クマのダイエットにライオンの爪切り……動物が快適に暮らすために飼育員はどんな工夫をしているの?
公開日:2021/4/1

肥満になりやすいクマ、聴覚が鋭いせいでストレスを抱えがちなキリン、足の病気によって命を落とす危険があるゾウ。
動物園に生きる動物たちは見ているだけではわからない悩みをたくさん抱えている。私たち人間は、つい彼らのことを「動物園にいるから野生の動物より幸せ」と思ってしまいがちだが、彼らが快適に暮らすためには人間の配慮が必要なのだ。そのための工夫を「エンリッチメント」という。
『クマが肥満で悩んでます 動物園のヒミツ教えます』(sirokumao/KADOKAWA)はフルカラー漫画で、13種の動物ごとに事例が紹介されている。
まずはタイトルにもなっているクマ。彼らの多くは肥満体質だ。サファリパークや動物園など、どんなに広い敷地にいても、食べ物を与えれば堕落し太ってしまう。人間はそれを避けるために工夫する。
“サファリパークの広大な敷地にクマたちが好きな木や緑の草、果物などを栽培。昆虫が発生しやすいように朽ち木をいたるところにセット!”
自然にクマが食べ物を探せる環境を整え、様子を見ながらエサを減らし、自然の食べ物に慣れていってもらう。ただ、食べ物を探し回ると運動量が増えるので、クマが痩せすぎないように注意することも不可欠だ。
環境を整えると、飼育されたクマの様子は野生のクマに似てくる。一年のサイクルが整い、肥満防止だけではなく換毛も繁殖もしやすくなるのだ。
文章で説明すると「ややこしそう」と思えることも、本書は可愛らしい絵柄で描かれているのでわかりやすい。
他の例を挙げると、ライオンの爪切り問題も興味深い。読む前は「ライオンの爪が長いと人間を傷つける危険があるから必要なのだろう」と思っていた。ところが読み進めると、ライオンの安全のためにも爪切りは非常に重要なことがわかった。
野生のライオンと異なり、運動不足になりがちな動物園のライオン。爪が長いといろいろなトラブルの原因になる。
“その内の1つが 爪が削れず伸び続ける
爪が伸びすぎると肉球に刺さってしまうこともあります”
若いライオンには高いところに登ってもらう。または爪とぎを設置することがある。
筋力の落ちた高齢のライオンはよりいっそうの気遣いが必要だ。その一つが、ホイッスルを使った方法。ライオンが手を出したら飼育員がホイッスルを鳴らし、直後に肉を渡す。そのままじっとしていられたら再び鳴らして肉を、というふうに爪切りができる状況を入念に作っていくのだ。
本書では、こうした工夫を行っている人たちのモチベーションを上げ、エンリッチメントに取り組む動物園・水族館を応援するための「エンリッチメント大賞」が紹介されている。これは動物の飼育員だけではなく市民も応募できる。運営は動物園を応援するボランティア「市民ZOOネットワーク」で、著者はそこでスタッフを務め、エンリッチメント大賞では現地調査と最終選考のプレゼンなどを担当しているそうだ。
“現地調査も難しいけれど動物園や水族館の飼育員さんの頑張りを知ることができるのはとても楽しいのです”
作中では章ごとにいろいろな動物を取り上げている。それぞれの章の最後にはエンリッチメントに取り組んでいる身近な動物園、水族館、サファリパークなどの紹介がある。
本書を読んだ後、動物園に行くと動物たちを見る目が変わる。それと同時に、動物園の飼育員さんたちの努力も、自然と浮かびあがってくるだろう。
文=若林理央