会話劇形式のマンガに触れたことがない、という人がいたら、その入口として読んでもらいたい作品がある。『フードコートで、また明日。』(成家慎一郎/KADOKAWA)だ。
本作の主人公は和田と山本、ふたりの女子高生。ストレートの黒髪と物静かな雰囲気を漂わせる和田は、一見、お嬢様っぽく見える。その影響か、校内では孤立してしまっている。
一方の山本もタイプは異なるが、状況は同じ。髪の毛を盛り、肌も焼いているように見える彼女は「ギャルは怖い」という理由から、誰からも話しかけられない立ち位置にいるのだ。

見た目の印象だけで判断されてしまうなんて、なんだかふたりが可哀想。……と思いきや、本人たちはそんなことを一切気にしていない。なぜなら、和田と山本は放課後になるとフードコートで落ち合い、ふたりきりで思う存分喋りまくる時間を満喫しているから。
そう、本作はフードコートで繰り広げられる、和田と山本の会話を主軸にした物語なのだ。

読み進めていくと、まず驚かされるのが和田と山本のキャラクターだろう。優等生のように見える和田は、実は非常に口が悪く、飽きやすくて怒りっぽい性格の持ち主。暴走寸前のマシンガントークを繰り出し、山本の反応に一喜一憂する。表情がコロコロ変わるため、見ていて飽きない。
対して山本は、成績は優秀な上にバイトもこなすという頑張り屋さん。喜怒哀楽が激しい和田を常に冷静に見つめており、クールな言動が特徴的。突っ走る和田にツッコミを入れることも忘れない。
とてもチグハグなふたり。だけど誰よりも仲が良く、お互いを思い合い、必要としている。その仲良しっぷりを見ていると、自然と読んでいるこちらも笑顔になってしまう。
会話の面白さは、もちろんお墨付きだ。SNSで炎上したときの後始末の方法にはじまり、どんな見た目でいたいのか、ソシャゲのキャラへの愛憎、彼氏を作ることの是非、最後に泣いたのはいつか……。どれもこれも等身大の話題であり、非常にリアルな内容だ。しかも、途中で予想もしなかった方向へと転がっていき、見事に着地する。考えてみれば、ぼくらが普段友人とする会話も、案外中身がなかったり、二転三転したりするもの。だけど、ただ喋っているのが楽しいこともある。なにかを求めるのではなく、お喋りしながら大切な人と同じ時間を過ごす。その楽しさや愛おしさ。本作にはそんな感情が詰め込まれている。
特にふたりの想いが明確に描かれているシーンがある。
小学生時代のクラスメイトである男子に出会い、しかも彼が昔自分のことを好きだったことを知った和田。もしかしたら告白されるかも、と有頂天になり、なんと山本をぞんざいに扱ってしまう。そのままふたりは仲違いをすることに。
けれど、やはり互いのことが大事だと気づいたふたりは、本心を打ち明け、あっという間に仲直りする。そのとき、山本が言うのだ。
「正直な話イヤじゃん 自分の一番仲良い友達を ぽっと出の男に取られんのって」

それまで女子高生がダラダラとお喋りしているエピソードが続く本作も、この山本のセリフで一気に盛り上がる。同時に、素直に喜んで見せる和田にもグッと来る。そしてあらためて認識させられるのだ。ふたりにとって、互いの存在がかけがえないものなのだ、と。
予測不能な方向へと転がり続ける会話を展開させつつ、胸が温かくなるような友情も見せてくれる本作。ページを捲れば、和田と山本の間に流れる空気感にすぐ引き込まれるはずだ。
文=五十嵐 大
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