末晴と哲彦の何でも言い合える関係は、僕らと似ているかも──『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』松岡禎丞×島﨑信長インタビュー
公開日:2021/4/14

いつの頃からだろう、「幼なじみ=負けヒロイン」の図式ができたのは……。子どもの頃から主人公の隣にいたのに、いつのまにか他のヒロインにかっさらわれる。ずっと彼を支えてきたのに、不遇な当て馬ポジションに追いやられる。そんな暗黒時代に終止符を打つべく、冷遇され続けた「幼なじみヒロイン」の復讐(リベンジ)が今、始まる! さあ、全国ウン千万の幼なじみラバーよ、立ち上がれ──!!
4月14日スタートのTVアニメ『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』(通称『おさまけ』)は、タイトルどおりだと、幼なじみが“負けない”ことが約束されたラブコメディ。と言っても、そう簡単に事は運ばない。小悪魔系幼なじみ・志田黒羽、クールビューティーな女子高生作家・可知白草、若手人気女優の桃坂真理愛の3人が、主人公の末晴をめぐって大激突! さらに、ストーリーが進むと、衝撃的事実も……!?
そんな『おさまけ』の魅力をキャストの対談で深掘りしていく。今回は、主人公・末晴役の松岡禎丞さんと、その親友・甲斐哲彦役の島﨑信長さんが登場。プライベートでも親しいふたりは、『おさまけ』でも息ぴったりの演技を披露。それぞれが演じたキャラクターの印象から演技論まで、深く語っていただいた。
「幼なじみと言えば、やっぱり『起きなさいよ!』ですよね」(松岡)
──『おさまけ』は、冷遇され続けた幼なじみヒロインに光を当てた作品です。おふたりは、幼なじみヒロインにどんな印象をお持ちですか?
松岡:幼なじみと言えば、やっぱり「起きなさいよ!」ですよね(笑)。
島﨑:ああ、朝起こしに来てくれるっていう定番のイメージね。
松岡:隣の家に住んでて……。
島﨑:ご飯を作ってくれて……。
松岡:夢物語ですよね。僕は昔から、幼なじみヒロインは好きです。
──印象に残っている幼なじみヒロインはいますか?
松岡:『メモリーズオフ』の桧月彩花。僕が初めて買ったギャルゲーの幼なじみヒロインですね。
島﨑:僕が幼なじみのイメージにぴったりだなと思うのは、『SHUFFLE!』の芙蓉楓かなぁ。
松岡:来たね!
島﨑:でも、幼なじみヒロインってやっぱり不遇ですよね。急に現れたライバルにかっさらわれていくじゃないですか。バトルものだと、日常側の幼なじみと、非日常側の鮮烈なヒロインがいたりするでしょう? 大抵、主人公は非日常側のヒロインに心を奪われて、それまでずっと支えてくれた幼なじみは負けてしまう。僕としては、あれだけ尽くしてくれた相手のほうこそ大事にしたいなと思うんですよ。家族ぐるみでずっと付き合いがあって、朝起こしに来てくれたり、ご飯を作ってくれたり、場合によっては勉強を教えてくれたりするのに。
松岡:それを、いきなり横からだるま落としみたいに、ねぇ。
島﨑:かっさらわれていくんだよなー。
──『おさまけ』ではタイトルどおりに、幼なじみが“絶対に負けない”展開が期待できますか?
島﨑:幼なじみポジションは、クロ(志田黒羽)ですが、シロ(可知白草)もマリア(桃坂真理愛)も実は……。果たして、クロが最終的に勝つのかどうか……。
松岡:ただ、白と黒と桃色を全部混ぜると、最終的に黒になるからね。
島﨑:確かに。全部黒に染まる……のかも?
「哲彦は、いろいろな事情や目標を抱えた裏主人公のような存在」(島﨑)
──松岡さんはヒロインたちの中心にいる末晴役、島﨑さんは親友の哲彦役を演じています。役柄については、どんな印象を抱きましたか?
松岡:末晴は、すごく共感できる男の子です。気恥ずかしさから出たセリフも「ああ、そういうこと言っちゃうよね。わかるなー」と共感しましたし、特に彼と同世代の男の子には刺さりそう。重いバックボーンを抱えていますが、まっすぐに生きている子だと思います。
島﨑:メインキャラの中で、唯一まっすぐだよね。ほかは全員、知略智謀をめぐらせているから。
松岡:そうそう。そう考えると、ほかのキャラは……。
島﨑:全員ひと癖もふた癖も……いや、3癖ぐらいあるかな。
──女子がみんな強いですよね。
松岡:素直じゃないんですよね。
島﨑:そうなんだよね。でも、みんなが素直だったら、この話1話で終わるから(笑)。そうなったら、そのまま哲彦編をやるしかなくなっちゃう(笑)。
──哲彦役はいかがでしたか?
島﨑:第1話の収録時に、原作者の二丸修一先生から設定資料をいただいたんです。裏設定もしっかり書いてある資料でしたが、読んでみたら半分くらい哲彦の話でした。原作を読んで、哲彦はいろいろな事情や目標を抱えた裏主人公のような存在だなと思っていましたが、裏設定を読んでさらに「え、そんなに!?」「あー、そういうことだったのか」と感じることがとても多くて。今回のアニメでは、哲彦の裏事情は3割ぐらいしか明かされないと思うので、早くも2期に期待しています(笑)。
──そういった裏設定もイメージしたうえで、役作りをするのでしょうか。
島﨑:裏設定はあっても、哲彦はそれを表に出すタイプでもないので。基本的には「なんだ、このろくでなしは」と思われるような、ヘラヘラした男。たまに鋭いことを言うけれど、基本的にはダメで悪いヤツですね。演じていて、すごく楽しいですね。
松岡:つかみどころがないよね。
島﨑:急に「おっ!」となる部分を覗かせてくるので、「どういうヤツなんだろう」と思うよね。哲彦のような友人ポジションって、大抵そこまでストーリーにがっつり関わってこないじゃない? でも、『おさまけ』における哲彦は、なかなかに重要なポジションなのが面白いですね。
──それぞれのキャラクターを演じるうえで、ブレないようにした軸、大事にしたポイントはありますか?
松岡:末晴と同世代の方はもちろん、大人が見ても「ああいう気持ち、俺にもあったな」と思ってもらえるよう意識しました。年相応にへにゃっとするところもありますが、目標に向けてストレートに突き進んでいく。どの世代にも刺さるような感じを目指しました。
──高校生の気持ちを、どうやってリアルに表現していったのでしょう。
松岡:基本設定を頭に叩き込んだら、あとは流れに身を任せています。そうすると、自然な掛け合いができるので。どの現場でもそうですが、流れに身を任せた結果、家で作ってきた演じ方とはまったくの別物になることも。相手の演じ方、言葉の投げ方によってこちらも受けて返していくので、その流れを大切にしています。
島﨑:僕の場合もそうですね。だから、あまり「こうやってこうやって、こうしよう」と用意しすぎないようになってきました。もちろん事前に準備はしますが、決めすぎると結局頭の中で考えただけの演技になってしまうので。せっかく一緒に掛け合って録らせていただけるのですから、自分の中で固めすぎたり決めつけたりしないようにしています。
──おふたりは共演回数も多く、プライベートでも親しいですよね。そういう相手だと、掛け合いでも独特の空気が生まれたりするのでしょうか。
松岡:どの役者さんでも、1クールや2クールの共演経験があれば大体の目安ですが、脳内で疑似掛け合いができるので、自宅で練習する時もやりやすいです。でも、それは「あの人だったらこうするだろう」という想像にすぎないので。ベーシックな土台をちょっと柔らかめに固めておいて、あとは現場でクレイを作りあげていきます。
島﨑:松岡禎丞という役者は、いい意味で想像を裏切ってくるんですよ。毎回ハードルを越えてくるし、意外性のある役者だから、共演するたびに新鮮な驚きを感じますね。
松岡:そんな褒めないでよ。クレジットカードしか出せないよ。
島﨑:十分すぎるよ(笑)!
松岡:そういう意味では、信長も予想を超えてくるよね。第1話の収録で「信長、めっちゃフランクに哲彦を演じるじゃん」って思った。
島﨑:ああ、言ってたね。
松岡:それで、「俺もそれで行きたい!」って軌道修正がかかって。
島﨑:逆に、僕は禎丞の演技を聴いてちょっとテンションが上がった。第1話の哲彦は、すごく力が抜けてリラックスしていたけれど、末晴は動揺したり気張ったりするシーンが多くてずっとワタワタしていたじゃない? お互いが歩み寄っていった感じがするよね。
松岡:教室で、ふたりがバカ話してるシーンが好きですね。
島﨑:THE日常だよね。



「末晴と哲彦は“お互いさま”だから親友でいられる」(島﨑)
──作中の末晴と哲彦の関係については、どう捉えていますか?
島﨑:お互いに、代わりがいないんでしょうね。ほかにいないもんね、同性の親友は。
松岡:ほかは「ギルティ」「ギルティ」言ってるヤツらばっかりだから(笑)。
島﨑:ぱっと見ると、哲彦が末晴を理解して、うまくコントロールしているように思うかもしれませんが、意外と哲彦は末晴に甘えているんですよね。末晴はまっすぐで、いい意味で鈍いところもあるけれど、察しが良い部分もあって哲彦の深い事情にまでは強引に踏み込みません。本人には言わないですけど、哲彦は末晴にすごく感謝していると思います。まあ、末晴は末晴で哲彦をありがたく思っている部分もあるだろうから、お互いさまですけどね。だから親友でいられるんだと思います。
松岡:末晴も、哲彦という存在に感謝していると思います。なんだかんだ言って、末晴は哲彦を頼りにしていて、普段の会話からも、それがにじみ出ています。「ほんとクズだな!」みたいなことも、頼っていないと言えませんよね(笑)。
島﨑:仲良くないと言えないもんね。
松岡:いい人間関係だと思います。哲彦だったら、何を言っても許してくれる。それが今後どうなっていくのか、気になるところです。
──このふたりの関係性と松岡さんと島崎さんの関係性で、重なる部分はありますか?
松岡:僕は、信長になら何でも言える(笑)。その点は似てるかもしれないです。
島﨑:僕らはあんなに煽り合いはしませんが、関係性は近いかもしれない。照れくさいけど親友っていう間柄だから、あのふたりの関係との共通点も多いと思います。
松岡:僕、フランクに話せる相手が少ないですから(笑)。
──その筆頭が島﨑さんなのでしょうか。
松岡:そうですね。
「声優の仕事は、てっぺんの見えない氷山を登っている感覚」(松岡)
──おふたりは同期ですし、親友でもあります。先ほどもお話ししていたように、演技のうえでもお互いに意外性を感じて、刺激を与え合っているようですね。
島﨑:本当に、昔から禎丞にはいい刺激をもらっていて。禎丞がいなかったら、少なくとも僕は今のポジションにはいなかったと思います。もっと具体的に言えば、禎丞がいなかったら今ほど仕事がなかったと思う。
──なぜ、そう思うのでしょうか。
島﨑:僕は比較的ポジティブなほうですけど、それでも人間ってやっぱり自分がうまくいかなかったり、自分が欲しかった役を誰かがオーディションで獲得したりすると、本当は自分が力不足なだけなのに別のところに理由を探してしまうんですよ。「あれはたまたまだ」とか「世の中が悪いんだ」といろいろなもののせいにしようとして。でも、禎丞が活躍しているのを見ても、まったくネガティブな感情が湧かないんです。素直に「すごいな」と思うし、本人を知るほど禎丞の演技からいろいろなものを受け取れます。「俺も頑張んなきゃ」って素直に思えるんですよね。哲彦と末晴もそうだけど、「あいつの横に立たなきゃ」って。
──松岡さんの横に立てる自分でありたいと思うわけですね。
島﨑:そうです。もし禎丞がいなかったら、なにかしら理由をつけて相手の位置を自分のところまで引き下げて、並んでいることにするような役者になっていたかもしれない。本当に、禎丞に対しては素直に「すごいな」と思って見上げて、「俺もその横に行かなきゃ」となるんですよね。
松岡:話を聞いていたら涙が……。いや、花粉のせいですけど(笑)。信長がそう言ってくれるのはありがたいんですけど、同時にプレッシャーも感じました。俺たち、今何年目だっけ。
島﨑:13年目かな。
松岡:事務所に所属して10年ぐらいは、「現場になじもう」「とにかく作品を表現しきろう」と思って、オーディションで全部出し切って、落ちて受かってを繰り返していました。とにかく自分の中で、抗うことしかできなくて、ただただ目の前を見て、とにかくやっていくしかなくて。いつまで経っても、現場が怖かったです。その中で、信長はこっちの話を聞いてくれるし、自分からも話を聞いて聞かれて……という関係が、自然とできていました。お芝居の方向性でも共感できることがたくさんあるし、人柄も共感できるし、プライベートでも悩みを相談できる。本当にありがたい存在です。
島﨑:しかも仕事仲間ですからね。言ってしまえばライバルですし、同じ役を取り合うこともあります。それでも、ネガティブな思いを一切持つことなく一緒にいられるのは本当にすごいことだなと思います。
松岡:さっき信長が「相手を自分の位置まで引き下げて」って話してたじゃない? 確かに僕も、最初の頃はそうしていたかも。なにかしら理由をつけて「あそこで噛んだからオーディションに落ちたんだ」とか「どうせ、今ならあの人が受かるんでしょう?」って。
島﨑:そう思っちゃうんだよね。でも、例えば人気のある声優がオーディションに受かったとしても、その人だっていろいろなものを積み重ねて人気をつかんだわけじゃない? 人気込みで、その人の実力なんだよね。
松岡:そうだね。あと、僕らは「先輩に追いつきたい」って言うけど、先輩だって日々前に進んでいますし。
島﨑:みなさん努力を重ねていらっしゃるから。
松岡:先輩が歩いているなら、こっちは走らなきゃ追いつけない。2倍やらなきゃいけないんだよ。
島﨑:でも、先輩もずっと走ってるんだよね(笑)。
松岡:そうそう。追いつけるわけがない(笑)。
島﨑:フルマラソンしてるんだから。
──でも、今ではふたりが追われる立場なのでは?
松岡・島﨑:いやいやいや……!!!
島﨑:後輩がそう思ってくれているとしたらありがたいですけど、僕らとしては前だけ見るのに必死。僕らがこの業界に入った頃の感覚だと、キャリア10年ちょっとなんて、ペーペーですから。まだまだ若手のつもりです。
松岡:とある音響監督に「松岡君、渋くなってきたね」って言われましたが、「やめてください」って返しましたから(笑)。
──気持ち的には、先輩がたを追って走っているんですね。
島﨑:多分、大先輩もそうだと思います。80歳になっても、気持ち的にはどこまでも挑戦者。
松岡:僕としては、ずっと氷山を登っている感覚なんです。つるつるしてうまく登れないし、雲にてっぺんが覆われていて見えない。どこまで登ればいいかもわからない。でも登らなきゃいけなくて。僕も、最近は「今日新しい後輩が来るから、いろいろ教えてあげてね」と託されることがあります。そういう時は、命綱をつけてある程度までは引っ張りますけど、「ここからは命綱がないからね。あとは自分で登り方を考えてね」って。後輩の存在は励みになりますし、同じ現場になったら変なお芝居もできないですけど、僕もいつまで経っても若手なんだよねぇ……。
島﨑:そうだね。立ち止まってる余裕なんてないもんね。
松岡:下手したら、先輩がたは宇宙まで行ってるから。
島﨑:魔界とか別世界に行ってる先輩もいらっしゃるしね(笑)。
松岡:演技には正解がないからね。
島﨑:ほんとそう。
松岡:それに、やればやるほど新しいものを見つけます。技法であったり、声の出し方であったり。知らないうちに、スキルアップはしているんですよ。ただ、新しいスキルを得たとしてもレベル1から始めなきゃいけない。ポイントを溜めて熟練度を上げていかないといけないから。そんなパラメータがずらーっと並んでいます。
島﨑:しかも、そのスキルをあえて使わないように努力することもあって。例えばなにか特徴的なスキルがあったとしても、場合によってはそれが過剰になることも。あえて削ぎ落とした時に出るストレートな演技が欲しいというケースもあるから。
松岡:やれることが増えたからこそ、難しさも増します。
島﨑:足し算も引き算もどちらも大事だし。その時々で、足し引きしていく加減も変わっていくよね。
松岡:俺はたまにリミットブレイクするけど(笑)。
島﨑:そこも魅力のひとつ(笑)。なので僕たちは、その時々で変わる「より良く」を目指して、ずっと研鑽し続けて行くしかないんだろうなあと思います。
取材・文=野本由起